2017年12月29日

公的年金改革があると考える人はNISAやiDeCoに加入するか?-自助努力を進める可能性に関する実証分析

北村 智紀

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4――結論と課題

以上の分析により、将来、給付水準の引き下げや、支給開始年齢の引き上げなど、公的年金に大きな改革がある可能性が高いと予想する人は、自助努力による資産形成が必要だと認識し、NISA制度やiDeCo制度への関心が高い傾向が観察される。一方、将来、定年後以降も働くことにより、老後の生活費を補おうと考える人は、逆に、貯蓄の積み増しや資産運用に関心が低く、NISA制度やiDeCo制度への認知度が高くない傾向が観察される。

将来に備えた貯蓄を推進するため、NISA制度やiDeCo制度の普及が政策的な課題である。また、金融機関はこれらの制度や個人年金保険の普及を実際に実施している。分析結果によれば、これらの制度や保険の普及を進めるためには、税制上のメリットだけでなく、公的年金の将来像を示し、公的年金を補完するこれら制度の利用方法をあわせて提供することで、認知度や利用率を高める可能性があることが示唆される。一方、将来、長く働くことを考える人のNISA制度やiDeCo制度の認知率が低まる傾向があった。老後の生活費を補う手法としては、貯蓄の積み増しやリスクをとった積極的な資産運用と、人的資本、つまり、より長く働くことの間は、対立関係にあるものではない。公的年金の給付水準の低下が予測される中、退職後の生活水準を維持するためには、公的年金、自分で蓄積・運用した金融資産及び、人的資本を組み合わせて達成できるはずである。長く働くことを主として考える人に対しては、税制優遇がある貯蓄手段を、少額ではあったとしても、長期間利用することによる蓄積効果等ついての金融リテラシー向上を目指す必要性があるものと考えられる。

本レポートは、既存のデータを利用したことや、分析上、簡略した方法で行っているため、多くの課題が残る。アンケート結果では、NISA制度やiDeCo制度の実際の加入率が低かったため、各制度を知らない人を中心に分析したが、認知度の捉え方は改善が必要である。メインとなる説明変数には、その精度を高める必要があることや、変数に内生性がある(説明変数と誤差項とに相関がある)可能性があり、利用方法や分析方法に改善の余地がある。これらは今後の課題としたい。
Appendix A:記述統計
Appendix B:回帰分析の推計結果
 
 

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北村 智紀

研究・専門分野

(2017年12月29日「基礎研レポート」)

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