2017年12月18日

政策保有株式削減の進捗状況-進む損害保険、出遅れる銀行

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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1――政策保有に関する方針は各社各様である

コーポレートガバナンス・コードが適用されてから、2年経過した。本コードでは、上場会社が政策保有株式1を保有する場合には、政策保有に関する方針の開示を求める(原則1-4)。政策保有に関する方針の開示が求められる背景には、政策保有株式(いわゆる持ち合い株式)の中には、効率的な投資とはいえないものがあり、資本効率向上の阻害要因になりうるといった批判がある。

政策保有株式を保有しない方針を宣言する企業もあるが、大多数の企業は、一定の条件の下で、政策保有株式の保有を表明している。一定の条件とは、取引関係の重要性や、取引先企業の成長性等を定期的に検証し、政策保有株式を保有する事の合理性が認められるといった条件である。また、政策保有株式の残高削減を掲げる企業もある。なお、3メガバンクは、2015年3月末時点から3~5年で少なくとも3割程度、政策保有株式の削減を目標としている2。一方、保有の合理性を失った場合の売却にあたり、市場への影響や取引先企業の事情等を考慮することも明言している(図表1)。
図表1:主な金融機関の政策保有株式に関する方針
では、この2年で、政策保有株式の削減はどのように進んだのだろうか。本稿では、コーポレートガバナンス・コードの適用開始時に、政策保有銘柄の数が多かった企業を中心に、政策保有株式削減の進捗状況を確認する。
 
1 政策保有株式とは、一般的に企業が取引先や取引金融機関との間で持ち合う株式を指す。
2 2015年11月7日、日本経済新聞(朝刊)「3メガ銀、持ち合い株3割削減、市場評価、実行力でさも。」参照
 

2――大株主情報を用いて確認する理由と調査対象データの分類

2――大株主情報を用いて確認する理由と調査対象データの分類

企業内容等の開示に関する内閣府令では、政策保有株式について、少なくとも貸借対照表計上額の30銘柄(30銘柄未満の場合は保有する限り全銘柄)の開示(コーポレート・ガバナンスの状況等)を求める。つまり、開示銘柄が30銘柄に満たない企業は、政策保有株式を全て開示していると言い換えることが可能だ。筆者の分析によると、一般事業会社に限れば、80%以上の企業が政策保有株式全てを開示している3。しかし、今回のように、政策保有銘柄の数が多い企業を中心に分析する場合、上記のコーポレート・ガバナンスの状況等における開示情報では不十分である。そこで、今回は大株主データ(東洋経済新報社)を用いる。コーポレート・ガバナンスの状況等における開示情報は、株式を保有する主体が、保有目的に応じて報告するのに対し、大株主データは株式を発行する主体が報告する情報であり、株式を保有する主体の保有目的とは関係なく収録されている。
 
株式の保有目的は、政策保有目的に限らない。短期的な資金運用によって運用益を得ることを目的として保有(売買目的有価証券)する場合もあれば、支配力や影響力を行使する目的で保有(子会社・関連会社株式)する場合もある。貸借対照表上、前者は「有価証券」、後者は「関係会社株式」として計上される。そして、売買目的有価証券でも、子会社・関連会社株式でもない株式は「投資有価証券」として計上される。「投資有価証券」として計上される株式のうち、もっぱら株式の価値の変動または株式に係る配当によって利益を受けることを目的とする場合は純投資目的であり、それ以外が政策保有目的に分類される。
図表2:株式保有主体の属性別調査対象 このように株式の保有目的が多岐に渡るため、まずは大株主データに収録されるデータのうち、信託銀行・生命保険会社・証券会社が株式保有主体であるデータを調査対象から外した(図表2)。信託銀行と生命保険会社が株式保有主体であるデータを調査対象から外した理由は、信託銀行と生命保険会社の大多数がスチュワードシップ・コードの受入れを表明しており、純投資目的で株式を保有している可能性が高いからである。一方、多くの損害保険会社もスチュワードシップ・コードの受入れを表明しているが、コーポレート・ガバナンスの状況等において、多数の政策保有株式を開示している4。そのため、損害保険会社が株式保有主体であるデータは調査対象とした。証券会社が株式保有主体であるデータを調査対象から外した理由は、図表1のように、政策保有株式を保有している会社があるものの、大半は売買目的で保有している可能性が高いからである5。このほか、株式発行主体の関係会社が株式保有主体であるデータも調査対象外とした。

