2017年11月13日

太りゆく男性とやせゆく女性-データで見る消費者の健康・美容志向の背景

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

1――消費者の健康・美容志向の高まり

秋が深まり澄んだ空気の中で、ジョギングでもやってみようか、と思い立つ方も多いのではないだろうか。近年のマラソンブームで、老若男女を問わずランナーを目にするようになった。「山ガール」による登山ブームは落ち着いてきたようだが、スポーツクライミング1が2020年の東京五輪の種目に追加されたことで、ジムでボルダリングを楽しむ人も増えていると聞く。活動量計や脈拍計測機能などを搭載したスマートウォッチも人気だ。健康関連市場は活気づいているようだ。

食にこだわる消費者も増えている。最近では、ごく普通のスーパーでも、特定保健用食品や低糖・低カロリー商品だけでなく、自然食品やオーガニック食品を扱うところが増えたようだ。食の安全志向が高まっていることもあり、無農薬や有機野菜の宅配サービスも人気だ。

これまで健康や美容というと、中高年の健康増進や女性のアンチエイジングという印象が強かった。しかし、最近では、むしろ若者が目立つ状況もある。アンチエイジング先進国の米国では、健康志向の高まりを牽引するのは1980~2000年代初頭生まれのミレニアル世代だそうだ2。インターネットの普及と共に育ち、健康に関する知識が豊富なため、他世代より健康志向が高いという。日本でも同様の状況が予想される。

本稿3では、消費者全体で健康志向や美容志向が高まる中で、改めて統計データを用いて、日本人の健康や栄養、運動習慣の変化を見ていきたい。
 
1 公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会HPによると、スポーツクライミングはリード・ボルダリング・スピードの3つの複合種目として実施。リードはロープで安全が確保された状態で12m超の壁に設定されたコースを登り制限時間内の到達度を、ボルダリングは高さ5m以下の壁に設定された複数のコースを制限時間内にいくつ登れたかを、スピードは高さ15mの壁に設定された予めホールドの配置が周知されたルートを登るタイムを競う。
2 今泉潤子「健康志向が高まる米国で事業強化を進める食品メーカー」、三井住友銀行、マンスリー・レビュー(2015年5月号)
3 本稿は一般社団法人日本ショッピングセンター
 

2――太りゆく男性とやせゆく女性、「美魔女」「美容男子」の存在も

2――太りゆく男性とやせゆく女性、「美魔女」「美容男子」の存在も

まず、体格を表すBMIの状況を確認する。BMIは体重(kg)を身長(m)の二乗で割ったもので、18.5未満が「低体重(やせ)」、18.5以上25.0未満が「普通」、25.0以上が「肥満」に分類される。

「肥満」の割合は、男性では40~50歳代を中心に、女性では高年齢ほど高い傾向がある(図1)。推移を見ると、男性では全ての年代で上昇しており、特に40歳代以上の上昇が目立つ。一方で女性では40歳代以上で低下しており、50~60歳代の低下が目立つ。なお、「やせ」の割合は、「肥満」とはおおむね逆の動きを示し、男性では20歳代をのぞく全年代で低下(特に高年齢層)、女性では20~50歳代で上昇、60歳代以上ではおおむね横ばいで推移している(図2)。
図1 BMI25.0以上(肥満)の割合の推移
図2 BMI18.5未満(やせ)の割合の推移
つまり、この三十年余りで、男性は太りゆく一方、女性はやせゆく様子が読み取れる。20歳代の男性では「肥満」も「やせ」も増えているため、他と比べて二極化傾向が若干強くなっている。

今、消費者全体で健康・美容志向が高まっているが、BMIの推移を見ると、その理由はセグメントによって異なるのだろう。中高年男性では肥満の改善、女性や若い男性では主に美意識によるもののように見える。若者では先に触れた通り、健康・美容知識の豊富さも影響しているのかもしれない。

世間では年齢よりも若々しく見える中高年女性を「美魔女」と呼び、ファッション誌ではコンテストも行われている。「肥満」率の低下と「やせ」率の上昇から、確かにアンチエイジングに励み、若い頃のスタイルを維持する中高年女性は増えているようだ。

一方で20歳代の男性で「やせ」が増えている背景には「美容男子」の存在があるのかもしれない。最近では、スキンケアや脱毛、ネイルなどに励み、女性と同等か、それ以上に美容意識の高い男性を「美容男子」と言うそうだ。近年、男性向け化粧品や美容サービスも増える中、若者を中心に存在感を示しているのだろう。
 

3――若者では「料理男子」が増加、結婚にもつながりやすい?

3――若者では「料理男子」が増加、結婚にもつながりやすい?

ところで、以前に「若年層の消費実態(3)-「アルコール離れ」・「外食離れ」は本当か?」で述べた通り、今の若い男性では、外食を減らし、自炊に励む「料理男子」が増えている

総務省「全国消費実態調査」によると、30歳未満の単身勤労者世帯の男性では、外食費が1989年から2014年にかけて月3.1万円から1.7万円へ、物価を考慮した実質増減率では▲54.1%も減少している。一方、油脂・調味料や肉類、穀類、野菜・海草など食材の支出が増えている。この背景には、節約志向などもあるのだろうが、BMIの変化も合わせると、健康・美容志向の高まりも影響しているのではないだろうか。

一方、女性でも外食は減っているが(1.2万円→1.1万円、実質増減率▲28.2%)、食材の支出が全体的に減っており、代わりに調理食品が増えている(3.1千円→4.5千円、同+14.2%)。男性並みに忙しく働く女性が増えたことで、自炊が減り、総菜などの利用が増えているのだろう。

ところで、国立社会保障人口問題研究所「2015年出生動向基本調査」によると、未婚者が結婚相手に求める条件は4、男女とも首位は「人柄」(男性95.1%5、女性98.0%)だが、僅差で2位に「家事・育児の能力」(男性92.8%、女性96.0%)があがる。なお、「家事・育児の能力」を重視する割合を見ると、男性46.2%、女性57.7%で、女性が男性を11.5ポイントも上回る。働く女性が増える中、この傾向がますます強まるとすれば、健康や美容意識の高い「料理男子」は結婚につながる可能性も高そうだ。
 
4 設問「あなたは結婚相手を決めるとき、次の項目について、どの程度重視しますか。それぞれあてはまる番号に○をつけてください。」に対して選択肢が「1.重視する」「2.考慮する」「3.あまり関係ない」の三択。
5 「1.重視する」と「2.考慮する」の合計値。
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【太りゆく男性とやせゆく女性-データで見る消費者の健康・美容志向の背景】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

太りゆく男性とやせゆく女性-データで見る消費者の健康・美容志向の背景のレポート Topへ