2017年10月02日

【8月米個人所得・消費支出】実質個人消費(前月比)は▲0.1%と市場予想に一致も、17年1月以来のマイナス。ハリケーンの影響を示唆

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:個人所得、消費ともに市場予想には一致したものの、前月から伸びは鈍化

9月29日、米商務省の経済分析局(BEA)は8月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は前月比+0.2%(前月改定値:+0.3%)となり、+0.4%から下方修正された前月からさらに伸びが鈍化、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の+0.2%には一致した。個人消費支出(名目値)は、前月比+0.1%(前月値:+0.3%)と、こちらも前月から伸びが鈍化、市場予想の+0.1%に一致した(図表1)。価格変動の影響を除いた実質個人消費支出は前月比▲0.1%(前月値:+0.2%)と、こちらも前月から伸びが鈍化、市場予想の▲0.1%に一致した(図表5)。実質個人消費がマイナスとなったのは17年1月以来、7ヵ月ぶり。貯蓄率1は3.6%(前月:3.6%)と前月に一致した。

なお、BEAは8月の個人所得、消費支出に8月25日にテキサス州を襲ったハリケーン「ハービー」の影響が反映されているとしたものの、その影響のみを数量的に示すのは困難としている。

一方、価格指数は、総合指数が前月比+0.2%(前月:+0.1%)と前月から伸びが加速、市場予想の+0.3%は下回った。また、変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数は、前月比+0.1%(前月値:+0.1%)と、こちらは前月に一致したものの、市場予想の+0.2%は下回った(図表6)。前年同月比では、総合指数が+1.4%(前月:+1.4%)と、こちらも前月に一致、市場予想の+1.5%は下回った。コア指数は+1.3%(前月:+1.4%)と、こちらは前月から伸びが鈍化、市場予想の+1.4%も下回り、15年11月以来の水準に低下した(図表7)。
 
1 可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。

2.結果の評価:個人所得、消費の伸び鈍化はハリケーンが影響した可能性

8月の名目個人所得、消費ともに好調であった7月から伸びが鈍化、実質ベースの可処分所得や個人消費も前月比でマイナスに転じるなど減速を示した。とくに、消費は先日発表された8月の小売統計が前月比▲0.2%(前月:+0.3%)と、ハリケーン「ハービー」の影響もあって自動車関連を中心に落込んでいたことから、減速することは想定されていた。なお、8月の「ハービー」以降も、「イルマ」、「マリア」と相次いで大型ハリケーンが米国に被害をもたらしていることから、9月の消費も、ハリケーンの影響により下振れすることが見込まれる。
(図表1)個人所得・消費支出、貯蓄率 一方、8月の雇用統計ではサンプル調査の時期の関係でハリケーン「ハービー」の影響が含まれていなかったため、これらの影響が含まる10月6日発表の9月統計の内容が、今後の所得や消費をみる上で注目される。

物価(前年同月比)は、総合指数が3ヵ月連続で+1.4%と下げ止まっているものの、17年2月のピーク(+2.2%)を大幅に下回っているほか、コア指数は15年11月以来の水準に低下するなど、17年2月からの低下基調が持続しており、物価上昇圧力はみられない。FRBは、ハリケーンにより、ガソリン価格など短期的な物価上昇について言及しているほか、当面は目標水準(2%)を下回るものの、中期的には目標近辺で安定するとの見通しを変更しておらず、年内追加利上げ見通しを維持している。このため、12月の追加利上げの意思決定において物価の多少の変動は大きく影響しないとみられる。

3.所得動向:賃金・給与の伸びが鈍化

個人所得の内訳をみると、賃金・給与が前月比横這い(前月:+0.5%)と、2ヵ月連続で堅調となった前月からは大幅に伸びが鈍化した(図表2)。個人所得もハリケーンによる影響を受けているとみられ、9月以降はさらに影響が拡大する可能性がある。一方、利息・配当収入は+0.2%(前月:+0.3%)とこちらも伸びが鈍化した。

個人所得から社会保障支出や税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、+0.1%(前月:+0.2%)とこちらも前月から伸びが鈍化した(図表3)。さらに、価格変動の影響を除いた実質ベースは▲0.1%(前月:+0.2%)と、2ヵ月ぶりにマイナスに転じた。
(図表2)名目個人所得(前月比寄与度)/(図表3)可処分所得(名目、実質)

4.消費動向:自動車関連が落ち込む一方、ガソリン・エネルギー消費が大幅増加

名目個人消費(前月比)は、サービス消費が+0.3%(前月:+0.2%)と、前月から伸びが加速した一方、財消費が▲0.2%(前月:+0.5%)とマイナスに転じた(図表4)。

財消費では、非耐久財が+0.3%(前月:+0.2%)と前月から伸びが加速した一方、耐久財が▲1.1%(前月:+1.1%)と好調であった前月から一転大幅なマイナスに転じた。非耐久財では、ハリケーン「ハービー」によってガソリン価格が上昇したため、ガソリン・エネルギーが+4.8%(前月:▲0.9%)と大幅な上昇となった。一方、耐久財では、自動車・自動車部品が▲2.7%(前月:+1.6%)と4ヵ月ぶりに大幅なマイナスに転じたほか、娯楽財・スポーツカー▲0.6%(前月:+0.7%)、家具・家電▲0.1%(前月:+0.2%)など、ほぼすべての分野でマイナスに転じた。

サービス消費は、外食・宿泊が+0.5%(前月:横這い)、金融保険が+0.6%(前月:+0.2%)と前月から伸びが加速したほか、住宅・公共投資+0.2%(前月:+0.2%)、医療サービス+0.3%(前月:+0.2%)などで前月並みの伸びを維持した。
(図表4)名目個人消費(前月比寄与度)/(図表5)個人消費支出(名目、実質)

5.価格指数:エネルギー価格(前月比)が4ヵ月ぶりのプラス

価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が+3.1%(前月:▲0.1%)と、4ヵ月ぶりにプラスに転じた(図表6)。一方、食料品価格指数は横這い(前月:+0.2%)と前月から伸びが鈍化した。前年同月比では、エネルギー価格指数が+6.7%(前月:+3.3%)と、10ヵ月連続のプラスを維持した(図表7)。食料品価格指数は、+0.3%(前月:▲0.1%)と、こちらは7月に16年4月以来のプラスに転じた後、2ヵ月連続のプラスとなった。
(図表6)PCE価格指数(前月比)/(図表7)PCE価格指数(前年同月比)
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2017年10月02日「経済・金融フラッシュ」)

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