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家族に関わる女性の不安-多様化する女性のライフコースと不安、政策にも多様性の観点を
生活研究部 上席研究員 久我 尚子
既婚で子のいる女性については働き方別(会社員・公務員等、パート・アルバイト、専業主婦)に見ると、「子なし不安」や「子育て不安」、「介護不安」のあらわれ方が異なっている。
図表2にて「子なし不安」は、30歳代のパート・アルバイトにのみ存在する。すでに子はいるため、パートなどの非正規雇用者では、正規雇用者と比べて育児休業や短時間勤務制度など子育て関連の制度が充実していないことが多いために、二人目以降の出産をためらっている可能性などが考えられる。
(2)「子育て不安」~乳幼児期は両立負担で働く母親、就学すると専業主婦で強い
「子育て不安」は、会社員・公務員等やパート・アルバイトなどの働く母親では30歳代(前者は50歳代も)、専業主婦では40歳代に存在する。
この理由を探るために、「子育て不安」を構成する7つの変数の不安度を見ると、既婚で子のいる女性全体では、年齢とともに子育て関連の不安は弱まる傾向がある(図表3)。
30歳代ではパート・アルバイトや会社員・公務員等の働く母親で子育て関連の不安が強い傾向がある。30歳代では乳幼児の子も多く、子の発熱や感染症等の罹患で、母親が仕事を休んだり、早退することも多い。食事や入浴など日常生活にも手間や時間がかかる。時間制約のある働く母親では、特に乳幼児期は仕事と育児の両立負担が大きいために、子育て関連の不安が強いのだろう。中でもパート・アルバイトでは、「子育てが重荷になったり、憂鬱になったりしてしまう」ことや家族関係悪化についての不安が強い。正社員ほど就労環境が整備されていないことで負担が大きな部分もあり、これが夫婦をはじめとした家族関係悪化の不安にもつながるのかもしれない。なお、会社員・公務員等でも、専業主婦と比べると夫婦など家族関係の不安が強い。職場の就労環境はパート等と比べると整備されていても、家庭内の家事・育児の分担は妻に偏りがちであることも影響しているのだろう。
一方で就学児が増える40歳代では、働く母親より専業主婦で子育て関連の不安が強い。働く母親では、子の発熱等が減り時間制約が緩和されるために、両立負担が軽減され不安も弱まるのだろう。ただし、子が就学すると、進学問題など子育てにおける課題は高度化する。子の進学問題などは、共働き世帯では夫婦で共有する家庭も多いが、専業主婦世帯では妻が一手に引き受ける家庭が多いために、40歳代では専業主婦で子育て関連の不安が強くなる可能性などが考えられる。
50歳代では、会社員・公務員等で「子どもや孫との関係が悪くなる」をはじめとした子供関連の不安が強まる。会社員・公務員等では、専業主婦等と比べて出産年齢が高いことで子の大学進学等の課題が後ろ倒しになっている、あるいは、出産年齢が専業主婦等と同程度の場合は子の結婚・出産を迎える中で、働いているために孫の世話などに協力しにくい可能性などがある。なお、50歳代では、働く女性では「夫婦の関係が悪くなる」という不安が弱い一方、専業主婦では強いことも特徴的だ。
「介護不安」は、会社員・公務員等は参考値だが40歳代、パート・アルバイトでは50歳代、専業主婦では40~50歳代にあらわれる。
「介護不安」を構成する6つの変数の不安度を見ると、専業主婦では全体的に介護関連の不安が強い(図表4)。自分の介護という面では、専業主婦は、これまで家事・育児を一手に引き受けているために自分が動けなくなることへの不安が強いこと、家族の介護という面では、主な担い手となりがちであるために負担感から不安が強いことが考えられる。
なお、50歳代ではパート・アルバイトでは「介護が重荷になったり、憂鬱になってしまう」が専業主婦を若干上回るが、これは仕事と介護の両立負担による影響なのだろう。
一方で図表2を見ると、既婚で子のいる女性では60歳代では、働き方によらず、「介護不安」は消える。「介護不安」を構成する変数の中では、特に「自分や配偶者の親・兄弟姉妹・祖父母との関係が悪くなる」や「介護が重荷になったり、憂鬱になってしまう」の不安度が低下する(図表略)。親の死別などで自分が介護をする負担が減ること、また、自分の介護についても配偶者や成人した子の存在などで不安が弱まるのだろう。
4――まとめ~女性のライフコースの多様化で家族に関わる不安も多様化、政策にも多様性の観点を
女性について属性別には、未婚女性では、20~40歳代までは「独身不安」や「子なし不安」など家族形成についての不安、そして、独身であるがゆえに「死後不安」もあるが、50歳代では、これらは全て消え、「介護不安」のみになる。
既婚で子がいない女性では、20~40歳代まで比較的長期に渡り「子なし不安」が、40歳代からは「介護不安」が、60歳代では子などの後継者がいないことによる「死後不安」の存在も窺える。
既婚で子がいる女性について働き方別に見ると、働き方により不安の有無や不安のあらわれる時期が異なる。
「子なし不安」はパート・アルバイトのみに存在する。非正規雇用者では正規雇用者ほど育児休業や短時間勤務制度等の両立環境が整備されていないために二人目以降の出産をためらう様子が窺える。
「子育て不安」は働く母親では乳幼児期、専業主婦では就学児を持つ時期に存在する。これらより、乳幼児を持つ働く母親では仕事と育児の両立負担が大きいこと、専業主婦では進学問題など就学期の子の課題を1人で抱えがちな様子が窺える。なお、「子育て不安」を構成する変数を詳しく見ると、会社員等の正規雇用者と比べてパート等の非正規雇用者として働く母親では、乳幼児期の仕事と育児の両立負担がより大きい様子もある。
一方、専業主婦では介護関連の不安が強い。家事・育児・介護の主な担い手であるために、自分の介護という面でも、自分が介護をするという面でも不安が強いのだろう。
家族に関わる不安は、ライフコース選択の自由によるものもあるが、必ずしも全てが自由意志によるものではない。やむをえず選択するようなケースもあり、政策で緩和すべきものもある。
例えば、未婚女性の「独身不安」は、若年層の経済環境の厳しさによる影響もあるだろう。近年、同一労働同一賃金の実現や最低賃金の引き上げなど、若年層や女性で多い非正規雇用者の処遇改善に関わる政策が進められているが、これらの確実な実行を望む。また、乳幼児を持つ働く母親の「子育て不安」や非正規雇用者の「子なし不安」は、まさに「女性の活躍促進」政策の課題だ。今後、改善されていくのだろうが、現在のところ、待機児童問題や夫婦の家事・育児分担の偏り、正社員でも育休や時短勤務を利用すると「マミートラック」に陥る状況など多くの課題がある。これらの状況を見て、若い女性が将来を想像して「子育て不安」を持つのかもしれない。
皆が同様のライフコースをたどり、同様の不安を持っていた時代とは違い、現在では、ライフコースは多様化し、不安を持つ状況も多様化している。政策にも多様性という観点が求められる。
03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
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