コラム
2017年10月06日

生涯現役促進地域連携事業の実態~先進23地域の動向

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘

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“高齢者の活躍の場を拡げよう”、これは様々な文脈から語られてきていることであるが、人手不足が深刻化してきている昨今、特に就業の面で高齢者に対する社会の関心と期待は高まってきているに違いない。やがて3人に1人が65歳以上となる日本の未来を考えれば、社会の支え合いのバランスを維持するためにも、高齢者は一人でも多く社会の支え手として活躍し続けていただくことが望ましい。

そうした高齢者の活躍の場を拡げるために国(厚生労働省)が本気性を持って打ち出した政策の一つが筆者も期待する「生涯現役促進地域連携事業」である1。当事業は、地方自治体(都道府県/市区町村)が中心となって、まず所定の「地域高年齢者就業機会確保計画」を策定し、その上で地域の関係機関(自治体をはじめ高齢者の就業などに関係する機関)で組織する「協議会」 が、高齢者の活躍場所を拡げるための様々な活動を行っていく(基本形)。2016年4月に創設され、1年半が経過した現在(2017年10月)、全国では23の地域(都道府県12、市区町村11)で当事業が進められている(図表1)。なお、当事業は厚生労働省からの公募(継続的に実施される)に対して、各地方自治体が手を挙げて採択された場合に実施できる事業である。国からの年間の補助額(事業規模)は、都道府県の場合4000万円程度、政令指定都市及び特別区の場合3000万円程度、その他市町村の場合2000万円程度となっている。
図表1:「生涯現役促進地域連携事業」実施地域(23地域)※2017年10現在
そのような生涯現役促進地域連携事業であるが、一般の方はもとより、自治体の関係者においてもこの事業の存在自体を知らない人が少なくない。また知っていても、どのような事業を提案してよいか、他の地域でどうしているかを知りたい、という自治体関係者の声を聞くことも多い。そこで、本稿では、先行して取組まれている23の地域で、どのような事業が展開されているか紹介することとしたい。

図表2は、「誰がどのような分野」で高齢者の活躍の場を拡げようとしているかをまとめた一覧である。ご覧のとおり、事業構想提案団体である事業の主体者は前述した「協議会」が多い(17地域)。ただ、協議会という形態をとらず、1団体が単独で事業の主体者になっている地域もある(6地域)。どのような主体を置くか、体制を組むかは自治体の判断である。

また当事業は高齢者の活躍の場として積極的に開拓すべき「重点分野」を設定することが要件となっている。その分野を見ると、最も多いのが「介護や医療(関連事業)」(20地域・87%)、次いで、「観光(関連事業)」(19地域・83%)、「製造業・工業(関連事業)」(13地域・57%)となっている。それぞれの地域において、人手を増やしたい分野、高齢者が活躍しやすいと思われる分野(高齢者に活躍して欲しいと思う分野)として、これらの分野に重点が置かれていることがわかる。
図表2:生涯現役促進地域連携事業の実施主体者と開拓する重点分野(23地域)
次に、具体的に「何をしているか」、事業内容を調べて見ると、「高齢者向け」「事業者向け」「その他(共通)」に分ける中で、大きくは11の事業が行われていることが確認される(図表3)。「高齢者向け」には、(1)新たなセカンドライフ(キャリア)に向けた動機付けを目的としたセミナーやシンポジウムを開催しているのが18地域、(2)相談窓口や交流の場を設けているのが20地域、(3)職業に直結する技術や資格などの養成を行っているのが9地域、(4)起業の支援を行っているのが2地域確認される。「事業者向け」には、(5)求人・仕事の開拓を行っているのが16地域、(6)事業者に対する高齢者雇用促進を目的としたセミナーやマッチングイベントを行っているのが18地域、(7)学生のインターンのように職業体験等を行っているのが4地域確認される。その他としては、(8)専用のHPや情報誌の作成を通じて積極的な情報発信を行っているのが9地域、(9)マッチングの好事例などのガイドブックを作成しているところが5地域、(10)自治体として新たな事業(モデル事業)を創造するなかで、高齢者の活躍の場を拡げようとしているところが4地域、(11)当事業に関連する調査などを行っているのが4地域確認される。全体の動向としてはこれで把握いただけたかと考えるが、分類するために表現を抽象化してしまっているため、各地域のオリジナルな要素まで伝えられていない。そこでできれば図表3に示した「主な事業内容(詳細)」まで眺めていただきたい。「高齢者が活躍する事業所に再就職した高齢者(先輩求職者)と高齢求職者との交流会の開催」、「廃校小学校活用による高年齢者就労拡充モデル事業の実施」、「地元のケーブルテレビを活用した意識改革に向けた番組放映」、「外国人観光客に対する観光ガイドのスキルを習得するセミナーの開催」、「介護助手候補者育成指導トライアルによる介護分野の就労機会拡充連携事業の実施」など、各地域で考えるユニークな取組みが確認できる。

当事業は2020年までに100地域、将来的には全ての自治体で当事業が展開されていくことが理想である2。当事業を知らなかった自治体の方はぜひこれらの情報を参考にしていただきながら、高齢者の活躍の場を拡げる取組みを加速するためにも当事業へ手を挙げていただきたい。また、高齢者の活躍を支援する団体などの方々も地元の自治体に働きかけるなかで、協働していただければ幸いである。年齢に関わらず活躍し続けられる社会の実現は、日本の未来にとって欠かせられない。日本の未来を支える事業として、当事業が今後も全国に拡充されていくことを期待する。
 
1 前田展弘「生涯現役促進地域連携事業の本来の意味」(研究員の眼、2016.11.17)
前田展弘「高齢者雇用政策の新たな展開~地域における高齢者の多様な就業機会の確保・拡充に向けて」(基礎研Report、2016.6.20)
2 厚生労働省へのヒアリングベース
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生活研究部   上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

経歴
  • 2004年     :ニッセイ基礎研究所入社

    2006~2008年度 :東京大学ジェロントロジー寄付研究部門 協力研究員

    2009年度~   :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
    (2022年度~  :東京大学未来ビジョン研究センター・客員研究員)

    2021年度~   :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター・訪問研究員

    内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)

    財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)

    東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)

    神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017年度~)

    生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)

    全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)

    一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)

    一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)

    【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他

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