2017年12月11日

米国経済の見通し-ハリケーンにも拘らず、米経済の基調は底堅い。税制改革も含めた今後の経済政策に注目

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(貿易)外需寄与度はマイナスに変換も、来年以降は通商政策動向が影響
17年7-9月期の純輸出の輸出入内訳をみると、輸出入ともに前期から伸びが鈍化したものの、輸出が前期比年率+2.2%(前期:+3.5%)となったのに対し、輸入が▲1.1%(前期:+1.5%)とマイナスになっており、輸入の減少が純輸出を押し上げた形であったことが分かる。
(図表15)貿易収支(財・サービス) 純輸出は、これまで3期連続で成長率を押し上げたが、米国の強い内需や、相対的に経済が好調であることを考慮すると、このような状況は持続可能ではない。

実際、先日発表された10月の貿易収支(3ヵ月移動平均)は、季節調整済みで▲460億ドル(前月:▲449億ドル)の赤字と、前月から赤字幅が拡大した(図表15)。輸出入の内訳をみると、輸出額が前月から+8億ドル増加したのに対し、輸入額が+20億ドル増加しており、10月は7-9月期と対照的に輸入額の増加が貿易赤字を拡大させたことが分かる。このため、10-12月期以降は外需がマイナス寄与に転じるだろう。

一方、長期的な影響を与える上で重要な通商政策については、TPPなどの多国間交渉から二国間交渉を重視する方針などは示されているものの、6月末が期限となっていた貿易上の不正行為を特定するための報告書は未だ報告されておらず、どのような国や商品に対抗措置が取られるのか明確になっていない。

また、NAFTA再交渉次第では脱退も辞さないとするなど強硬的な姿勢もみられるが、懸念されていた対中国政策では、為替操作国認定や大幅な関税引き上げなどの極端な政策が採用される懸念は後退しており、貿易戦争などの最悪シナリオは回避されるとみられる。いずれにせよ、外需に影響を与える通商政策の行方については、来年の中間選挙も睨んで非常に不透明な状況であることに変わりはない。
 

3.物価・金融政策・長期金利の動向

3.物価・金融政策・長期金利の動向

消費者物価の総合指数(前年同月比)は、ハリケーン後に急騰したガソリン価格が落ち着いたこともあり、10月は+2.0%(前月:+2.2%)と前月から低下した(図表16)。
(図表16)消費者物価指数(前年同月比) 一方、エネルギーと食料品を除いたコア指数は+1.8%(前月:+1.7%)と、こちらは6ヵ月ぶりに伸びが加速した。また、FRBが物価目標としているPCE価格のコア指数も8月を底に小幅ながら反発していることから、コア指数は底入れした可能性がある。

賃金上昇が鈍いことや、携帯電話料金の引き下げなどの特殊要因もあって、17年以降コア指数の低迷が続いていたが、今後は賃金上昇率の加速が見込まれることや、特殊要因が剥落することから、これまでみられたようなコア指数の低迷が長期化することは考え難い。

さらに、当研究所では、原油価格を、足元(12月8日時点)の57ドル台から18年末に58ドル、19年末に60ドルまで緩やかに上昇すると予想しており、エネルギー価格は緩やかながら物価押し上げに寄与すると想定しているため、コア指数の底入れと併せて消費者物価の総合指数は、前年比で18年が+2.4%、19年が+2.3%と17年見込みの+2.1%から緩やかに上昇しよう。
(金融政策)12月に追加利上げ、18年は年3回の利上げ予想も人選に注目
FRBは、12月のFOMC会合で追加利上げを決定することが確実とみられる。この結果、17年は3回の利上げ(合計0.75%)と15年、16年ともに1回の利上げに留まっていたのに比べると利上げペースが早まった(図表17)。また、9月にバランスシート縮小開始を決定したこともあって、金融政策の正常化に向けての動きが加速した1年であったと言える。
(図表17)政策金利およびPCE価格指数、失業率 一方、18年以降も労働市場の回復持続や、物価の緩やかな上昇が見込まれることから、政策金利の引き上げは持続しよう。当研究所はパウエル新議長の元、来年以降も基本的に現在の金融政策方針が継続されると予想しており、政策金利は18年が年3回(合計0.75%)、19年が年2回(同0.50%)引き上げられると予想している。

もっとも、18年のFOMCで投票権がある12人のメンバーをみると、イエレン議長の辞任もあってFRB理事が3名未指名となっているほか、ニューヨーク連銀のダドリー総裁の後任も未指名となっている。また、FRB理事に指名されている経済学者のグッドフレンド氏や、リッチモンド連銀総裁として指名されているマッキンゼー出身のバーキン氏の金融政策スタンスも明確になっていない。このため、12名のメンバーのうち、半数に当る6名の金融政策スタンスが不明となっており、人選次第では金融政策方針が現状から軌道修正される可能性があるため、その動向が注目される。
(長期金利)19年にかけて3%台前半に上昇を予想
長期金利(10年国債金利)は、年前半に2.6%超まで上昇したものの、FRBが利上げを継続しているにも拘らず、物価が抑制されていることもあり、足元まで2%台前半での推移が続いている。

当研究所では、今後は物価が緩やかな上昇を続ける中で、政策金利の引き上げが持続することを、見込んでいることに加え、FRBのバランスシート縮小や、財政赤字拡大に伴う米国債需給の悪化などから19年にかけて3%台前半まで長期金利が上昇すると予想する。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2017年12月11日「Weekly エコノミスト・レター」)

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