2017年09月11日

EIOPAのソルベンシーIIレビューに関するCPに対する反応-欧州保険業界団体からの意見-

中村 亮一

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2|各項目への一般的なコメント
①簡素化された計算
小規模保険会社等における計算を簡素化するためのアプローチについては歓迎しているが、実際にはより広範でより一貫して比例原則を適用できるはずであるとして、対応を詳述している多くの項目についてのEIOPAの見解を支持していない。特に、大量解約のリスクチャージが非現実的に高いとの問題意識から、EIOPAはこの問題に対処すべきである、としている。

②標準式におけるECAIへの依存の軽減
保険会社が、内部信用評価モデルや第三者の商業的および非商業的プロバイダーの使用など、監督目的で指名されたECAIを使用する代替案について、EIOPAが調査していることを歓迎し、委任規則第88条の規定内で提案された簡素化を評価する、としている。ただし、この簡素化の使用を認めるための過度に慎重なアプローチは、実際にはそれを実行可能でなくする可能性がある、と警告している。

③保証、第三者によって保証されたエクスポージャー、地域政府及び地方自治体(RGLAs)へのエクスポージャーの取扱
EIOPAによって提案された以下の変更については支持している。

・スプレッドと集中リスクサブモジュールにおけるRLGA保証の認識の拡大、カウンターパーティ・デフォルトリスクモジュールにおけるタイプ2のエクスポージャーの拡大

・カウンターパーティー・デフォルトリスクモジュールにおけるタイプ2のエクスポージャーに関しての部分保証の認識

・ITS(適用実施基準)(EU)2015/2011に列挙されていないRGLA保証及び関連する資本費用の認識

しかし、委任規則第85条の意図に反して、RGLAsと中央政府の間の同等性を決定するために、過度にきめ細かで堅固なアプローチを導入する可能性があるため、銀行と保険の規制の間の適格RGLAsのリストを調和させるために取られるアプローチについて注意を払うべき、としている。

さらに、LGD3公式の変更、第215条(f)の遵守からの完全な除外及び混乱を避けるために委任規則におけるリサイタル42の最後の文の削除、を提案している。
 
 
3 Loss Given Default:貸出金のうち回収できず損失となる部分


④リスク軽減手法
リスク軽減技術の代替頻度の制限を改善し、一時的にSCR(ソルベンシー資本要件)に違反している再保険業者が提供するリスク軽減の部分認識の要件を変更する、という提案を支持している。しかし、アドバース・デベロップメント・カバーとファイナイト再保険の認識を向上させるためには、さらなる作業が必要である、としている。

⑤ルックスルー・アプローチ:投資関連ビークル
関連会社へのルックスルー・アプローチの拡大及び「投資関連会社」の基準と定義を幅広く支持しているが、ルックスルー・アプローチの適用が比例的に確実に実施されるようにするには、追加の作業が必要である、としている。

⑥会社固有のパラメータ(USP)の検討
USPの使用を強く支持しているため、EIOPAが提案したいくつかの改善にもかかわらず、委任規則で現在定義されている適用分野に関して、USPの範囲が制限されていることについての懸念を表明している。

また、EIOPAが厳しいデータ要件の緩和を拒否していることに対する懸念を表明している。

むしろ、ソルベンシーIIがSME(中小規模会社)やモノライナー(単一種目営業会社)を含めた規模にかかわらず、全ての会社にワークするためには、USPの範囲を特定の分野に限定すべきではなく、生命、健康、損害カタストロフィー、さらにはオペレーショナルリスクにまで拡大すべきだ、としている。

⑦繰延税金の損失吸収能力(LAC DT
LAC DTは、保険会社が大きな損失を被る場合に、将来の納税額を削減することで、ソルベンシー資本要件に寄与する資産を創出することができる、ことを意味しているが、この取扱については、EU加盟国の監督当局毎に異なるものとなっている。

Insurance Europeの考えでは、欧州委員会は、EIOPAに対して、繰延税金の損失吸収能力(LAC DT)に関して、欧州全体で現在適用されている様々な方法及びその影響について報告するよう要請したのであるから、今回EIOPAが分析を提出することにより、その任務を完全に遂行したことになり、さらなる行動は必要ない、としている。

また、LAC DTの計算に関する「ワン・サイズ・フィッツ・オール(全てに適用可能な汎用型)」という考え方は適切ではなく、LAC DTの計算の標準化は必要なく、いかなる追加のガイダンスも必要ない、としている。
Insurance Europeの意見書のうちの「一般的なコメント」の内容は、以下の通りである。

