2018年01月15日

WeWorkのビジネスモデルと不動産業への影響の考察(2)-Amazonを参考にプラットフォーマーという視点からの分析

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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前回1は、Amazonを参考にプラットフォーマーの特徴や既存業界への影響などを整理した。今回は、WeWorkの新規性や戦略を分析し、不動産業や不動産市場にどのような変革をもたらすかを考察する。
 
1 佐久間(2018)「WeWorkのビジネスモデルと不動産業への影響の考察(1)-Amazonを参考にプラットフォーマーという視点からの分析-」、ニッセイ基礎研究所『不動産投資レポート』(2018年1月9日)を参照
 

1.WeWorkのビジネスモデルと不動産業への影響

1.WeWorkのビジネスモデルと不動産業への影響


(1)WeWorkの概要
WeWorkは2010年に米国で、CEOのアダム・ニューマン氏とCCO2のミゲル・マッケルビー氏らによって設立された。「ただ生きるためではなく、豊かな人生を送るために働ける世界を創造する」という企業理念を掲げるコワーキングスペース大手である。コワーキングスペースというと、オーブンスペースを思い浮かべることも多いが、実際は同社のコワーキングスペースの10%がオープンスペースで、90%は壁に囲まれて施錠可能なプライベートオフィスである3

当初コワーキングスペースのメンバーの多くはスタートアップの小規模企業やフリーランスの個人事業主だったが、近年は法人メンバーとしてマイクロソフトやGE、HSBC、KDDI、みずほ証券、日本経済新聞社が契約するなど、大企業のメンバーが増加している4。社員1,000人以上の法人メンバーは前年から倍増しており、売上の25%を占めるに至っている5

また同社は急速に事業を拡大しており、現在は20カ国64都市の200拠点で、17万人以上が利用している6。日本においても、2017年7月にソフトバンクグループと折半で合弁会社WeWork Japanを設立しており、2018年から事業展開を本格化する。六本木、銀座、新橋、丸の内の4拠点の開設が予定7されており,それ以外にも2018年中に複数の拠点を開設する方針だ。
 
2 Chief Creative Officer(最高クリエイティブ責任者)
3 Loizos and Neumann (2017) 参照。
4 津山 (2017a)参照。
5 Molla (2017) 参照。
6 WeWorkバンフレット参照(2017年12月時点)
7 WeWork HP参照(2017年12月時点)。

(2)WeWorkの新規性:プラットフォーマーWeWorkがもたらしたコワーキングスペースの進化
WeWorkは、一見すると「ただのコワーキングスペース」に過ぎない。すでに欧米のみならず日本でも多くのコワーキングスペースが営業しており8、コワーキングスペースという業態に目新しさはない。同社の新規性は、コワーキングスペースにコミュニティや企業向けサービスのプラットフォームを追加し、データを活用することでオフィス環境の変革に取り組んでいる点にある。
 
8 Instant Group(2017)によれば、2016年時点で東京にはコワーキングスペース・サービスオフィスは218拠点ある。
(ア) コワーキングスペースをコミュニティ・プラットフォーム化
WeWorkはコワーキングスペースのメンバー同士を結びつけるコミュニティ・プラットフォームを構築することで、コワーキングスペースにプラットフォームという要素を追加した。同社では、コワーキングスペース内のコミュニティを醸成するため、コミュニティ・マネージャーと呼ばれる職員を各施設に配置している。コミュニティ・マネージャーは、メンバーからの相談に乗ったりする他、メンバーがつながりやすいようにイベントを開催したり、メンバー間の出会いを積極的に仲介する役割を担っている。また、コミュニティの構築や円滑なコミュニケーションが図れるようにSNS機能をもつメンバー用のアプリも開発している。なお同アプリでは、メンバーが滞在する施設だけでなく世界中のメンバーとつながることができる。このアプリのベースとなっているのが、WeOS(ウィーオーエス)という自社システムで、SNSのようなデジタル空間だけでなく、入退室管理や会議室の予約など物理空間も制御する機能も備えており、同社のサービスの基盤となるものである。

