2017年12月11日

【11月米雇用統計】雇用者数は前月比22.8万人増と、市場予想を上回る伸びも、賃金上昇は依然緩やか

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は市場予想を上回る一方、失業率は市場予想に一致

12月8日、米国労働省(BLS)は11月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+22.8万人の増加1(前月改定値:+24.4万人)と、+26.1万人から下方修正された前月を下回った一方、市場予想の+19.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)は上回った(後掲図表2)。

失業率は4.1%(前月:4.1%、市場予想:4.1%)と、こちらは前月、市場予想に一致した(後掲図表6)。一方、労働参加率2は62.7%(前月:62.7%)と、こちらも前月に一致した(後掲図表5)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:堅調な雇用増加も賃金上昇ペースは依然緩やか

11月の非農業部門雇用者増加数が前月に続いて20万人超の堅調な伸びとなったことで、夏場のハリケーンによる変動はあったものの、年初来の月間平均増加数は17.4万人増と16年通年の18.7万人増に迫るペースとなった。このため、完全雇用に近いとの見方がでている中でも雇用は順調に増加していると言える。

家計調査では、失業率が10月に続いて00年12月以来の低水準となったものの、労働参加率の改善が足踏みしていることから、労働需給に大きな変化はないとみられる。前月の労働参加率の下落幅が▲0.4%ポイントと大きかったことから、今月は幾分改善することを期待していたが、改善はみられなかった。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、11月の時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.2%(前月改定値:▲0.1%、市場予想:+0.3%)となったほか、前年同月比が+2.5%(前月改定値:+2.3%、市場予想:+2.7%)となり、いずれも前月比横這い、前年同月比+2.4%であった前月値から下方修正された前月改定値は上回ったものの、市場予想を下回る結果となった(図表1)。

このようにみると、家計調査での回復に足踏みがみられるほか、事業所調査では雇用者数は順調に増加しているものの、依然として賃金上昇率は抑制されていることを示す結果であったと言える。もっとも、賃金上昇率は抑制されているものの、米景気が順調に回復していることもあって、12月のFOMC会合では予想通り0.25%の追加利上げが実施されるだろう。

3.事業所調査の詳細:小売業が増加も、娯楽・宿泊サービスが前月からの反動で伸び鈍化

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、非農業部門雇用増の内訳は、民間サービス部門が前月比+15.9万人(前月:+21.3万人)と、前月から伸びが鈍化した(図表2)。

サービス部門では、年末商戦が本格化している小売業で+1.9万人(前月:▲0.2万人)と前月から大幅に伸びが加速したほか、医療サービスも+3.0万人(前月:+2.2万人)と伸びが加速した。一方、専門・ビジネスサービスが+4.6万人(前月:+5.4万人)と、前月から小幅ながら伸びが鈍化したほか、ハリケーンに伴い減少した反動で前月に大幅増加となった娯楽・宿泊サービスが、+1.4万人(前月:+10.4万人)と伸びが大幅に鈍化した。

サービス部門とは対照的に財生産部門は、前月比+6.2万人(前月:+3.4万人)と、前月から伸びが加速した。建設業が+2.4万人(前月:+1.0万人)と前月から伸びが加速したほか、製造業も+3.1万人(前月:+2.3万人)と伸びが加速した。

政府部門は、前月比+0.7万人(前月:▲0.3万人)と、こちらは前月から増加に転じた。内訳をみると、連邦政府は前月比▲0.3(前月:+0.3万人)と前月から減少に転じたものの、州・地方政府が+1.0万人(前月:▲0.6万人)と、前月からプラスに転じ全体を押し上げた。
前月(10月)と前々月(9月)の雇用増(改定値)は、前月が+24.4万人(改定前:+26.1万人)と▲1.7万人下方修正された一方、前々月が+3.8万人(改定前:+1.8万人)とこちらは+2.0万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+0.3万人の上方修正となった(図表3)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)
なお、BLSの公表に先立って12月6日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+19.0万人(前月値:+23.5万人、市場予想:+19.0万人)と、前月から伸びが鈍化したものの、市場予想には一致した。この結果、11月は雇用統計、ADPともに前月から伸びが鈍化したものの、堅調な雇用拡大が持続していることを示した。
 
11月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が26.55ドル(前月:25.50ドル)となり、前月から+5セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.4時間)とこちらも前月から+0.1時間の増加となった。その結果、週当たり賃金は915.98ドル(前月:911.60ドル)と前月から増加した(前掲図表4)。

4.家計調査の詳細:労働力人口が増加に転じるも力強さを欠く

家計調査のうち、11月の労働力人口は前月対比で+14.8万人(前月:▲76.5万人)と、前月から増加に転じた。内訳を見ると、就業者数が+5.7万人(前月:▲48.4万人)となったほか、失業者数も+9.0万人(前月:▲28.1万人)と、いずれも前月から増加に転じた。一方、非労働力人口は+3.5万人(前月:+96.8万人)と、こちらは前月から大幅に伸びが鈍化したものの2ヵ月連続の増加となった。

この結果、労働参加率は62.7%(前月:62.7%)と前月から横這いに留まった(図表5)。労働参加率は、前月の低下幅が大きかったことから今月の反発が期待されたが、労働力人口の増加が力強さに欠けたことから、労働参加率の回復はみられなかった。

また、失業率は、4.1%と00年12月以来の低位に留まり、労働需給がタイトであることを示しているものの、11月は労働参加率と併せて回復は足踏みとなった(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
次に、11月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、158.1万人(前月:162.1万人)となり、前月対比では▲4.0万人(前月:▲8.8万人)と、4ヵ月連続の減少となった。長期失業者の失業者全体に占めるシェアも23.8%(前月:24.8%)と、3ヵ月連続の低下となった。また、平均失業期間は25.4週(前月:26.0週)と、こちらも前月から低下した(図表7)。

最後に、周辺労働力人口(148.1万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(480.1万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4をみると、11月は8.0%(前月:7.9%)と5ヵ月ぶりに前月から上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は3.9%ポイント(前月:3.8%ポイント)と、こちらも4ヵ月ぶりに拡大に転じた。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2017年12月11日「経済・金融フラッシュ」)

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