2017年10月13日

中期経済見通し(2017~2027年度)

経済研究部 経済研究部

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1. 世界経済は緩やかな回復が続くが、低インフレが継続

(成長率は持ち直すも、低インフレが継続)
世界経済は緩やかな回復が続いている。世界の実質GDP成長率は2010年の5%台をピークに減速を続け、2016年には3%台前半となったが、2017年は3%台半ばまで持ち直すことが見込まれている。日米欧では潜在成長率を上回る成長が続いたことで、世界金融危機以降、大幅なマイナスが続いていたGDPギャップも大きく縮小し、日本ではすでにプラスに転じているとみられる。

一方、景気が堅調に推移する一方で、賃金、物価の伸びは依然として低い。米国はすでに利上げ局面に入っており、ユーロ圏も量的緩和の縮小に向かっているが、物価上昇率はインフレ目標に達していない。労働需給の引き締まりが続く中でも賃金、物価上昇率が高まらないという状態は長期にわたりデフレに苦しんできた日本だけでなく、先進国共通の現象となりつつある。
低成長が続く世界経済/低位安定する消費者物価上昇率
(新興国は相対的に高い成長を維持するが、伸び率は徐々に低下)
先行きの世界経済を展望すると、予測期間前半の2020年頃にかけては中国以外の新興国の持ち直しを主因として世界の経済成長率は4%近くまで回復するだろう。しかし、その後はすでに生産年齢人口が減少に転じている中国の成長率低下を受けて、新興国全体の成長率も鈍化することから、予測期間末には世界の成長率も3%台半ばまで減速することが予想される。
世界の実質経済成長率 先行きの成長率を先進国、新興国に分けてみると、世界金融危機の影響をより強く受けた先進国は今後10年間の平均成長率が過去10年平均を上回ることが予想される。一方、新興国は少子高齢化に伴う潜在成長率の低下を背景に今後10年間の平均成長率は過去10年平均を下回る可能性が高い。
世界経済に占める新興国の割合(ドルベース)は2000年の20%程度から40%近くまで上昇している。新興国の成長率は今後緩やかに低下するものの、相対的には先進国よりも高い成長を続けるため、世界経済に占める新興国の割合は予測期間末の2027年には46%まで高まるだろう。国別には、現在世界第2位の経済規模の中国は世界経済に占める割合が足もとの15%程度から20%弱まで高まるが、今後10年間では米国に追いつくまでには至らないだろう。また、現時点では経済規模が日本の半分程度にすぎないインドはすでに人口が日本の約10倍となっていることに加え、先行きの人口増加率も日本を大きく上回ることから、予測期間末には日本のGDPを上回ることが予想される。
 
先進国と新興国のGDP構成比/世界のGDP構成比(国・地域別)


一人当たりGDP(ドルベース)でみると、日本は1980年代後半から1990年代まで米国を上回っていたが、2000年頃にその関係が逆転した後は一貫して米国を下回っている。2016年の日本の一人当たりGDPは米国の7割弱の水準となっているが、今後10年間の成長率は米国を下回ることが予想されるため、両国の格差は若干拡大することになろう。
一方、日本のGDPの水準は国全体では2010年に中国に抜かれたが、一人当たりGDPでみれば2016年時点でも中国の4.8倍となっている。先行きの成長率は中国が日本を大きく上回るため、両国の差はさらに縮小するが、2027年でも日本の一人当たりGDPは中国の3倍弱の水準を維持するだろう。また、予測期間末にかけて国全体のGDPは日本を上回ることが予想されるインドだが、一人当たりGDPでみれば現時点では日本の5%程度となっており、10年後でも10%程度の水準にとどまるだろう。
 

2.海外経済の見通し

2.海外経済の見通し

(米国経済-当面は潜在成長率を上回る成長が持続、米国内政治がリスク)
米国経済は金融危機からの景気回復が持続、2010年以降は潜在成長率を上回る成長が続いており、潜在GDPと実際の実質GDPとのギャップは2009年の6%弱(潜在GDP比)から、2016年は0%台後半まで縮小したとみられる。

とくに2014年以降は、労働市場の回復を背景に消費主導の景気回復が顕著となった。実際、雇用者数は2014年から2年連続で月間平均20万人超の大幅な増加ペースとなった。また、2016年、2017年(9月までの平均)も10万人台半ば~後半と、人口増加に伴う新規労働市場参入者を吸収するのに必要な10万人を大幅に上回る水準を維持している。さらに、失業率も2017年(9月までの平均)が4.5%と、議会予算局(CBO)が推計する自然失業率(4.7%)やFRBが想定する中期目標(4.6%)を下回っており、労働市場は完全雇用に近づいているとの見方が強まっている。

一方、潜在成長率の推移をみると、2000年代前半の3%台から金融危機後の2010年に1%近辺まで低下した後、2016年は1%台半ばに小幅回復したとみられる。これは、金融危機に伴う労働市場の毀損や企業の設備投資抑制などの循環的要因による落ち込みから、漸く回復してきたことを示している。もっとも、米国でも人口の高齢化進展に伴い、労働投入の伸びが趨勢的に低下するため、潜在成長率の回復も限定的で、今後10年間の潜在成長率は2%を下回る水準に留まろう。

成長率見通しは、労働市場が完全雇用に近づいているため、伸び鈍化は避けられないものの、回復は持続することから、予測期間の前半(2018~2022年)は消費主導で潜在成長率を上回る状況が続こう。その後予測期間の後半(2023~2027年)は潜在成長率並みの成長となろう。この結果、今後10年間の平均成長率は2.0%と金融危機を含む過去10年平均(1.4%)からは加速を見込む。なお、GDPギャップは2018年頃にはほぼ解消すると予想する。
 
潜在GDPおよび実績GDP/非農業部門雇用者数および失業率の推移


一方、米国経済に対するリスクとして、トランプ大統領による経済政策を含めた米国内政治が挙げられる。同大統領が掲げる大型減税や規制緩和、インフラ投資が実現する場合には、同大統領が目標とする今後10年間の平均成長率3%超の実現は困難としても、生産性の改善を通じて潜在成長率を引き上げることが期待できる。一方、保護主義的な通商政策や移民政策の強化が実現する場合には経済にネガティブな影響が見込まれる。とくに、移民政策では将来の労働力人口を減少させ、潜在成長率を押下げる可能性が高い。

トランプ大統領は就任以来、ロシアゲート問題に絡む弾劾リスクが燻っているほか、不規則発言によって政治的資本を毀損させており、政策実現のための推進力は大幅に低下している。このため、主要な経済政策が公約通り実現する可能性は低い。一方、同大統領と与党共和党との関係が悪化する中で、連邦債務上限の引き上げが出来ない場合、米国債がデフォルトすることによって世界的な金融システム不安を引き起こす可能性があり、注目される。
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