2018年01月09日

金相場の上昇は何を意味するのか?~金融市場の動き(1月号)

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
  1. 金相場の上昇基調が鮮明だ。NY金先物価格は、昨日時点で1320ドル台と昨年年初から約170ドルも高い水準にある。本来、「安全資産」である金は株高局面で売られやすいが、昨年来、市場の利上げに対する懐疑的な見方を背景とするドル安と米長期金利低迷が追い風となってきた。また、市場に燻るリスクへの根強い警戒も金買いを促した。具体的には、北朝鮮や中東を巡る地政学リスクのほか、欧米の政治リスク、中国経済の減速、新興国からの資金流出懸念などだ。実際、世界の経済政策不確実性指数は高止まりしている。また、米国株は割高感を示す指標も多く、調整入りへの警戒も燻っているとみられる。世界最大の金ETFによる金保有量は、世界的な株高にもかかわらず横ばい圏を維持しており、投資家による「いざという時の保険」としての根強い金需要を示している。
     
  2. 一方、今後の金相場はやや下落する可能性が高いと見ている。今後も米経済は堅調に推移する可能性が高い。税制改革も成長率の押し上げに働くはずだ。物価が持ち直すことで利上げ観測も持ち直し、米長期金利上昇・ドル高を通じて金価格が押し下げられる。ただし、大幅な下落には至らないだろう。地政学・政治リスクは根が深く、容易に解消しない。また、米利上げ観測が高まる際には、株価の調整や新興国からの資金流出といった副作用が生じるリスクもある。これらリスクへの警戒感が下支えに働くだろう。春にかけて水準を切り下げた後、1250ドルを中心とする展開が続くと予想している。
     
  3. ちなみに、最近注目度が高まっているビットコインと金はともに「無国籍通貨」の側面を持つが、「安全資産」という点では、金が圧倒的な優位性を持っていると考えられる。金は比較的価値が安定しており、長い歴史上「最高級の価値を持つ金属」という位置付けを維持してきたという信頼感もある。現物の裏付けがあるため、実際に手元に置いておくことも可能だ。今後も金の安全資産としての重要性は変わることはないだろう。
NY金とダウ平均
■目次

1.トピック:金相場の上昇は何を意味するのか?
  ・ドル安・米長期金利低迷が追い風に
  ・リスクへの警戒も金買いを促進
  ・金相場の行方
  ・補足:金とビットコイン
2.日銀金融政策(12月):政策調整の観測を打ち消し
  ・(日銀)現状維持
3.金融市場(12月)の振り返りと当面の予想
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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