2017年12月15日

東南アジア・インドの経済見通し~堅調な消費と投資の復調で安定成長へ

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2.各国経済の見通し

2-1.マレーシア
マレーシア経済は16年半ばに底打ちして以降、景気回復が続いている。17年7-9月期の成長率は前年同期比6.2%増と、前期の同5.8%増から上昇した(図表6)。この景気回復は低所得者向けの現金給付策(BR1M)による消費の拡大や輸出の好調が内需に波及していったことが主因となっている。世界的なIT需要の拡大や中国との貿易取引の拡大を背景に、マレーシアの輸出はプリント基板や半導体等の電気・電子製品、天然ガスや石油製品といった資源関連を中心に3四半期連続で概ね二桁成長を続けている。こうした輸出拡大に伴い企業の景況感が改善し、民間投資が堅調に拡大している。インフレ率はガソリン価格の値上げによって年明けから+3%を上回って推移しているものの(図表7)、こうした輸出と投資の回復につれて雇用・所得環境が改善しているほか、低所得者向けの現金給付策(BR1M)や消費者心理の回復も追い風となって、民間消費は+7%台まで加速している。一方、公共投資は緊縮財政を伴い低調に推移している。

先行きのマレーシア経済は、当面は5%台の高めの成長率を維持するものの、18年末にかけて成長ペースが徐々に減速すると予想する。世界経済は緩やかな回復を続けるものの、半導体サイクルのピークアウトと中国経済の減速を受けて輸出の増勢は18年から鈍化するだろう。一方、民間消費は高水準の家計債務が重石となって一段の上昇こそ見込めないものの、コモディティ価格上昇による企業業績の改善に伴って所得環境が改善することから堅調な伸びを維持しよう。民間投資は輸出関連企業を中心に増勢が徐々に鈍化する一方、内需関連企業の投資が拡大することから堅調な伸びを維持すると予想する。

政府部門は公営企業が資本支出を削減することから景気の重石となる可能性が高い。もっとも総選挙(18年8月までに実施)を控えた2018年度政府予算では、景気回復に伴う税収増を受けて財政再建しつつも、大型インフラ事業や公務員への特別賞与の支給などで支出を拡大すると共に、増税や補助金削減など国民の痛みを伴う施策を回避しており、公共部門の落ち込みを一定程度和らげるものと見込まれる。

金融政策は昨年7 月に政策金利を引き下げて以降、据え置かれている。コアCPIは3%を下回って安定しているが、中央銀行は景気の強さを背景に先行きの利上げを示唆している。来年1-3月に利上げ、その後も堅調な景気と原油高による物価上昇が続くことから年後半にも追加利上げを予想する。

実質GDP成長率は高成長が続いた17年が5.8%と、16年の4.2%から大きく上昇するが、輸出と公共支出の鈍化を受けて18年が5.1%と成長ペースがダウンすると予想する。
(図表6)マレーシアの実質GDP成長率(需要側)/(図表7)マレーシアのインフレ率・政策金利
2-2.タイ
7-9月期の成長率は前年同期比4.3%増と、4-6月期の同3.8%増から上昇ペースが加速した(図表8)。直近3四半期の景気回復は在庫積み上がりの影響もあるが、タイ経済は総じて財貨・サービス輸出の増勢拡大と底堅い民間消費を中心に緩やかな成長が続いている。まず財貨輸出はハードディスク等の電子機械や農産品を中心に堅調に拡大しており、サービス輸出は昨年実施した違法格安ツアーの取締りの悪影響が和らいで外国人観光客数は拡大基調にある。民間消費は、こうした観光業の回復や農業生産の拡大を背景に所得が向上したこと、また低インフレ環境が続いたことから底堅く推移している(図表9)。投資は、これまで景気を牽引してきた公共投資が補正予算の執行の反動で直近2四半期は落ち込む一方、これまで低迷していた民間投資が2期連続で増加するなど明るい兆しが見えてきている。

先行きのタイ経済は、輸出の好調で4%程度の高めの成長が続いた後、18年末にかけて3%台半ばで堅調に推移すると予想する。まず財貨輸出はITサイクルのピークアウトと主要輸出先の中国経済の鈍化、バーツ高による輸出競争力の低下等を受けて来年初から鈍化していき、その後は増加傾向を維持すると見込む。またサービス輸出も外国人観光客数が中国人観光客を中心に二桁成長を続けるものと見込まれ、引き続き景気の牽引役となるだろう。

一方、投資は回復しそうだ。政府と公営企業の2018年度投資予算がそれぞれ前年比21.8%増、45.7%増と大幅に増加し、主要インフラプロジェクトの進展が見込まれるため、公共投資は再び加速しよう。また民間投資は輸出の増勢鈍化後も製造業の設備稼働率の上昇や公共投資の呼び水効果によって改善傾向を続けるだろう。

