2017年12月01日

【インドGDP】7-9月期は前年同期比6.3%増~GST導入の影響が残り、景気回復は限定的に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2017年7-9月期の実質GDP成長率1は前年同期比6.3%増(前期:同5.7%増)と上昇したものの、市場予想2の同6.4%増を小幅に下回った。

需要項目別に見ると、投資の回復と純輸出の改善が成長率上昇に繋がった(図表1)。

民間消費が前年同期比6.5%増(前期:同6.7%増)と小幅に低下したほか、政府消費も同4.1%増と高水準だった前期の同17.2%増から大きく低下した。一方、総固定資本形成は同4.7%増(前期:同1.6%増)と上昇した。

純輸出については、輸出が同1.2%増(前期:同1.2%増)と横ばいとなった一方、輸入が同7.5%増(前期:同13.4%増)と低下した。その結果、純輸出の成長率への寄与度は▲1.3%ポイントと、前期の▲2.6%ポイントからマイナス幅が縮小した。

実質GVA成長率は前年同期比6.1%増(前期:同5.6%増)と上昇したものの、市場予想(同6.2%増)を小幅に下回った(図表2)。

産業別に見ると、第二次産業の回復が成長率上昇に繋がった。

第二次産業は同5.8%増(前期:同1.6%増)と上昇した。内訳を見ると、製造業が同7.0%増(前期:同1.2%増)、建設業が同2.6%増(前期:同2.0%増)、鉱業が同5.5%増(前期:同0.7%減)、電気・ガス業が同7.6%増(前期:同7.0%増)と、それぞれ上昇した。

一方、第三次産業は同7.1%増(前期:同8.7%増)と低下した。内訳を見ると、卸売・小売、ホテル、運輸・通信業が同9.9%増(前期:同11.1%増)、金融・不動産・専門サービス業が同5.7%増(前期:同6.4%増)、行政・国防が同6.0%増(前期:同9.5%増)と、それぞれ低下した。

第一次産業は同1.7%増(前期:同2.3%増)と小幅に低下した。
(図表1)インドの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)インドの実質GVA成長率(産業別)
 
1 11月30日、インド中央統計機構(CSO)が2017年7-9月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

7-9月期GDPの評価と先行きのポイント

インド経済は昨年11月の高額紙幣廃止による現金不足のショックを引き摺るなか、7月の物品・サービス税(GST)導入に伴う混乱も重なって4-6月期まで景気減速が続いたが、7-9月期はその影響が和らいで成長率が6%台まで上昇した。もっとも高額紙幣廃止前の成長率が7%台後半だったことを踏まえると、インド経済は巡航速度まで回復してはいない。足元の現金流通量は廃貨前の9割超まで回復し(図表3)、現金不足の影響はほとんど解消されているが、GST導入に伴う混乱の悪影響が残り、GDPが押し下げられているためだ。

GSTの悪影響が強く残ったのは輸出だ。海外経済の回復傾向が続き、世界の貿易取引量が拡大したにもかかわらず、インドの輸出は2期連続で低調となった。GST導入後も企業による節税目的2の在庫削減の影響が残ったほか、制度変更に伴う輸出手続きの混乱が生じて輸出の回復が遅れた。

民間消費も企業の在庫削減の影響が残ったものの、短期的には税収中立となるような税率が適用されたため、輸出ほどGSTの影響は大きくない。GST導入後にサービスなど増税された商品の販売が落ち込んだ一方、自動車など値下げされた商品の売上げは増加した。またGST以外では、農産品価格の低迷で農村部の所得環境が悪化したことが民間消費の回復の遅れに繋がった。

一方、投資は在庫回復に向けた鉱工業部門の生産拡大や今後の需要回復期待を背景に上昇し、過去5四半期で最も高い伸びとなった。
(図表3)インド現金流通量の推移/(図表4)インドの貿易動向
経済の先行きはどうだろうか。今後GST導入に伴う混乱が落ち着くなか、成長ペースは巡航速度に戻るだろう。10月下旬にインド政府が打ち出した9兆ルピーの景気刺激策が追い風となり、景気回復は18年度も続きそうだ。

政府の景気刺激策は、今後5年間で6.9兆ルピーの道路建設や2年間で2.1兆ルピーの国営銀行に対する資本注入策などが盛り込まれた。今後公共事業の加速と貸出機能の正常化を通じて、投資の拡大が続く可能性は高まった。また企業がGSTに合わせてサプライチェーンの再構築を進めることや、米大手格付け会社ムーディーズがインドの長期債格付けを「Baa3」から「Baa2」に引き上げたこと、さらには世界銀行が10月に公表した「Doing Business 2018」でインドのビジネス環境ランキングが前年の130位から100位まで上昇したことも、今後の投資拡大をサポートしそうだ。

一方、足元では景気が伸び悩む懸念も浮上している。財貨輸出は9月に前年同月比21.3%増まで急拡大したものの、10月には再び同3.6%減まで低下した(図表4)。GSTの還付3手続きが遅れて輸出業者の資金繰りが悪化していることが影響しており、輸出回復の遅れが続く可能性もある。

また財政赤字が9月までに2017年度目標の9割にまで達しており、現在政府は財源の確保や歳出の抑制を迫られている。景気への影響を踏まえると、財政赤字を拡大させる必要があるが、その場合に財政赤字目標の後退は避けられず、債券市場や為替市場に悪影響が生じる恐れがある。
 
2 企業の節税目的の在庫調整については2017年7月31日公表の基礎研レポート「10年越しのGST導入 インド経済どう変わる?」を参照。
3 輸出品はGST非課税のため、企業は取引に課かった課税分の還付を受けることができる。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2017年12月01日「経済・金融フラッシュ」)

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