2017年09月25日

最近の訪日外国人消費~旅行者増で消費額増。中国人の「爆買い」は中身が変わるも消費意欲は変わらず。今後はコト消費拡大が鍵。1泊増で+0.4兆円。

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1―はじめに

日本人の国内消費は力強さに欠けるようだが、訪日外国人旅行客の増加で旅行客による消費は拡大している。直近では1人当たり消費額が減っているが、これは消費意欲の弱まりというより、円高に振れた影響等が大きい。消費額の最も多い中国人の消費額を元に換算すると、実は2011年以降、おおむね変わっていない。昨年の中国当局による関税引き上げで購入品が変わった影響もあるだろう。また、為替変動と消費内訳を合わせて見ると、中国人旅行客では円安による割安感は消費全体に波及するが、台湾や香港は買い物のみ、米国はあらわれにくいなどの違いもある。

本稿では、改めて近年の訪日外国人消費の状況を見ていく。
 

2―訪日外国人旅行消費の概況

2―訪日外国人旅行消費の概況

1|旅行者数と旅行消費額の推移~旅行者増で消費増だが、2016年は消費の伸びがやや鈍化
[図表-1] 訪日外国人旅行者数と旅行消費額の推移 観光庁「訪日外国人消費動向調査」1によると、旅行者数と消費額は増加傾向が続く(図表1)。2011年から2016年にかけて、旅行者数は622万人から2,404万人へと3.9倍に、旅行消費額は0.8兆円から3.7兆円へと4.6倍にも増えている。また、対前年増加率では、どちらも2015年に最も大きな伸びを見せたが、2016年では旅行者数は+20%以上を保つ一方、消費額は+7.8%にとどまり、直近で消費額の伸びはやや鈍化している。
 
成田国際空港をはじめとした日本国内の18空海港にて、訪日外国人旅行客に対して調査員が聞き取り調査を行った結果に対して、日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数」の統計データを用いて訪日外国人旅行消費額の総額を試算。
2|旅行消費額の内訳~買い物代が最も多いが、2016年は買い物代など1人当たり消費額減少

消費額の内訳を見ると、いずれもおおむね増加傾向にあるが、2015年から2016年にかけて「買い物代」(▲278億円)が減少している(図表2a)。また、内訳が全体に占める割合は、以前は「宿泊料金」が最も多かったが(2011年で34.6%)、2014年から「買い物代」が上回っている。なお、「買い物代」は2015年には4割を超えたが、2016年にはやや低下し38.1%となっている。

また、1人当たりの消費額は、2015年まではおおむね増加していたが、2016年は減少している(図表2b)。内訳を見ると、2016年では前年より全ての項目が減っているが、特に「買い物代」の減少が目立つ。1人当たり消費額の減少(▲2.0万円)のうち、約7割は「買い物代」(▲1.4万円)によるものだ。

つまり、図表1で2016年に訪日外国人旅行消費額の伸びがやや鈍化していた背景には、「買い物代」をはじめとした1人当たり消費額が減った影響がある。

なお、2015年は円安が進んだ時期であり、流行語大賞に中国人の「爆買い」が選ばれた年でもある。百貨店で高級ブランド品を買ったり、ドラッグストアやスーパー等で化粧品や医薬品、菓子類などを大量買いする中国人旅行客が目立った。後述するが、「買い物代」をはじめ1人当たり消費額が減った要因には為替の変動の影響があり、関税引き上げ等を背景に「爆買い」の状況も変わっているようだ。
[図表-2] 訪日外国人旅行消費額の内訳の推移

3―国・地域別に見た訪日外国人旅行消費

3―国・地域別に見た訪日外国人旅行消費

1|旅行者数と旅行消費額の推移~主要国で増加傾向、直近は中国人消費鈍化で全体へ影響

旅行者数について、上位を占める顔ぶれを見ると、2016年では1位中国(637万人、全体の26.5%)、2位韓国(509万人、21.2%)、3位台湾(417万人、17.3%)、4位香港(184万人、7.7%)、5位米国(124万人、5.2%)の順であり、上位5位までで全体の77.8%を占める。2011年以降、上位の中で入れ替わりはあるが(首位が2013年までは韓国、2014年は台湾)、顔ぶれに変化はない(図表3a)。

消費額は、2016年では中国が圧倒的に多く(1兆4,754億円、全体の39.4%)、2位台湾(5,245億円、14.0%)、3位韓国(3,577億円、9.5%)、4位香港(2,947億円、7.9%)、5位米国(2,130億円、5.7%)の順であり、上位5位までで全体の76.5%を占める。2011年以降で順位に大きな変化はない(図表3b)。

これらの主要国・地域では、いずれも旅行者数・消費額ともに増加傾向にあるが、全体同様、2016年では消費額の伸びがやや鈍化している傾向がある。それぞれの旅行者数と消費額の対前年増減率を比べると、2013年から2015年頃は消費額の増減率が旅行者数の値を上回ることが多かったが、2016年では、いずれも旅行者数の方が大きい(図表3c)。つまり、主要国・地域からの旅行者数は比較的、堅調な伸びを維持しているのに対して、旅行消費額の伸びは鈍化している。

なお、前項で述べたように、2014年から消費額の首位を「買い物代」が占めるようになったが、その頃から中国人旅行客の消費額が飛躍的に伸び(2014年は対前年+102.4%、2015年は+153.9%)、全体に占める割合も3割を超えて上昇するようになっている。一方で2016年は中国人の消費額の伸びは鈍化している(+4.1%)。よって、2016年に訪日外国人旅行消費全体の伸びがやや鈍化していた背景には、消費額の約4割を占めて圧倒的に多い中国人旅行客の消費が鈍化した影響がある。
[図表-3] 主要国・地域の訪日外国人旅行者数と旅行消費額の推移
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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