2017年09月29日

中国経済:景気指標の総点検(2017年秋季号)~党大会前の現状確認と開催中に公表のGDP予想

三尾 幸吉郎

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1.最近の金融マーケット

最近の金融マーケットを概観すると、株価はじり高、人民元は反転上昇、住宅価格はその勢いこそ鈍化したものの上昇を続けており、短期金利は上昇したあと横ばいで推移している。まず、株式市場に焦点を当てると、15年後半以降ミニバブルの崩壊で何度か急落を演じたものの、16年1月28日(上海総合で2655.66)で底打ち、その後は上下を繰り返しつつも上昇している(図表-1)。国内の景気が持ち直したのに加えて、世界的な株高が追い風となり、高値警戒感を凌ぎつつ戻り売りをこなし、じりじり上昇している。為替市場に目を転じると、15年8月には人民元の米ドルに対する基準値を3日間で約4.5%切り下げ(市場実勢の下落は約3%)、その後も下値を探る動きが続いたが、17年に入ると底打ちし上昇に転じた(図表-2)。中共十九大を前に基準値設定方法が変更されたことが元安阻止のサインと受け止められたのに加えて、欧州でEU崩壊の懸念が後退するとともに景気が勢いを増しユーロが大きく上昇したことが元高圧力となった。また、住宅価格は最高値更新が続いている。16年秋に中国政府(含む中国人民銀行)が住宅バブル退治に乗り出したため、高騰の目立つ深圳市や上海市などの上昇には歯止めが掛かったものの、住宅バブルは周辺都市に飛び火し、その勢いこそ鈍化したものの上昇を続けている(図表-3)。そして、景気が持ち直し住宅バブル懸念が高まる中で、中国人民銀行は17年春にリバースレポ(7日物)や常設流動性ファシリティなどを2度に渡り引き上げ、金融を引き締め方向に調整し始めた。但し、ここもと人民元が反転上昇する中で、短期金利の上昇は止まり、横ばいで推移している(図表-4)。
(図表-1)上海総合の推移/(図表-2)人民元レート(対米ドル、スポットオファー)
(図表-3)新築分譲住宅価格(除く保障性住宅、70都市平均)/(図表-4)中国の金利の推移

2.景気10指標の点検

2.景気10指標の点検

(図表-5)工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移 1|供給面の3指標
 
【工業生産】
 景気指標の中でGDPへの影響が最も大きいのが工業生産(実質付加価値ベース)である。ここもとの経済のサービス化に伴ってその影響力は落ちたとはいえ、依然その影響力は大きい。7-8月期の工業生産は前年同期比6.1%増(推定1)と4-6月期の同7.0%増を0.9ポイント下回った。9月の動きが未反映とはいえ、7-9月期の成長率は4-6月期を下回る可能性がある(図表-5)。
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、ニッセイ基礎研究所で中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
(図表-6)製造業PMI 【製造業PMI】
製造業の動向を示す代表指標となるのが製造業PMI(製造業購買担当者景気指数、中国国家統計局)である。これは製造業3000社の購買担当者へのアンケート調査を元に計算するもので、通常は50%が拡張・収縮の分岐点となる。ここもと7月が51.4%、8月が51.7%と、4-6月期の平均(51.4%)を上回っており、工業生産が落ち込んだ割に堅調である。また、将来3ヵ月の見通しを示す予想指数も4月をボトムに8月まで4ヵ月連続で上昇してきている(図表-6)。
(図表-7)非製造業PMI 【非製造業PMI】
一方、非製造業の動向を示す代表指標となるのが非製造業PMI(非製造業商務活動指数、中国国家統計局)である。中国では製造業からサービス業への構造転換が進行中なためその重要性は増している。製造業PMIと同様に50%が拡張・収縮の分岐点とされる。ここもと8月は53.4%と、第1四半期の平均(54.0%)を割り込んできた。特に建築業で4.5ポイント低下したのが目立ち、不動産開発やインフラ整備に関連する建築が変調をきたした可能性がある(図表-7)。
(図表-8)業種別に見た小売売上高(限額以上企業)の動き 2|需要面の3指標

【小売売上高】
個人消費の動きを示す代表指標となるのが小売売上高である。ここもと7-8月期は前年同期比10.4%増(推定)と、4-6月期の同10.8%増を0.4%ポイント下回っており、個人消費は7-9月期の成長率を若干押し下げる可能性がある。内訳を見ると、家具など住宅販売の好調で潤った業種で伸びが鈍化している。また、化粧品は期を追う毎に伸びが加速、自動車は小型車減税の縮小を受けて1-3月期こそ伸びが落ちたものの、4-6月期以降は8%前後の伸びを回復している(図表-8)。
(図表-9)固定資産投資(農業の投資を除く) 【固定資産投資】
一方、投資の動きを示す代表指標となるのが固定資産投資(除く農家の投資)である。ここもと7-8月期は前年同期比5.5%増(推定)と、4-6月期の同8.0%増を2.5ポイント下回っており、投資は7-9月期の成長率を押し下げる可能性がある。内訳を見ると、製造業は4-6月期の前年同期比5.2%増(推定)から同1.6%増へ3.6ポイント低下、不動産開発投資は同7.9%増から同6.1%増へ1.8ポイント低下、インフラ投資は同18.7%増から同16.0%増へ2.7ポイント低下した(図表-9)。また、民間企業だけでなく国有・国有持ち株企業も減速、投資の減速は全般に及んでいる。
(図表-10)輸出の先行指標 【輸出】
世界の工場といわれる中国では輸出が生産の動向を左右する。ここもと7-8月期の輸出額(ドルベース)は前年同期比6.1%増と、4-6月期の同8.7%増を2.6ポイント下回った。輸出相手先別に見ると、6月まで好調だった米国向け、欧州(EU)向け、インド向けなどの伸びが7月以降は鈍化している。また、輸出の先行指標となる新規輸出受注(中国国家統計局)は2ヵ月連続で低下、貿易輸出先行指数(中国税関総署)の改善も止まり横ばいとなった(図表-10)。
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三尾 幸吉郎

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