2017年11月13日

太りゆく男性とやせゆく女性-データで見る消費者の健康・美容志向の背景

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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4――摂取カロリーは減っても脂質の多い食事に

さて、体格には食事と運動が影響するが、これらの状況はどうなっているのだろうか。

厚生労働省「国民健康・栄養調査」によると、1日の摂取カロリーは国民全体で減少傾向にある。2000年と2015年を比べると、男女とも30~50歳代の減少が目立つ。男性では30歳代で▲126kcal(変化率では▲5.5%)、40歳代で▲93kcal(▲4.1%)、50歳代で▲95kcal(▲4.1%)、女性では30歳代で130kcal(▲7.3%)、40歳代で130kcal(▲7.1%)、50歳代で131kcal(▲7.0%)も減少している。

一方で摂取カロリーのうち、脂肪エネルギー比率は増えており、40歳代以上の上昇幅が比較的大きい(いずれも2%程度)。つまり、中高年男女を中心に、過去と比べてカロリーに対して脂肪分がやや多い食事内容となっている。この背景には食生活の洋風化があるのだろう。

一方で運動習慣や歩数については、男女とも70歳以上では増えているが、他の年代では大きな変化はない。

よって、中高年男性で肥満が増えている背景には、摂取カロリーは減っているものの脂肪分の多い食事が増えていることがあるのだろう。一方、女性では肥満が減っているわけだが、摂取カロリーの減少幅が男性と比べてやや大きいことが影響しているのかもしれない。あるいは、男性では就寝前の飲食やドカ食いが多いが、女性では少ないなど、食事の取り方の違いもあるのかもしれない。女性では若い頃からダイエット意識が芽生えることも多いため、女性が食生活の常識として認識していることでも(肥満には摂取カロリーの影響もあるが食のバランスや食事を取るタイミングも影響するなど)、男性ではさほど知られていないなど、知識の差もあるだろう。
 

5――若者と中年男性の「アルコール離れ」、高齢男性と中高年女性では増加

5――若者と中年男性の「アルコール離れ」、高齢男性と中高年女性では増加

健康・美容を意識した食生活といえば、アルコール摂取状況も気になるところだ。先の調査によると、飲酒習慣率は、男性では60歳代以上で上昇しているが、20~50歳代では低下している(図3)。若者の「アルコール離れ」をよく耳にするが、「アルコール離れ」は男性では若者だけではない

一方で女性の飲酒習慣率は、20~30歳代では低下しているが、40歳代以上では上昇しており、特に50~60歳代の上昇が目立つ。

BMIでは中高年男性の肥満率が高まっており、特に60歳代以上の上昇が目立っていた。高齢男性で肥満が増えた理由の1つには、食生活の洋風化に加えて、飲酒の増加もあるようだ。一方で30~50歳代の男性では、飲酒を控えるようになっているのにも関わらず肥満が増えている。やはり、食事の内容やタイミングも含めた食習慣が影響しているのかもしれない。

女性では、中高年の肥満率が下がっており、特に50~60歳代の低下が目立っていた。一方で50~60歳代の女性では飲酒が増えているため矛盾しているようだが、女性の飲酒習慣率は男性と比べてはるかに低いために影響が出にくいのだろう。
図3 飲酒習慣率の推移

6――おわりに~セグメントによって異なる健康・美容志向の背景、消費者の困りごとは新たな消費機会に

6――おわりに~セグメントによって異なる健康・美容志向の背景、消費者の困りごとは新たな消費機会に

本稿では、消費者全体で健康・美容志向が高まる中、改めて統計データを用いて、日本人のBMIや摂取カロリー、飲酒習慣率などの変化を捉えた。その結果、セグメントによって、健康・美容志向の背景は異なる様子が窺えた。

まず、BMIの推移を見ると、男性では「肥満」の割合が全ての年代で増え、「やせ」の割合が30歳代以上で減っている。一方、女性では「肥満」の割合が40歳代以上で減り、「やせ」の割合が全体的に増えている。つまり、全体として、男性は太りゆく一方、女性はやせゆく様子が読み取れる。

世間では年齢よりも若々しく見える中高年女性を「美魔女」を呼ぶようだが、中高年女性では「肥満」が減り「やせ」が増えており、確かにアンチエイジングに励み、若い頃のスタイルを維持する女性が増えているようだ。なお、女性と同等か、それ以上に美容意識の高い男性は「美容男子」と呼ばれるそうだが、男性では20歳代でのみ「やせ」が増えており、この層が該当するのかもしれない。

また、若年単身世帯の食費の変化から、今の若い男性では外食を減らし、自炊に励む「料理男子」が増えている様子が見える。自炊が増えた背景には節約志向もあるのだろうが、健康・美容志向の高まりも影響しているだろう。なお、現在、未婚者が結婚相手に求める条件の首位は「人柄」だが、僅差で2位に「家事・育児の能力」があがる。「家事・育児の能力」を重視する割合は、特に女性で高い。今後、働く女性が増える中、健康や美意識の高い「料理男子」は結婚につながる可能性も高そうだ。

摂取カロリーについては、国民全体的に1日の摂取カロリーは減少しているが、脂肪エネルギー比率が増えている。なお、摂取カロリーの減少は30歳代以上の女性で、脂肪エネルギー比率の上昇は40歳代以上で目立つ。中高年では食生活の洋風化の影響か、脂肪分の多い食事内容となっているが、これが中高年男性で肥満が増えている背景にあるのだろう。一方で中高年女性では、やせている割合が増えているが、摂取カロリーの減少幅が男性と比べて大きいことが効いているのだろう。

飲酒の状況については、男性では20~50歳代で飲酒習慣率が低下し、60歳代以上では上昇している。女性では20~30歳代で低下し、40歳代以上で上昇している。BMIの推移では、高齢男性で肥満が増えていたが、飲酒が増加した影響もあるのだろう。一方、中年男性では飲酒が減っているにも関わらず、肥満が増えている。これは、やはり食事内容や食事のタイミングなども含めた食習慣の影響があるのだろう。なお、中高年女性では飲酒が増えているにも関わらず肥満は増えていないが、女性の飲酒習慣率は男性と比べてはるかに低いために、全体で見た際には影響が出にくいのだろう。

以上より、消費者全体で健康・美容志向が高まっているが、中高年男性では肥満の改善、中高年女性はアンチエイジング、若い男性では美意識など、セグメントによって、その背景は異なる。

往々にして、消費者の困りごとには新たな商機が隠れている。ライフスタイルが多様化する中で、どんな層がどんなことに困り、どんなことを求めているのか、1つ1つ解きほぐしていくことで、新たな消費機会が生まれる。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

(2017年11月13日「基礎研レター」)

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