2017年10月10日

高齢者死亡率の研究-年齢とともに上昇する死亡率に、減速や収れんは見られるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

死亡率は、生命保険、医療保険や、年金の数理計算に、不可欠の要素である。そのため、死亡率は、各国の人口学者、アクチュアリー等の間で、幅広く研究されている。現在、先進国を中心に、死亡率が低下し、平均寿命の延伸、即ち長寿化が見られる。日本は、その先頭に位置している。

一般に、平均寿命が伸びると、年金の受給者や、医療・介護のサービスを受ける人が増える。これは、保険会社にとって、重大なリスクとなる。このリスクは、生存リスクもしくは、長寿リスクと呼ばれている。特に、欧米の生保会社等では、年金や医療保険が主要商品として取り扱われているため、長寿リスクへの対応に向けて、死亡率の研究が、精力的に進められている。

イギリスでは、2015年10月に、アクチュアリー会が、高齢者死亡率に関する報告書を公表した1。そこでは、高齢者死亡率について、継続して研究するとされていた。そして、2017年6月に、同アクチュアリー会は、次のタイトルの報告書第2版を公表した。 (以下、本稿では、「報告書」と呼称。)

“A second report on high age mortality”Continuous Mortality Investigation High Age Mortality Working Party (Working Paper 100, June. 2017)

報告書は、高齢者の人口や死亡率の推定に焦点を当てており、その調査・研究動向の説明や、それに基づく論点の抽出を行っている。日本においても、参考になる面が多いものと考えられる。本稿では、その内容を簡単に紹介するとともに、今後、注目すべき高齢者死亡率を見ていくこととしたい。
 
1 2015年の報告については、「超高齢者死亡率の推定-超高齢では、年齢とともに死亡率は上昇するのか?」篠原拓也(ニッセイ基礎研究所, 基礎研レター, 2016年3月8日)を参照いただきたい。
 

2――高齢者死亡率設定の準備

2――高齢者死亡率設定の準備

報告書の構成を見ると、概要や導入、結論を除いた、本論部分は、大きく3つの節から成っている。人口エクスポージャーのモデル化(第2節)、超高齢における死亡率(第3節)、高齢者死亡率設定の枠組み(第4節)、の3つである。

このうち、第2節では、死亡率の分母となる人口の見積もりについて、従来の手法を振り返り、その見直しについて述べられている。

その上で、第3節、第4節で、実際の高齢者死亡率の推定について、考え方や、技術的な留意点などが述べられている。本稿では、この第3節、第4節の内容を見ていこう。

1高齢者死亡率設定では、データの適合性や、コホートの特徴、死亡率トレンドの反映などが重視される

まず、高齢者死亡率の設定の際に、重視すべき項目を見ていこう。報告書では、死亡率の設定が、次のような特徴を備えていることが望ましいとされている。

(1)データの適合性
適切な質、量、関連性を有する高齢者死亡データがある場合、死亡率の情報をもたらすものとして、それを検討する必要がある。一方、データの量や質に疑問がある場合には、モデル化が行われる。適切なモデル化の方法を決めるために、代替となる死亡データや、専門家による判断が必要となる。モデル化をすれば、その分、直接の関連性は、低下してしまうこととなる。

(2)妥当性
高齢者死亡率について、客観的な分析による判断(死亡率の水準と形状について、情報をもたらすデータがある場合)と、主観的な基準による評価(生物学的、医学的および環境的な影響力についての基準)を行うこととなる。主観的な基準による評価を行う場合、モデル化の担当者は、想定される死亡率を生み出すために、どのような因子の組み合わせが妥当かを考えなければならない。

(3)特定の生存者集団(コホート)の特徴
通常、若い年齢層においては、同じ年齢でも、異なるコホートは異なる死亡率を示すということが知られている。このことは、超高齢者層ではどうなるのだろうか。即ち、超高齢者層では、異なるコホートの死亡率は、収れんしていくのかどうか。そして、もし収れんしていくのであれば、死亡率の中に、そのことを、どのように反映すべきか、検討が必要となる。

(4)死亡率トレンド
超高齢者層で、死亡率のモデル化を行う場合、死亡率の補整や補外のために、過去の死亡データを使用することとなる。このとき、死亡データの分析時点と、生命表の効力発生時点の間に、一定のタイムラグが生じることとなる。その間の死亡率の改善を、死亡率トレンドとして、マージンに含めるべきである。

(5)スムーズな移行
死亡データに基づく実績死亡率と、モデル化等により超高齢者層に設定される最終的な死亡率との間で、スムーズな移行を行うことが期待される。

2死亡データの信憑性の点から、高齢者層を3つに区分する

高齢者の死亡率曲線の設定にあたり、報告書は、高齢者層を3つに区分することを示している。

(1)年齢範囲A
この年齢範囲では、既契約の死亡実績を参考にして、死亡率が設定される。死亡率は、データの補整により行われる。この年齢範囲での収れんの有無については、実績死亡データしだいとなる。

(2)年齢範囲B
この年齢範囲では、実績死亡データは、補整・補外のために十分ではない。このため、関連する国民死亡データなどの、幅広い他のデータを利用する必要がある。その際、この年齢範囲における、補外死亡率と国民死亡データとの間で、収れんが生じるかどうか、生じるとしたらどのような形で生じるか、という点について、一定の判断を行う必要がある。

(3)年齢範囲C
この年齢範囲には、実績死亡データが乏しく、国民死亡データも限られたものしかない。ここでは、死亡率の形状や水準についての検討を、一から行う必要がある。具体的には、利用可能な死亡データからもたらされる情報をもとに、生物学や医学等の専門家の判断を用いる。この検討は、生命表の最高齢段階における、最終年齢の設置や、死亡率の設定につながる。
図表1. 年齢区分の設定 (イメージ)
なお、報告書では、3つの年齢範囲の具体的な年齢設定については、データの有効性や信頼性、信憑性によって定まるとされている。上記の図などを参考にすると、通常は、年齢範囲Aは、95歳程度まで。年齢範囲Bは、95歳から105歳程度。年齢範囲Cは、105歳程度以降、とするのが妥当と見られる(筆者私見)。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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