2018年01月15日

中国の公的医療保険制度について(2018)-老いる中国、14億人の医療保険制度はどうなっているのか。

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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3|入院・通院給付 
給付は、基本的に、入院、通院(一般的な通院外来、市が指定した特殊疾病・慢性病)を対象としている。給付は日本とは異なり、受診した医療機関の規模やランク、医療費の多寡などに基づいて各地域が設定している。なお、被保険者は医療保険専用の個人口座(医療保険カード)をもっているので、薬代などはそこから支払うこともできる。

給付対象者は、被保険者本人が対象となり、日本のような被保険者に扶養されている家族への保険給付はないため、扶養家族はそれぞれ都市・農村住民基本医療保険に加入し、給付を受けることになる。
 
制度は各市で運営されているため、基本的に管轄の市以外で受診した場合は、全額自己負担となる。ただし、かかった医療費が加重なものとならないように、管轄地域で、一部の医療費の償還も可能となっている。この場合の自己負担割合は管轄地域内での受診よりも高く設定されている。日本の公的医療保険の特徴の1つである、患者が望めば、いつでも、誰でも、どこの医療機関でも医療を受けられる「フリーアクセス」は存在しない。受診する医療機関についても、多くの場合、自身が管轄地域内で予め指定して受診する。
 
北京市の場合、入院給付は、病院のランクである1~3級のいずれの病院においても1,300元を超えてから適用される。例えば、3級病院(日本の大学病院に相当)に入院した場合、医療費1,300元超から3万元の部分については自己負担割合が15%、3万元超~4万元の部分については自己負担割合が10%となっており、医療費が高額になるにつれ、自己負担割合は軽減されている(図表4)。一方、一つランクが下の2級病院の場合は、同じ医療費でも自己負担割合は13%、8%と、3級病院よりも軽減されていることがわかる。
図表4 北京市における都市職工基本医療保険の入院・特殊疾病通院の病院ランク、医療費用別の自己負担割合(在職者の場合)
これは、大規模病院への患者の集中を避けるための策である。その背景には、政府が国民に保障する医療サービスは基本的なものに留め、よりレベルの高い医療サービスを受けるには、それに見合った対価を受益者自身が支払うべきという考え方がある。中国では、受診する医師のランク別初診料、診療内容、使用する医療関連機材、医薬品に至るまで、その価格を病院やネットで公開している。どのようなレベルで、どれくらいの医療サービスを受けるかの判断の多くは、患者(被保険者)側に委ねられている。

通院(一般外来)で治療した場合、1,800元までは全額自己負担である。各居住地域に設置された小規模な医療機関である社区衛生サービスセンター(1級病院に相当)での自己負担割合は10%であるが、自身が選択した1~3級の医療機関で受診する場合は30%となっている(図表5)。なお、通院についても大規模病院への集中を避けるため、最初に受診する医療機関は、社区衛生サービスセンターにするよう求めている。
図表5 北京市における都市職工基本医療保険の通院(一般外来)における病院ランク、医療費用別の自己負担割合(在職者の場合)
また、北京市は特殊疾病の通院治療の対象として、(1)悪性腫瘍、(2)人工透析(腎不全)、(3)血友病、(4)再生不良性貧血、(5)腎臓、肝臓、心臓、肺移植後の拒絶反応の投薬治療、(6)多発性硬化症、(7)加齢黄斑変性症(注射治療)の7種を指定している。これらの治療は医療費の負担が重いことから、通院(一般外来)を対象とした自己負担ではなく、より負担が軽い入院の自己負担割合が適用されている。ただし、特殊疾病の給付を受けるには申請が必要である。
 
北京市では、被保険者は、通常使用する病院を予め4ヶ所指定する必要がある。指定する医療機関は居住地域、勤務地域を中心に選択する。4ヶ所のうち、1ヶ所は社区衛生サービスセンターまたは1級病院を選択する。また、4ヶ所指定した医療機関以外に、A類病院(北京市が指定した大規模な総合病院)、漢方専門病院、専門病院については、指定をしなくても利用が可能である。しかし、指定した病院とこれらの病院を除いたその他の病院で受診した場合は医療給付の対象とならない仕組みとなっている。

3――都市・農村住民基本医療保険制度-北京市を例に

3――都市・農村住民基本医療保険制度-北京市を例に

制度構造
都市・農村住民基本医療保険の対象者は、当該市の戸籍をもつ(都市戸籍、農村戸籍の両方)、都市職工基本医療保険に加入していない高齢者、非就労者、学生・児童である。

制度の構造は都市職工基本医療保険と同様で、2階建てとなっている。1階部分の基本医療保険から一定額まで基礎的な給付が受けられる。これを上回る高額な医療費については、2階部分の大病医療保険から給付が受けられる。また、2階部分でも一定の自己負担が必要となっているが、限度額が設けられていないケースが多い。

1階部分の運営は各地域で行うが、2階部分については、地域を管轄する地方政府と当該地域に進出をした民間保険会社が協働で運営を行う。
 
北京市では、2018年1月1日から、都市の非就労者と農村住民の医療保険制度を統合し、新たに都市農村住民基本医療保険をスタートさせた4

対象者は、北京市の戸籍をもつ、都市職工基本医療保険に加入していない高齢者(男性60歳以上、女性50歳以上)、非就労者(男性16歳以上60歳未満、女性16歳以上50歳未満),学生・児童(未就学児童)などである5

制度の構造として、入院給付は病院のランクに応じて、まず、300~1,300元までが全額自己負担となる。免責額から年間20万元までが給付対象となり、自己負担は入院する病院のランクに応じて20~25%となる(図表6)。

一方、通院(一般外来)は、受診する病院のランクに応じて、100元または550元までが全額自己負担となる。免責額から年間3,000元までが給付対象となり、自己負担は病院のランクに応じて45%または50%となる。
図表6 北京市の都市・農村住民基本医療保険の給付構造(非就労者)
入院、通院の医療費が高額となった場合、官民協働の大病医療保険から給付される。北京市では、公的医療保険の給付対象範囲内で支払った自己負担(年間)のうち、前年の農村住民1人あたりの平均可処分所得分の医療費は自己負担する。これを超える部分については、大病医療保険の給付対象となり、5万元以内は自己負担割合が4割、5万元を超える部分は自己負担が3割となるよう、償還される。

都市・農村住民基本医療保険は、都市の会社員の制度と比較して、基金による給付限度額が低く設定されている上に、自己負担も高く設定されている。実質的には所得が相対的に低い非就労者・農村住民が実額の上でもより多くの負担を支払う構造となっている。大病医療保険は発生した自己負担費用に主眼を置き、直接的な負担軽減とそれによる制度間の受給格差の緩和を目的としており、構造上、上限額が撤廃されているケースが多い。
 
 
4 2016年以降、各地域で順次統合が進んでおり、導入時期はそれぞれ異なる。
5 その他に、加入対象者として、夫婦の一方が北京市戸籍の配偶者,夫婦の一方が北京市に所属する勤務先を定年退職した幹部で、当該者が死亡した場
合その配偶者,北京市の「外国人永久居留身分証」を取得し、都市職工基本医療保険に加入していない外国人も含まれる。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

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