2017年11月06日

若年・子育て世帯で厳しさを増す住宅負担~改正住宅セーフティネット法で負担軽減制度スタートへ~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

単身の若年世帯や子育て世帯等(以下、記載がない限り「若年世帯等」という)の生活は、過去約20年で厳しさを増している。国内ではバブル経済崩壊の影響が強く出てきた1990年代後半から企業が人件費を抑制し始め、パートや契約社員、派遣社員などの非正規雇用が増えたことから、働く人の収入は減った。経済は2000年代前半にいったん回復の兆しを見せたが、この間に就職活動期を迎えた「就職氷河期世代」には、正社員の職が見つからずに卒業後、非正規雇用に就いた人も多く、若年世帯等の収入低迷の一因となっている1。一方で、賃貸住宅の家賃は上昇し、家庭生活の土台となる住居にかかる負担が増しており、単身の若年世帯にとっては、結婚して世帯を形成する上で足かせになっていると考えられる。

こうした状況を改善しようと、国土交通省は「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律」(改正住宅セーフティネット法、2017年10月25日施行)を制定し、低所得など一定の要件を満たした世帯が予め登録された住宅に入居する場合、月最大4万円の家賃補助や、入居時に最大6万円の家賃債務保証料を支給する新たな入居負担軽減制度を設けた。今後、都道府県や市町村ごとに具体的な計画を策定した上で順次、運用を開始する。

従来の住宅セーフティネット政策は、公営住宅の入居対象をとっても高齢者中心に行われてきたが、この制度は、これまでスポットが当たってこなかった低所得の若年世帯等を支援対象に含めた点で、一石を投じるものとなった。しかし実施規模は小さく、どれだけ実績を上げられるかは自治体の判断に拠るところが大きい。本稿では、若年世帯等に対する住まいのサポートの必要性と、新たな入居負担軽減制度の課題について報告したい。
 
1 総務省の労働力調査によると、非正規雇用で働く人のうち、自ら希望したのではなく、正社員・正職員の職が見つからなかったために働いている「不本意非正規」の人数は、2016年平均で約297万人に上り、非正規労働者全体(現在の雇用形態に就いた理由が無回答の人を除く)の15.6%となる。年代別でみると、就職氷河期世代が含まれる35~44歳の不本意非正規は約62万人で、同じ年代の非正規労働者(同)の17%にあたり、全年代の平均を上回っている。
 

2――若年世帯等の負担増、支援減

2――若年世帯等の負担増、支援減

1|30~40歳代の単身世帯の可処分所得は15年間で1割以上減少
国税庁の民間給与実態統計調査によると、民間企業等で働く人の給与総額と平均年収は1997年をピークに減少し始めた。2000年代半ばにいったん増加に転じたが、2008年秋のリーマン・ショックで再び落ち込み、2015年時点の平均年収は1997年から10%も減少した(図1)。
図1 企業が従業員に支払った給与総額と平均年収の推移
次に、総務省が5年ごとに行っている全国消費実態調査に基づき、年代別に平均可処分所得を見ると、2014年時点と図1のピーク時に近い1999年時点とでは、単身世帯の30歳代は13.5%減少、40歳代は16.3%減少しており、いずれも全年代の平均より落ち込みが激しい(図2)。

既に結婚し夫婦のみや子どもを持つなどした「二人以上世帯」については、世帯主が30歳代の世帯は2.5%減少、40歳代は12.1%減少となっている(図3)。

世帯構成別にみると、結婚予備軍といえる単身世帯の可処分所得はより大きく減少していることが分かる。この結果から、単身世帯にとって、家計の厳しさが、結婚して家庭を持つことをためらわせる一因となっている事情がうかがえる2

平均収入が低いことや可処分所得の落ち込みから、単身世帯では貯蓄が無い人も増加している3
図2 年代別にみた平均可処分所得の変化(単身世帯)
図3 年代別にみた平均可処分所得の変化(二人以上世帯)
 
2 総務省の国勢調査(2015年)によると、25~29歳男性の未婚率は72.7%、同女性は61.3%、30~34歳男性は47.1%、同女性は34.6%、35~39歳男性は35.0%、同女性は23.9%に上る。1985年に比べると、それぞれ12~31ポイントの範囲で増加している。
3 政府や日本銀行、民間団体などでつくる金融広報中央委員会が2007年から毎年行っている「家計の金融行動に関する世論調査」(単身世帯調査)によると、運用目的または将来のための備えとして金融資産を「保有していない」と回答した人の割合は、2015年時点で、30歳代は45.3%、40 歳代では44.9%に上った。2007年時点に比べ、いずれも1割以上増加している。二人以上世帯調査では、世帯主が30歳代の世帯では27.8%、40歳代では35.7%で、同様に6~13ポイントの幅で増加した。保有している金融資産額を尋ねると、2015年時点の単身世帯では中央値で30歳代が50万円、40歳代が110万円にとどまった。二人以上世帯では30歳代が213万円、40歳代が200万円だった。
2|可処分所得に占める家賃割合は上昇
次に、若年世帯等に対する家賃支援の必要性について考えてみたい。働く人の可処分所得が減少していることに加え、平均家賃は増加傾向にあることから、民間賃貸住宅に住む人の生活は年々苦しくなっている。全国消費実態調査から試算したところ、2014年時点の平均家賃は月額5万927円であり、バブル経済崩壊前の1989年時点に比べて約7割上昇した。

家賃の可処分所得に対する割合は、1989年時点では総世帯で8.6%だったが、2014年時点では14.2%に増えた。男女別、年代別でみると、単身世帯の40歳未満と40歳代の男女ではいずれも総世帯より高く推移しており、2014年にはいずれも2割前後となっている。毎月、使えるお金の2割が家賃に消えていくことになる。1989年の値と比べると、単身の40歳未満男女と単身40歳代男女は4.5~11.5ポイントの範囲で増加している(図4)。
図4 平均家賃と、平均家賃の可処分所得比の推移
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

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