2017年12月06日

地域医療構想を3つのキーワードで読み解く(3)-「医療軍拡」と冷戦期の軍縮から得られる示唆

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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■要旨

今年3月までに各都道府県が策定した「地域医療構想」を読み解くレポート(全4回)のうち、第1回は都道府県が切れ目のない提供体制構築を重視している点、第2回は欧州諸国で論じられている「脱中央集権化」(decentralization)に着目して各都道府県が取るべき考え方や対応策を論じた。

第3回は「医療軍備拡張競争」(Medical Arms Race)という言葉に着目する。これは米ソ冷戦期の核軍拡競争のように、医療機関が高度な設備や機器、多くの人員を持ちたがる行動を指す。各医療機関の合意形成を通じて病床再編や医療機関の役割分担を図ろうとする地域医療構想は医療軍拡を抑制する狙いがある。

そこで本リポートでは、地域医療構想を「医療軍拡を抑える制度」と捉えつつ、前半は冷戦期の核軍拡競争と軍縮の歴史を考察することで、医療軍拡の共通点を探ることで、地域医療構想で取るべき都道府県の対応として、(1!共通の利益で一致すること、(2!関係者間で信頼関係を醸成すること―が重要と指摘する。その上で後半では、こうした取り組みを進める一例として、民間医療機関との合意形成を丁寧に進めようとしている佐賀県の事例を取り上げることで、民間中心の医療提供体制で都道府県の対応策が限られている中、他の地域にも通用する普遍性を持っている可能性を論じる。

■目次

1――はじめに
2――医療軍備拡張競争(医療軍拡)とは何か
  1|医療サービスの特性
  2|MRI、急性期の取得傾向
  3|軍縮としての地域医療構想
3――核軍拡と医療軍拡の共通点
  1|米ソ核軍拡と軍縮の歴史
  2|核軍拡と軍縮の歴史から得られる示唆
  3|「囚人のジレンマ」ゲーム
  4|地域医療構想への応用
4――佐賀県の取り組み
5――おわりに
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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レポート紹介

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