2018年01月15日

WeWorkのビジネスモデルと不動産業への影響の考察(2)-Amazonを参考にプラットフォーマーという視点からの分析

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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(ウ) WeWorkのレイヤーのオープン・クローズド戦略
同社のコミュニティ・プラットフォームでは、ネットワーク効果が働くため、メンバー数が増えるほど、メンバーの効用が高まり、WeWorkの競争優位につながる。そのため、いかにしてコミュニティ・メンバーを拡大するかが重要だ。同社のコミュニティには当初、コワーキングスペースのメンバーしか参加できなかった。米国のメンバーの平均月額単価は650ドル22と安くないため、コワーキングスペースのニーズがない人が、コミュニティに参加するのは事実上困難であった。しかし、現在ではコワーキングスペースの利用ニーズがなくても、気軽にコミュニティに参加できるWeメンバーシップというプランを導入している。Weメンバーシップは、月額45ドルで、WeWorkのコミュニティに参加でき、平日デイタイムにコワーキングスペースを月1日利用または同程度のサービスを受けることができるため23、コミュニティ参加を主眼においたメンバーとして位置付けられているものと推察される。これは、オープン・クローズド戦略の観点では、コミュニティ・プラットフォームのレイヤーはクローズドに保ちながら、コワーキングスペースをオープンにすることで、プラットフォームのユーザー拡大を狙っているものだろう(図表-3)。
図表-3 WeWorkのレイヤー構造の変遷
 
22 Loizos and Neumann (2017) 参照。
23 2017年12月時点のWeWork HP 参照。
(エ) WeWorkの事業領域の拡大
WeWorkの事業領域はコワーキングスペースからバリューチェーンの上流や他の分野へと拡大している。同社はこれまでビルオーナーからオフィスビルを賃貸するというのが一般的だった。しかし、最近はビルを取得するというケースも出てきた。また不動産ファンドの設立の準備を進めており、オフィスの共同開発に乗り出すなど、バリューチェーンの上流に事業を拡大している。これにより不動産価格変動リスクは増加するものの、収益の拡大やコスト構造の多角化24に寄与することが期待される(図表-4)。
図表-4 WeWorkのバリューチェーン上の事業拡大
またオフィスだけでなく、リアルなコミュニティが存在する分野へ新たに参入している。2016年には賃貸住宅WeLive、2017年にはフィットネスジムRiseを開設し、2018年には小学校を開校する予定である。コミュニティは様々な場で発生するため、コミュニティを軸とした事業拡大は今後もさらに拡大する余地がある(図表-5)。
図表-5 WeWorkの新分野への拡大
同社の新規参入分野で、コミュニティ・プラットフォームとしてすぐに収益化することは難しいだろう。しかし、それぞれのコミュニティは独立しているわけではなく、WeWorkと重なり合い補完しあう部分もある。また今後それぞれのコミュニティが拡大していけば、マーケティング対象としての価値も高く、それぞれのコミュニティでWeWork Services Storeのように、メンバーのニーズを満たすためのプラットフォームも追加できる可能性がある。
 
 
24 WeWorkは従来オフィスを賃貸するのが基本だったが、投資会社Rhone Capital LLCと共同で米百貨店Lord&Taylorのニューヨーク旗艦店を8億5千万ドルで取得し、一部を本社とコワーキングスペースに利用するなど、不動産を所有することでもコスト構造を多角化している(Carmiel (2017))。

(4) WeWorkが不動産業にもたらす変革
WeWorkは、不動産業や不動産市場にどのような影響をもたらすのだろうか。同社がプラットフォーマーとして勢力を拡大した場合を想定して、今後の可能性について考える。
(ア) 不動産業への影響
ブラットフォーマーが様々な業界に破壊的イノベーションをもたらしたことから、WeWorkが既存の不動産会社を淘汰するとの懸念がある。しかし、今のところWeWorkは、コワーキング企業を除けば既存の不動産会社と明確な競合関係にあるわけではなく、ビルオーナーにとってはむしろ優良テナントとして認識されるケースも多い。

しかし、WeWorkや他のプラットフォーマーが今後事業を拡大し、不動産の業界地図を塗り替える可能性はある。プラットフォーマーと既存の不動産会社だと収益構造が全く異なる。プラットフォーマーは、プラットフォームからも収益を得ることができ、不動産とプラットフォーム間にシナジー効果があれば、プラットフォームの収益をもとに不動産のプライシングを柔軟に設定、つまり安くすることができる。このプライシング戦略を武器にプラットフォーマーが勢力を拡大していく可能性がある。また、WeWorkがさらに拡大した場合、従来の情報ハブとしての機能が不動産仲介会社からWeWorkに移行していく可能性がある。さらに、WeWorkかバリューチェーン上流での事業を拡大すれば、デベロッパーや管理会社などのシェアを侵食していく可能性もある。その際、データを蓄積し、不動産とは別の収益源を有するプラットフォーマーに既存の不動産会社がいかに対峙していくかが試されるであろう。

不動産業でもデジタル化が進み、プラットフォーマーの事業が拡大すれば、不動産業のモジュール化やサービス化が進むことが予想される。これまでコワーキングスペースは、小口化して転貸する不動産賃貸業の色彩が強かったが、WeWorkが提供するのが「Space as a Service」であるように、むしろ不動産サービス業と呼ぶべきものである。同社はコミュニティなどの機能を追加したが、コミュニティを育むためにオフラインとオンライン双方のツールを総動員している。不動産業のサービス化により、不動産の立地や建物などオフィスビルの実力だけでなく、施設の運営・管理能力など含めた総合力が問われることになる。これはあらゆる不動産が、施設の運営の成果次第で収益が変動するオペレーショナル・アセットになることを意味する。

またプラットフォーマーはユーザーが増加するとネットワーク効果により収穫逓増となるため、一人勝ちの状態となり、高い収益をあげるのが一般的だ。その収益を原資に隣接する市場に参入し、巨大化していく。これはWeWorkがオフィス以外の分野でシェアを拡大していく可能性も示しているが、異なる業界のプラットフォーマーが不動産業界に新規参入して破壊的イノベーションをおこす可能性があることも意味している。中国の金融業界では、アリババやテンセントなどのIT企業が変革をもたらしており、従来型の銀行をしのぐ勢いで拡大している。同様のことが不動産業界でも起きる可能性もある。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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