2017年10月05日

持続不能な均衡からの軌道修正を

基礎研REPORT(冊子版)10月号

櫨(はじ) 浩一

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1―見せかけだけの安定

日本経済は絶好調とまでは言えないが、紆余曲折を経ながらも緩やかな拡大が続き、高度成長期のいざなぎ景気を超える長期の景気拡大となる可能性がある。7月の失業率は2.8%という低水準となり、有効求人倍率は1974年以来の高さとなる1.52倍に達している。消費者物価(総合)は政府が目標としている前年同月比2%には届かないものの、0.4%の上昇となっている[図表1]。

日本経済には急に悪化するような要素も見当たらず、安定しているという楽観的な見方もできる。しかし、これは大規模な財政赤字と異次元の金融緩和という強力な薬で、かろうじて支えられた見せかけだけの安定であることを忘れてはならない。日本経済は実力だけで安定が維持できているわけではない。2014年の消費税率引き上げによって一時景気回復の勢いが鈍ってしまったことが物語るように、財政・金融政策による下支えを弱めれば、簡単に経済は不安定になってしまうだろう。
図表1:改善する労働需給

2―持続不能な均衡

景気が悪化した際には、財政・金融政策で経済を刺激して景気の落ち込みを防ぎ、失業の増加を抑制するというのは経済政策の常道だ。バブル崩壊前の日本経済では、しばらくすると自律的な経済成長が復活し、財政赤字を縮小して政府債務の膨張を止め、金利を引き上げて金融政策を正常化することができた。しかし近年の日本経済では、多少景気が良くなって増税や財政支出の削減で財政赤字を縮小したり金融緩和を縮小したりすると、景気回復の足取りがとたんに怪しくなってしまう。

雇用の確保と物価の安定は経済政策の重要な目標だ。人手不足が叫ばれるほど失業率が大きく低下し、緩やかながら物価上昇が起こっている現状は、財政・金融政策を駆使して経済の均衡を実現しているとも言える。慢性的な病気の場合には薬を飲み続けて病気と共存するということも選択肢としてあるだろう。しかし、大幅な財政赤字を著しい金融緩和で賄うことは、いつまでも続けられるものではない。現在の日本経済の安定は、持続不能な均衡状態だ。

3―見えないところで蓄積する圧力

「これまでも大幅な財政赤字を出してきたが、金融緩和を続けたことで経済に大きな問題が生じていない」ということは、このまま永久に同じことを続けられるという根拠にはならない。困ったことに、持続可能でない均衡は、多くの人が思い浮かべるよりもはるかに長く続くことがある。表面的な均衡が続く間に見えないところに圧力が蓄積し、小さなできごとがきっかけとなって経済の本質的な均衡が崩れて大きな問題を引き起こしてしまう。

現在は、日本の人口が増加から減少に転じたために、デフレは続き政府債務が累積しても金利が上昇して困ることは無いというストーリーを多くの人が信じるようになった。しかし、このままでは人口高齢化が進むために社会保障制度も維持が困難になるはずで、財政赤字はさらに拡大し政府債務が膨張してしまう恐れが大きい。財政赤字をまかなう資金繰りの圧力は高まって、どこかで限界に達するはずだ。

4―求められる軌道修正

日銀は現在の路線のまま資金供給を拡大し続けるスタンスを崩していないが、既に金融市場にある国債の大きな部分を日銀が保有するようになっており、大量の国債購入を続けることは早晩できなくなる。限界が見えてからでは金融市場に大きなショックを与えて大混乱を招くので、持続不能な均衡を何とか維持しようという方針から軌道修正を行ない、早期に出口の議論をはじめるべきである。
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(2017年10月05日「基礎研マンスリー」)

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