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地域創生トレセン・フィールドワークレポート-地域創生のプレイヤー達をつなぎ、育てる取り組み
客員研究員 和良地 克茂
2――「尾道フィールドワーク」レポート
尾道では、地域トレセンメンバーの山根浩揮氏(地元で15店舗の飲食店を展開する有限会社いっとく・代表取締役)に加えて、尾道で活躍中の石井宏治氏(ディスカバーリンクせとうち・バイスプレジデント)、豊田雅子氏(NPO法人空き家再生プロジェクト・代表理事)、ヴィヴィアン佐藤氏(映画評論家、尾道観光大使)、山本淳氏(尾道市都市部まちづくり推進課)らが我々を迎えてくれた。
次にフィールドワーク(以下「FW」と略記)の企画者であり地域トレセン2期メンバーの山根氏が経営する「こめどこ食堂」で、オリエンテーション。今回のFWテーマは「多様性のあるDeepな尾道教えちゃる」。何を意図しているのかはこの後、徐々に分かってくる。この場で、FW参加者の自己紹介、尾道プレイヤーの一人である豊田雅子氏の紹介があり、豊田氏の先導で今夜の宿となる「みはらし亭」に向かう。「みはらし亭」は尾道の坂の上にある築100年の茶園(さえん)と呼ばれる別荘建築を豊田氏が代表理事を務める「NPO法人・空き家再生プロジェクト」(以下「空き家PJ」と略記)が現所有者と賃貸借契約を締結し、2015年1月大改修工事着工、2016年春よりゲストハウスとして運営しているもの。尾道では古くからお茶を楽しんだり、客人をもてなしたりする別荘のことを「茶園」と呼ぶ。港町として栄華を極めた江戸時代から昭和初期にかけて、時代時代の豪商や名士が眺めの良い坂の上にこぞって意匠を凝らした別荘建築を建て、山と海が織りなす空間の中で茶園文化が花開いたとのこと。2007年、豊田氏が尾道に空き家PJを設立。昭和初期の建築物「ガウディハウス」をはじめ、ゲストハウス「あなごのねどこ」など尾道になくてはならない建物を再生、創造し続けている。豊田氏や空き家PJが関係した事例だけで、百数十軒の空き家が再生し、若い夫婦や家族の移住でコミュニティ活動も活発になっているそうだ。
次に、尾道の商店街エリアを散策、空き家PJのゲストハウス「あなごのねどこ」や蔵造りの「今川玉香園茶舗」、そしてディスカバーリンクせとうちの石井氏の案内で「尾道デニム」を訪ねる。尾道デニムプロジェクトは、尾道で働く様々な職業の方々がワークパンツとして1年間穿き続けてユーズドデニムを育てるというもの。1人当たり2本のデニムをフィッティングし、1週間穿いた1本を回収、専門業者による洗濯後のものを翌週に届けるというサイクルを1年に亘って続ける。穿き手により刻まれたストーリーを想像しながら1本のデニムを選ぶ。モノに思いを乗せ、尾道の人の魅力を伝えるユニークなプロジェクトだ。
地域創生トレセンFWは、他のトレセンメンバーに地域の現状・課題を知ってもらうのは勿論だが、他の地域のトレセンメンバーやその関係者が訪れることでその地域にさざ波を起こし、その地域のプレイヤーや行政の方々を巻き込んでいく契機にすることに意義があるようだ。
後日、今回のFW企画者である山根氏に「なぜ石井氏、豊田氏、佐藤氏に登場願ったのか?その意味は?」と尋ねてみた。返ってきた答えは、「まちづくりに関わる地域プレイヤーには企業、NPO、個人や私のような商業者など多様な主体がいる。多様な主体がお互いを認め合い、各々の活動領域を尊重し合う中で、尾道の街並みや文化が形成されている。そのことを彼らを通じてトレセンメンバーに感じて貰うと同時に、佐藤氏から多様性の大切さを客観的に分析してもらうことで理解を深めて欲しかった。また、市長にも参加して頂きディスカッションを行う中で、尾道での官民連携のあり方を感じて欲しかった。」であった。彼の言う「Deepな尾道」を垣間見る思いがした。
尾道の地域プレイヤー、行政のまちづくりへの取り組みを彼らの生の声を通して感じたことは、「多様性の尊重と相互信頼」であった。そして、その結果としての「緩い関係性」にこそ、尾道の特徴があると思う。どこの地域にでも応用できることではないが、まちづくりのプラットフォームとして、学ぶべきひとつのかたちではないだろうか。そして、今後、このプラットフォームが瀬戸内の様々な地域と関わりを持つ場面で、どのように変化・発展していくのか、引き続き注目していきたい。
さて、尾道でのFWはここで終わり、次の目的地である三豊市(みとよし)仁尾町(におちょう)へとフェリーをチャーターしての移動となった。しまなみ海道か瀬戸大橋を渡ってとなるところだが、船で仁尾に入るという地域トレセンならではのコース。ここでも新たなチャレンジがあるのだが、これ以降はまたの機会にレポートする。
客員研究員
和良地 克茂
研究・専門分野
(2017年10月20日「基礎研レポート」)
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