更に、コーポレートガバナンス・コードの対象企業が上場企業であることから、非上場企業(上場持株会社の非上場子会社は除く)が株式保有主体であるデータも、調査対象から外した。
 
3 基礎研レポート『企業内容等の開示は機能しているか?~より具体的な保有目的開示に期待する』(2017年2月21日)
4 東京海上ホールディングス株式会社のコーポレート・ガバナンスの状況等によると、東京海上日動火災保険株式会社は2017年3月31日時点で、主として取引関係の強化を図ることを保有目的として、少なくとも222銘柄の上場株式を保有している。また、MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社のコーポレート・ガバナンスの状況等によると、三井住友海上火災保険株式会社は、2017年3月31日時点で、総合的な取引関係の維持・強化を目的として、少なくとも200銘柄の上場株式を保有している。
5 証券会社を大株主として掲載する上場会社は多くあるが、その半分以上が2015年3月と2017年3月時点で異なっている。
 

3――調査結果

3――調査結果

1|分析対象データから分かること~一握りの企業がハブ機能を担う
図表3:業種別政策保有銘柄の数が多い企業数 調査に当たり、政策保有銘柄の数が多い企業を「上記分類後のデータにおいて、大株主として掲載する上場会社が31社以上ある企業」と定義する。このように定義するのは、コーポレート・ガバナンスの状況等において、政策保有株式の全てが開示されているとは限らないと考えられるからである。

この定義の下で、2015年のコーポレートガバナンス・コードの適用開始時に、政策保有銘柄の数が多かった企業は51企業であった。そして内訳は、一般事業会社が13、銀行が32、損害保険が6であり、やはり金融機関が圧倒的に多い(図表3)。

次に、政策保有銘柄の数が多い企業(51企業)は、それぞれ何社の大株主であるかを確認した。平均は133社、最も多い企業は1,055社に及ぶことが確認できた。政策保有銘柄の数が30以下に収まる企業が大多数を占める一方、一握りの企業が多数の政策保有銘柄を有している。つまり一握りの企業がハブ機能を担うことで、上場企業間の持合ネットワークが構成されている可能性が高い6
2調査結果からわかること~3メガバンクの政策保有株式の削減は多少遅れ気味
図表4:大株主として掲載される総数 図表3を見る限り、2017年3月時点では政策保有銘柄の数が多い企業自体はさほど減っていない。では、政策保有株式の削減は進んでいないのだろうか。
図表5:3メガバンクの削減率と大株主順位の変化 そこで、コーポレートガバナンス・コードの適用開始時に、政策保有銘柄の数が多かった51企業を対象に調査を進めた。調査の結果、政策保有株式の削減が進んでいる様子が確認できた(図表4)。2015年3月末時点において、上記51企業は合計6,777社の大株主であったが、2017年3月時点では、5,863社に減少し、削減率は13%に及ぶ。ただし、その進捗状況は、業種によって差があり、銀行に限れば11%にとどまる。3~5年で少なくとも3割程度、政策保有株式の削減を目標とする3メガバンクに限定すると12%となり、5年で3割を前提に考えると、順調に進捗しているように見えなくもない。

しかし、グループ別削減目標と企業別削減率を比較すると、必ずしも順調とは言えなさそうだ(図表5)。みずほ銀行の削減率が最も高いが、みずほフィナンシャル・グループが掲げる3年間で3割削減という目標に照らせば、多少遅れ気味である。また、他のグループは5年間で3割削減を目標としているが、三菱東京UFJ銀行と三井住友銀行の削減率は、それぞれ11%と8%にとどまり、多少遅れ気味である。
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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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