民間消費は底堅い伸びが続きそうだ。今後の物価上昇は家計の実質所得を目減りさせるほか、個人向け融資規制の強化(9月)や高水準の家計債務が消費の重石となる一方、輸出産業の生産拡大を背景に雇用・所得環境の改善が続くこと、また10月にはプミポン前国王の火葬式が実施されて1年間の服喪期間が明けたことじから企業の販促活動が増えることも、今後の民間消費をサポートしそうだ。

金融政策は15年4月に政策金利が引き下げられて以降、据え置かれている。インフレ率は豊作による食品価格の安定やバーツ高の進展などから中銀目標(2.5%±1.5%)の下限を下回っているものの、景気回復が強まるなかで上昇し始めている。今後は緩やかな物価上昇が続くことから、中央銀行は現行の緩和的な金融政策を当面維持するだろうが、来年後半に調整的な利上げに踏み切ると予想する。

実質GDP成長率は輸出の好調が続いた17年が3.9%と、16年の3.2%から上昇した後、輸出から内需への波及が続く18年が3.7%とやや高めの成長を維持すると予想する。
(図表8)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表9)タイのインフレ率と政策金利
2-3.インドネシア
インドネシア経済は15年に下げ止まって以降、5%前後の緩やかな成長が続いている(図表10)。17年7-9月期の成長率は前年同期比5.06%増と、前期の同5.01%から横ばい圏の推移となったが、中国向けの石炭やパーム油、天然ゴムなどの資源関連製品を中心に輸出が拡大を続けるなか、建設投資と設備投資がそれぞれ上昇するなど景気回復の兆しが見えてきている。一方、民間消費は堅調ながらも小幅に鈍化した。低インフレ環境の継続(図表11)や高水準の消費者心理指数、そして景気梃入れに向けて中銀が実施した8月と9月の計0.5%利下げなど消費を巡る環境には明るい材料もあるが、賃金上昇ペースの鈍化や政府の税収拡大策などが民間消費を抑制した模様だ。

先行きのインドネシア経済は、投資の回復が続いて5%台前半まで成長ペースが加速すると予想する。インドネシア政府は2018年度予算の財政赤字(GDP比)を2.19%とし、17年度見通しの2.67%から縮小させるなど財政規律を重視する一方、インフラ開発は大幅に拡充した前年から更に6%増とする重点配分を行なった。また政府は断続的に公表している経済政策パッケージでは土地収用の迅速化やインフラ事業の外資規制緩和を持ち込むなど、公共事業の加速の拡大や海外資本の流入も見込まれ、建設投資の堅調な拡大が続く可能性は高い。また足元で回復し始めた企業の設備投資についても輸出拡大とコモディティ価格上昇、ビジネス環境の改善を受けて回復傾向が続くだろう。結果、雇用が第二次産業を中心に拡大するほか、企業収益の改善を背景に賃金の上昇も見込まれる。従って、GDPの約6割を占める民間消費は今後の物価上昇が家計の実質所得を目減りさせるなど短期的には落ち着いた伸びが続くものの、投資の回復につれて徐々に上向いていくものと予想する。政府消費は、政府が支出の効率化を進める一方で徴税強化の取組みや資源価格上昇に伴う関連収入の増加が見込まれることから低位安定した伸びが続く。

輸出は主要輸出先である中国経済が今後減速に向かうなかで資源輸出を中心に増勢が鈍化するものの、世界経済の回復を背景に輸出の増加傾向は維持するだろう。一方、輸入はインフラ事業の拡大に伴って増加するため、純輸出は成長率に対してマイナスに働くことになりそうだ。

金融政策は、中央銀行が8月と9月に政策金利を0.25%引き下げて以降、緩和的な金融スタンスを維持している。内需の弱さを背景にインフレ率が減速傾向にあり、利下げ余地はあるものの、欧米の金融政策正常化を受けて資本流出圧力が強まることを踏まえて金融政策は当面据え置かれるだろう。今後景気回復が徐々に強まるなかでインフレ率の上昇傾向が続く一方、中央銀行は18年の物価目標を3.5±1%と17年より0.5%ポイント引き下げている。18年後半には調整的な利上げ局面に入ると予想する。

実質GDP成長率は17年が5.1%と16年の5.0%から若干上昇した後、18年が5.3%とインフラ投資の進展を背景に内需主導で成長ペースが小幅に加速すると予想する。
(図表10)インドネシア実質GDP成長率(需要側)/(図表11)インドネシアのインフレ率と政策金利
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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