2018年01月16日

保育士の賃金を考える~賃金カーブの改善と保育の質の確保を~

社会研究部 准主任研究員   坊 美生子

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1――はじめに

待機児童問題がクローズアップされる度に、保育士の処遇を改善して人材を確保すべきだという議論が盛んになる。せっかく保育所を整備しても、保育士を確保できないために定員どおりに子どもを受け入れられないケースが相次いでいるからである。政府は昨年12月8日、消費増税による増収分の一部を財源として、2019年4月から保育士の賃金を1%(月3,000円相当)引き上げることを閣議決定した。安倍首相も「他産業との賃金格差を踏まえた処遇改善に更に取り組む」との姿勢を表明している1。では、保育士の賃金は他の職種に比べてどれぐらい低く、その背景には何があるのだろうか。

保育士の賃金については、全職種平均に比べて月10万円程度低いという報道が目立つ2。これは、厚生労働省の賃金構造基本統計調査から全職種の平均月給(同調査の「きまって支給する現金給与額」)3と保育士の平均月給(同)を比べたものである。ただし、保育士は全職種に比べて勤続年数が短いなど条件に違いがあり、単純比較は適当ではないと思われる。本稿では、勤続年数などの条件をそろえた場合、保育士と全職種の平均月給の差額は月約8万円であると試算した。それでも依然差は大きく、保育士確保のためには賃金改善が望まれる。特に、新人時代よりもベテランの方が全職種との賃金差が拡大しており、離職防止のためには、昇給幅を改善することが重要である。また、保育士ニーズは地域によって異なるため、税金を効率的に使うためには、地域差に考慮した配分が求められる。本稿では、このような処遇の現状と背景、今後の処遇改善策について検証したい。

なお、子ども・子育て支援新制度の下で認可保育事業を行う施設には、「保育所」や「認定こども園」、「小規模保育」、「家庭的保育」などがあるが、煩雑さを避けるため、本稿では「保育所等」と呼ぶことにする。また、公立保育所で働く保育士は、地方公務員として各市町村で給料表が定められているため、本稿では検討の対象外とする。
 
1 2017年12月8日の政府与党政策懇談会での発言。首相官邸ホームページより。
2 2017年11月21日 朝日新聞朝刊「保育士、賃金引き上げへ 『無償化より待機児童対策』批判受け」など。
3 基本給、職務手当、通勤手当、家族手当、残業代などが含まれる。手取りではなく、所得税や社会保険料などを控除する前の額。
 

2――保育士不足の要因

2――保育士不足の要因

保育士は子どもにも人気の職業だが、なぜ、なり手が少ないのだろうか。厚生労働省によると、保育士の専門学校などを卒業しても保育所で働く人は半数に過ぎず、ようやく就職しても、民間保育所では年間12%が離職するという4。保育士の資格を持っているのに保育所等で働いていない「潜在保育士」は2013年時点で約76万人に上る。全国の保育所等で働いている保育士は同年に約43万人であるから、有資格者の約3分の1しか現場で働いていないことになる。保育士不足を解消するには、潜在保育士の力を生かすことがカギとなる。

そこで、厚生労働省職業安定局が2013年5月、保育士資格を有するハローワークの求職者958人に保育士として就業を希望しない理由をたずねたところ(複数回答可)、「賃金が希望と合わない」が47.5%でトップだった(図表1)。2番目に多かった「他職種への興味」(43.1%)にも、賃金の低さが関連していると考えられる。続いて、小さな子どもに関わることから「責任の重さ・事故への不安」(40%)も多く、「自身の健康・体力への不安」(39.1%)も目立った。その他、「休暇が少ない・休暇がとりにくい」(37%)「就業時間が希望と合わない」(26.5%)など、働き方に対する不満も一定の割合に上った。これらの回答の背景には、いずれも人員態勢の問題があると思われる。現場にベテランが少なく、若手に対するサポートが不十分になったり、業務に追われて休暇を取得する余裕がなくなったりしているのではないだろうか。
図表1 保育士資格を持つ求職者が保育士として就業を希望しない理由(複数回答可)
それでは、保育士として働いている人の動機は何だろうか。東京都が2013年、保育士として登録している約1万5,000人に行った調査では、仕事全体のやりがい度をたずねたところ、「大変満足」「満足」「やや満足」との回答が合わせて7割を超えていた5。仕事の内容自体には満足度が高いといえる。「大変満足」と回答した人の自由記述には「子どもの笑顔に元気をもらえる」「子どもたちの成長を間近で感じることができる」など、乳幼児を育てることに対する喜びが綴られていた。
 
4 厚生労働省「保育士等確保対策検討会」(2015年11月16日)資料より。
5 東京都保育士実態調査報告書(2014年3月)より。
 

3――保育所等の経営と保育士の賃金

3――保育所等の経営と保育士の賃金

図表2 保育士への賃金の流れ 1|保育士の賃金の決まり方
ここで、保育士の賃金がどのように決まるのかについて説明したい。保育所等には、国が定めた保育士の配置基準や面積等の基準をクリアしたとして都道府県などが認可した認可保育所と、それ以外の認可外保育所がある。認可外の中には、東京都の認証保育所のように、自治体が独自の基準に沿って認証した保育所がある。認可の場合、受益者負担として、保護者が運営費の一部を保育料として支払う他、国や都道府県、市町村が残りの運営費を給付する。認可外は基本的に、保護者からの保育料のみで運営されている6。自治体が独自に認証した保育所には、自治体から補助金が支給される(図表2)。
図表3 公定価格の決め方 認可の場合は、国が基本部分と加算部分から成る「公定価格」として運営費を定めている。国はまず、子ども一人あたりの費用となる保育単価を、保育士の人件費などを基にして7年齢区分ごとに定めている(図表3)。ただし公定価格には、地域や保育所の定員などによって支給割合に傾斜が設けられている。国家公務員の地域手当同様、地域によって生活費などが異なるからである。次に、各保育所等の運営費の基本部分を、保育単価と利用する子どもの人数を掛け合わせて算出する。休日保育や夜間保育、障害児保育等を行った場合には加算がある。

保育所等には、運営費から保育料を差し引いた残りが委託費として、市町村から支払われる8。この他、待機児童対策として独自に補助金を上乗せして支給している自治体もある。

保育所等を運営する事業者はこれらの収入を原資として、それぞれの判断で、保育士への給料や土地の賃借料、給食の食材費、光熱水費などを支払うわけだが、認可の場合は保育士の配置基準や運営費等が国によって決められるため、事業者が独自に、保育士の給料を大幅アップする余地はほとんどない。
 
6 認可保育所を目指す認可外保育施設に対しては、移行支援の補助金などがある。
7 保育士の給料の基準は、国家公務員の給料に準じて国が定めている。
8 認定こども園などの場合は「委託費」ではなく「給付」。
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社会研究部   准主任研究員

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
住宅政策、まちづくり、労働、社会保障

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