2018年01月15日

WeWorkのビジネスモデルと不動産業への影響の考察(2)-Amazonを参考にプラットフォーマーという視点からの分析

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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(イ) 不動産市場への影響
WeWorkが勢力を拡大することで、オフィス需要に、量的・質的な影響を及ぼすと考えられる。

量的な影響としては、AmazonのAWSを活用することで市場全体が効率化し、個社毎のサーバー需要が減少するのと同様に、企業によるオフィス需要が中長期的に減少する可能性が高いだろう。もちろんコワーキングスペースの普及は、マイナスの影響だけを持つわけではない。例えば、自宅などで仕事をしていたスタートアップやフリーランスがコワーキングスペースを活用することで、オフィス需要が増加する影響もある。しかし、大企業を含め、これまでオフィスを所有もしくは賃貸していた企業がコワーキングスペースを活用するケースが増えており、その影響が上回ると考えられる。WeWorkが日本で2018年に開設する3拠点25の1メンバー当たりのオフィス面積は1.45坪26であり、東京23 区の平均的な1人あたりオフィス面積は3.81 坪27の4割弱に過ぎない。

質的な影響としては、Aクラスビルと呼ばれるようなプライムビルの需要が相対的に増加すると考える。Amazon Web Services, Inc. CEOのアンディー・ジャシー氏がAWSについて、「世界的大企業と同じインフラストラクチャーを寮に住む大学生が使える世界を考えたのです28」と述べたように、コワーキングスペースはスタートアップやフリーランス、中小企業に大企業と同等のオフィス環境を享受することを可能にする。WeWorkは2018年にGinza Sixに拠点を開くが、従来であれば、資本力のない企業が同様のプライムビルにオフィスを構えることはできなかった。これまでプライムビルの借り手の多くは大企業だったが、今後はコワーキングスペースによって小口化されることで、中小企業のオフィス需要もプライムビルに向かうようになる。そのため、従来は小規模ビルなどに入居していた企業のオフィス需要がプライムビルに移る可能性がある。

また、現在WeWorkは、コワーキングスペースのメンバーを主な課金サイドとしているが、プラットフォームの規模がさらに拡大していけば、プラットフォームに参加する他のユーザー・グループからの収益を拡大していくことが可能となる。WeWorkのビジネスモデルでは、メンバー数を拡大することが重要である。そのため、AmazonがECプラットフォームの収益をもとに配送コストを無料にしたのと同様に、プラットフォームから得た収益を活用して、メンバーへのプライシングを引下げてくる可能性がある。その場合は、よりグレードの高いオフィスビルに現在同様の料金で提供することも、現在同様のオフィスビルでより低い料金を提供することも可能になるだろう。前者はプライムビルの賃貸需要を高め、後者は賃料の低いオフィスビルの賃貸需要を押下げるが、いずれにせよ、プライムビルの需要が相対的に大きくなるという点に変わりない。

以上を総合すると、WeWorkの事業が拡大した場合、全体としてはオフィス市況に対して下押し圧力となり、また加えて、プライムビルの相対的優位性がより高まる可能性がある。
 
25 WeWork ArkHills、WeWork Ginza Six、WeWork Shinbashi。
26 日経不動産マーケット情報 (2017) をもとにニッセイ基礎研究所試算。この面積は、米国でのWeWorkの平均と同等である(Loizos and Neumann (2017))。
27 ザイマックス不動産総合研究所 (2017) 参照。
28 Stone (2013) 参照。
 

2.おわりに

2.おわりに

WeWorkの2017年の売上高は10億ドルに達しており、現在は収益の多くを投資に回しているが、40%の営業利益率をあげるだけの収益力があるという29。コワーキングスペースは、IT企業のように利益率が高いわけではなく、また容易にスケールできるわけでもないとされてきた。コワーキングスペース最大手のリージャスは120カ国約900都市で約3,000箇所の拠点を運営し230万人もの会員数を抱えるが、時価総額は23億ボンド30(3.6千億円)にすぎない。そのため、WeWorkへの金融市場の評価は高すぎるとの批判もある31

特に今後、景気後退を迎えた際の持続可能性に疑問を呈する声は多い。コワーキングスペースは基本的には、長期で借りて、短期で貸し出すビジネスモデルで、空室リスクがビルオーナーからコワーキングスペース事業者に移転される。実際、リージャスはITバブルの崩壊で大きな打撃を被った。WeWorkの売上に占める大企業の比率は高まっているものの、資本力に劣り、事業安定性が乏しい事業規模の小さいメンバーが主要な顧客基盤で、景気後退に対して脆弱なことは否めない。同社の持続可能性を高めるためにも、今後は収益源の多角化やプラットフォームとしての競争力が高まることが期待される。

WeWorkへの懐疑的な見方はあるものの、同社のプラットフォーマーとしての進化は始まったばかりで、その実力は未知数であり、現段階で過小評価はすべきでない。WeWorkは不動産業界に新しい風を吹き込み、不動産業というビジネスを問い直すきっかけをもたらした。WeWorkの最大のイノベーションは、オフィスを「ただの空間」としてではなく、「様々なニーズを満たすための空間」として提供した点にある。それにより、オフィスに新しいレイヤーを追加し、プラットフォーム化することを可能にした。またプラットフォーム化することで、大量のデータの蓄積が可能となった。これが、快適に働けるワークプレイスの提案につながり、同社の事業拡大の原動力となっている。同社がもたらしたイノベーションは、人口減少などにより先細りが懸念される日本の不動産業にとって、ビジネスモデルを問い直す上で有益な視座を提供している。
 
29 Loizos and Neumann (2017) 参照。
30 リージャスの持ち株会社であるIWG plcの2017年12月末時点の時価総額(出所:Bloomberg)。
31 Gelles (2015)、Sidders and Turner (2017) 参照。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

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