オフィスのレイヤー構造の観点から整理すると、従来のコワーキングスペース事業者は、内装・設備と施設運営のレイヤーを統合し、双方とも担うことで、ソリューションとしてオフィス空間をテナントに提供した。WeWorkの新規性は、このコワーキングスペースにWe Membershipというコミュニティ、WeOSといったOSレイヤーを追加したことだ(図表-1)。
図表-1 WeWorkのレイヤーのイメージ
同社のコミュニティ・プラットフォームは、ネットワーキングだけでなく、アウトソーシングや求人、業務提携などの取引コストを下げ、メンバー間の取引を活性化する。このコミュニティがもたらしたイノベーションとして、WeWork日本代表のChris Hills氏は以下の事例を紹介している。
オランダに夫婦で花屋を営んでいるWeWorkメンバーがいた。彼らはアメリカでビジネスを展開しようと考えアメリカにやってきたが、花屋である彼らは全米の家庭にチューリップを届ける方法を知らなかった。そこで彼らは、WeWorkのコミュニティアプリのなかで自分たちがチューリップの宅配事業を展開したいことを伝え、一方でディストリビューションについての知識やアイデアが足りないので誰か助けて欲しいと呼びかけた。すると、世界中にいるWeWorkメンバーたちが彼らの呼びかけに答えた。チューリップを届けて配達依頼まで行うアプリを作ると申し出たのだ。その結果、そのオランダ人夫婦はアメリカに移住して約3ヶ月程でビジネスを作り上げることに成功した9
この事例が示しているように、同社のコミュニティ・プラットフォームが、ビジネス版のシェアリング・エコノミーを作り出し、WeWorkの中でエコシステムを作り出している。従来のコワーキングスペースでは、メンバーは同スペース内ではユーザー(コンシューマー)に過ぎなかったが、WeWorkではメンバーが生産活動を行う消費者であるプロシューマー化しているとも言える。このプラットフォームを利用することで、WeWork内で多くのビジネス課題を完結できてしまう可能性を秘めている。

多数の大手企業がWeWorkを活用する理由も、このコミュニティに参加することだ。WeWorkのコミュニティに参加することで、「スタートアップやフリーランスのデザイナー・クリエイターとの協業機会を模索している」「最新のテックやライフスタイルのトレンドを知りたい」「イノベーションに積極的である姿勢を示したい」など10、大企業はオープンイノベーションの場として、WeWorkを活用しようとしている。

またFacebookやLinkedInなどのオンラインのコミュニティ・プラットフォームが普及するにつれ、オフラインのコミュニティの重要性が再認識されている。そのため、オフラインとオンライン双方を兼ね備えたWeWorkのコミュニティ・プラットフォームに注目が集まっているのだ。同社は、シンガポールのコワーキングスペース運営会社Spacemobを買収するなど拠点数の拡大を加速するとともに、ソーシャル・コミュニティ・プラットフォームを提供するMeetup11を買収し、プラットフォーマーとしての攻勢を強めている。
 
9 Kimura (2017) 参照。
10 Sato (2017) 参照。
11 Meetupは現実世界でのグループ対話をやりやすくするオンラインプラットフォーム
(イ) コワーキングスペースのサービス・プラットフォーム化
従来のコワーキングスペースはオフィスというハードを小分けにして貸し出すというビジネスだった。WeWorkはそれに加えて、福利厚生や業務支援などのソフトについても、関連企業と提携することで、小分けにして提供している。例えば、人事管理代行大手のTriNetと提携することで、スタートアップやフリーランスが加入することが難しかった条件で健康保険に加入できる。また銀行大手JP Morgan Chaseの決済サービスや物流大手UPSの配送サービス、MicrosoftやAWSなどのソフトやクラウドを割引料金で利用できる。

これはスタートアップやフリーランスなど小規模のメンバーにとって、従来享受することが出来なかった大企業並みのサービスを受けられることを意味する。それと同時に、提携企業にとっては、有望なスタートアップなどと早期からコンタクトを持ち、囲い込むことも可能になる。そのため、WeWorkは提携企業から紹介料を徴収することができ、同社の収入源を多角化することができる。

さらに同社は2017年4月にWeWork Services Storeというサービスを開始した。WeWork Services Storeでは、100以上の企業が250以上のソフトやサービスを提供している。同Storeでは、企業の成長ステージに合わせた活用事例なども紹介され、メンバーがレビューを投稿することが可能だ。同Storeは、スマートフォンなどのアプリストアのビジネス版とも言え、企業向けのソフトやサービスの提供者とメンバーを結びつけるプラットフォームだ。これは同社の従来の福利厚生や業務支援の小分けサービスをプラットフォームへと進化させたものだとも言える。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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