2017年10月23日

活況が続く大阪のオフィス市場-大規模ビルを中心に好調は梅田地区以外へ波及

竹内 一雅

文字サイズ

1. はじめに

大阪オフィス市場では、今年竣工した大規模ビルの中之島フェスティバルタワーウェストがほぼ満室で開業するなど好調が続いている。新規の大規模ビルの供給が少ない中、オフィス市況の活況は梅田地区の大規模ビルから他地区にも波及し始めたと考えられる。本稿では、大阪のオフィス市場の現況把握とともに2023年までの賃料予測を行う1
 
1 過去の大阪オフィス市況の見通しに関するレポートとしては、竹内一雅「大阪オフィス市場の現況と見通し(2017年)」(2017.2.24)ニッセイ基礎研究所などを参照のこと。


 

2. 大阪のオフィス空室率・賃料動向

2. 大阪のオフィス空室率・賃料動向

大阪のオフィス市況は堅調な需要拡大が続き、大規模ビルを中心にまとまった空室を確保するのが困難な状況となっている。三幸エステートによると、2017年10月の大阪市の空室率は4.94%まで低下した。特に大規模ビルは2.45%とほぼ空室がない状態となっている(図表-1)。CBREによると2000年以降に竣工した市内のオフィスビルで300坪以上の床をワンフロアで提供できるビルは1棟のみの状況にあるという2

成約賃料(オフィスレント・インデックス)も上昇傾向が続いている(図表-2)。2017年上期の賃料上昇率は前期比+4.0%、前年同期比+15.1%の上昇で、リーマンショック後の底値(2012年下期)からの上昇率は60.5%に達し、ファンドバブル期の高値(2008年下期)の90.4%に回復した。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
大阪では全ての規模別3空室率が順調に低下しており、すでにファンドバブル期(2006~08年)の最低水準を下回っている4(図表-3)。大阪ビジネス地区では全地区で空室率が顕著に改善し、例えば梅田地区では2010年末の11.9%から現在は2.4%にまで低下している(図表-4)。
図表-3 大阪の規模別空室率/図表-4 大阪ビジネス地区の地区別オフィス空室率(年次)
 
2 山口武「大阪オフィスマーケット オフィススペースが確保できない!?未曾有の低空室率時代」CBRE事業用不動産レポート(2017.9.26)」
3 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
4 規模別空室率の折れ線グラフが交差しないことが大阪のオフィス市場の特徴である。東京などでは中小ビル空室率は好況期に大きく改善するなど、空室率の変動幅は一般に中小ビルで大きく、一方で成約賃料は大規模ビルの変動幅が大きい。大阪でも賃料の変動幅は東京と同様に大規模ビルで大きいと考えられる一方、空室率の改善幅は規模に係らず同程度である。このことは市況回復期に大阪の中小ビルオーナーの景況感の回復が大規模ビルと比べてかなり遅れる傾向の一要因と感じられる。
 

3. 大阪のオフィス需給と地区別動向

3. 大阪のオフィス需給と地区別動向

三鬼商事によると、大阪ビジネス地区5の空室面積は8万4千坪と、2010年末のピーク時の3分の一の規模に減少した(図表-5)。梅田地区でも2010年末には7万7千坪の空室があったが、現在はその23%の1万8千坪となっている(図表-6)。

空室面積の減少は、7年続く賃貸面積6(稼動面積)の大幅な増加と、新築ビル供給の少なさによってもたらされている(図表-7左図)。月次でみても、賃貸需要の着実な増加は2013年から継続しており、過去30ヶ月で空室面積の増加はわずか3ヶ月でみられたにすぎない(図表-7右図)。
図表-5 大阪ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積/図表-6 梅田地区の新築・既存ビル別空室面積
図表-7 大阪ビジネス地区賃貸オフィスの需給面積増加分
三幸エステートのネット・アブソープション7(吸収需要)の調査でも、大阪のオフィス需要の強さは明らかである(図表-8)。ファンドバブル期(2003年~07年)の吸収需要は32万坪であったが、2012年以降の吸収需要は43万坪と、ファンドバブル期を大きく上回る増加が続いている。

大阪ビジネス地区の賃貸面積の増加を新築ビルと既存ビルに分けてみると、2014年以降では、新築ビル供給の少なさもあり、面積増加の多くが既存ビルでの増加となっており、最近の需要回復が既存ビルにも波及していることが分かる(図表-8)。
図表-8大阪市内の新規供給とネットアブソープション/図表-9 大阪ビジネス地区の新築・既存ビル別賃貸面積増分
大阪ビジネス地区の各地区別空室率も低下傾向にある。大規模ビルの供給があった時期や、他地区に大規模なテナントの移転があった時期などに大幅な増減がみられるが、全般的には着実な改善が進んでいる(図表-10左図)。

地区別の募集賃料(月次)は、2017年に入ってから上昇傾向が顕在化してきた(図表-10右図)。梅田地区に続き、淀屋橋・本町地区、船場地区にも賃料の上昇が波及し始めた。南森町地区や心斎橋・難波地区などではまだ底打ちしたとはいえないが、空室率の低さや需給の逼迫状況を考慮すると、今後、次第にこれらの地区にも募集賃料の上昇が波及していくと考えられる。
図表-10 大阪ビジネス地区の地区別空室率・募集賃料の推移(月次)
 
5 三鬼商事の定義による。大阪の主要6地区(梅田、南森町、淀屋橋・本町、船場、心斎橋・難波、新大阪地区)からなり、空室率等の調査対象はこの地区に立地する延床面積1千坪以上の主要賃貸事務所ビル。
6 本稿では三鬼商事の「貸室面積」を「賃貸可能面積」とし「賃貸可能面積」から空室面積を減じたものを「賃貸面積」と呼んでいる。
7 ネット・アブソープションとは調査期間内のオフィス需要(稼動面積)の増減のことであり、「期初竣工済みビル募集面積」+「新規供給面積」-「期末竣工済みビル募集面積」で算出している。
Xでシェアする Facebookでシェアする

竹内 一雅

研究・専門分野

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【活況が続く大阪のオフィス市場-大規模ビルを中心に好調は梅田地区以外へ波及】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

活況が続く大阪のオフィス市場-大規模ビルを中心に好調は梅田地区以外へ波及のレポート Topへ