2017年09月21日

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1. はじめに

今後、少子高齢化と電子商取引市場拡大の影響により、商業施設の売上環境は悪化する見通しである。拙稿の「商業施設売上高の長期予測」の分析では、商業施設売上高は2035年までに約13%減少する見込みである1。商業施設のテナントの賃料負担力は売上高と密接に関連している。そのため、売上が低迷すれば、賃料引き下げやテナント撤退などにつながり、商業施設の投資収益を押し下げる。

しかし、商業施設の売上環境の弱さは今に始まったことではない。2016年の小売業販売額は139.9兆円と、ピークである1996年の146.3兆円より依然低い(図表1)。ボトムとなった2002年の132.3兆円からは緩やかに回復しているものの、2016年の名目GDPが537.1兆円と過去最高を更新したことと比較すると、小売業の回復の足取りは重い。

それでは、商業施設の売上環境はなぜ弱いのだろうか。以下では、商業施設の売上環境について個人消費の側面から概観した上で、変動要因分析を行い、これまでの売上環境低迷の原因を探る。
図表1 小売販売額の推移

2. 商業施設の売上環境の推移

ここでは各世帯の消費支出のうち商業施設の売上に繋がる品目を「物販・外食・サービス支出」として集計し、世帯数を乗じることで、日本全体の物販・外食・サービス支出の推移を試算した。物販・外食・サービス支出は商業施設の潜在的な売上規模を表す。

物販・外食・サービス支出について、ピークである1999年を100として、その推移を確認する(図表2の棒グラフ)。同支出は、1984年の72.7から1999年まで拡大したが、その後は減少傾向にあり、2014年は93.1と1999年から6.9%減少している。また小売業販売額も同じく1999年を100として比較すると、物販・外食・サービス支出と同様の推移を辿っていることがわかる(図表2の折れ線グラフ)。
図表2 日本の物販・外食・サービス支出の推移

3. 1999年以降の物販・外食・サービス支出減少の背景

3. 1999年以降の物販・外食・サービス支出減少の背景

1999年から2014年にかけて物販・外食・サービス支出は減少したが、この期間における背景として、(1)物販・外食・サービス支出、(2)可処分所得、(3)貯蓄率、(4)消費支出に占める物販・外食・サービス支出の割合について、年齢毎2の変動を確認する。
 
2 年齢毎 = 各世帯の世帯主の年齢 (以下同様)
(1)物販・外食・サービス支出(図表3)
35~64歳(-3.7万円~-3.0万円)は大きく減少しており、34歳以下(-2.3万~-2.0万)と65歳以上(-2.4万~-2.0万)は小幅にとどまっている。そのため、物販・外食・サービス支出は全年齢で減少しているが、35~64歳の減少が全体を大きく押し下げたことが推察される。
図表3 年齢毎の物販・外食・サービス支出の変化(1999年→2014年)
(2)可処分所得(図表4)
40歳以上の世帯で可処分所得が大きく減少している(-8.0万円~-5.4万円)。一方、39歳以下の減少幅は限定的である(-2.3万円~-0.6万円)。中年世代は可処分所得の減少が大きく、また物販・外食・サービス支出の減少も大きい。一方で、高齢世代は可処分所得減少が比較的大きいにも係らず同支出の減少が小幅にとどまっている。また若年世代は可処分所得減少が限定的なのにも係らず物販・外食・サービス支出が減少している。
図表4 年齢毎の可処分所得の変化(1999年→2014年)
(3)貯蓄率(図表5)
34歳以下は貯蓄率が上昇しており(+2.9%~+8.7%)、このため可処分所得減少が限定的なのにも係らず物販・外食・サービス支出が減少していたことが分かる。一方60歳以上は貯蓄率が大幅に低下しており(-8.2%~-7.0%)、そのため可処分所得減少と比較して支出減少が抑えられたことがうかがえる。また35~59歳の貯蓄率の変動は限定的で(-3.0%~+2.8%)、可処分所得減少が物販・外食・サービス支出減少に直結したことが分かる。
図表5 年齢毎の貯蓄率の変化(1999年→2014年)
(4)消費支出に占める物販・外食・サービス支出の割合(図表6)
消費支出に占める物販・外食・サービス支出の割合は、39歳以下で大きく低下しており、(-8.9%~-2.7%)、貯蓄率上昇に加え、住居費などその他の支出が増加したためだ。一方、40歳以上の低下幅は比較的小さい(-3.6%~-0.4%)。
図表6 年齢毎の消費支出占める物販・外食・サービス支出割合の変化
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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【商業施設の売上環境はなぜ弱いのか?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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