簡素化された計算 - 保険ヨーロッパは、導入された簡素化されたアプローチを歓迎しており、実際により広範でより一貫して比例原則を適用できるはずである。しかし、保険ヨーロッパは、対応を詳述している多くの項目についてのEIOPAの見解を支持していない。特に、保険ヨーロッパは、EIOPAが大量解約リスクのレベルに対処する必要があると信じている。

標準式におけるECAIへの依存の軽減 - 保険ヨーロッパは、保険会社が、内部信用評価モデルや第三者の商業的および非商業的プロバイダーの使用など、監督目的で指名されたECAIを使用する代替案についてのEIOPAの調査を歓迎する。保険ヨーロッパは、委任規則第88条の規定内で提案された簡素化を評価する。しかし、保険ヨーロッパは、この簡素化の使用を認めるための過度に慎重なアプローチは、実際にはそれを実行可能でなくする可能性がある、と警告している。

保証、第三者によって保証されたエクスポージャー、地域政府及び地方自治体(RGLAs)へのエクスポージャーの取扱- 保険ヨーロッパは、以下のEIOPAの提案された変更を支持する。

・スプレッドと集中リスクサブモジュールにおけるRLGA保証の認識の拡大、カウンターパーティ・デフォルトリスクモジュールにおけるタイプ2のエクスポージャーの拡大

・カウンターパーティー・デフォルトリスクモジュールにおけるタイプ2のエクスポージャーに関しての部分保証の認識

・ITS(EU)2015/2011に列挙されていないRGLA保証及び関連する資本費用の認識

しかし、保険ヨーロッパは、委任規則第85条の意図に反して、RGLAsと中央政府の間の同等性を決定するために、過度にきめ細かで堅固なアプローチを導入する可能性があるため、銀行と保険の規制の間の適格RGLAsのリストを調和させるために取られるアプローチについて注意を払っている。さらに、保険ヨーロッパは、委任規制の条項に対するEIOPAの提案された変更の精神を支持している。しかし、保険ヨーロッパは、LGD公式の変更、第215条(f)の遵守からの完全な除外及び混乱を避けるために委任規則におけるリサイタル42の最後の文の削除、を提案する。

リスク軽減手法 - 保険ヨーロッパは、EIOPAによって提出された、リスク軽減技術の代替頻度の制限を改善し、一時的にSCRに違反している再保険業者が提供するリスク軽減の部分認識の要件を変更する、という提案を支持する。しかし、アドバース・デベロップメント・カバーとファイナイト再保険の認識を向上させるためには、さらなる作業が必要であると考えている。

ルックスルー・アプローチ:投資関連ビークル - 保険ヨーロッパは、関連会社へのルックスルー・アプローチの拡大に取り組んだEIOPAの作業を歓迎する。EIOPAによって提案された「投資関連会社」の基準と定義を幅広く支持している。しかし、ルックスルー・アプローチの適用が比例的に確実に実施されるようにするには、追加の作業が必要である。

会社固有のパラメータの検討 - 保険ヨーロッパは、ソルベンシーIIがその規模(SMEs(中小規模会社)、モノライナー(単一種目営業会社))に関係なく、全ての会社にワークすることを保証するために、比例原則とともに、USPの使用を強く支持している。しかし、EIOPAが提案したいくつかの改善にもかかわらず、保険ヨーロッパは、委任規則で現在定義されている適用分野に関して、USPの制限された範囲を懸念している。

さらに、保険ヨーロッパは、EIOPAが、新しい標準化された方法の導入に反対し、非常に厳しく、それゆえUSPの幅広い利用には役立たない、現在のデータ要件のいかなる修正も拒否していることを懸念している。保険ヨーロッパは、現在、委任規則で定められているように、USPの範囲を特定の分野に限定すべきではなく、むしろ生命、健康、損害カタストロフィー、さらにはオペレーショナルリスクにまで拡大すべきだと強く信じている。ソルベンシーII指令で認められている全ての領域への拡大は、保険ヨーロッパの見解では、ソルベンシーIIがSME /モノライナーを含めた規模にかかわらず、全ての会社にワークするために必要なものである。

繰延税金の損失吸収能力(LAC DT) - 保険ヨーロッパは、欧州委員会は、EIOPAに対して、繰延税金の損失吸収能力(LAC DT)に関して、欧州全体で現在適用されている様々な方法及びその影響について報告するよう要請した、と強調する。それゆえ、保険ヨーロッパは、分析を提出することにより、EIOPAがその任務を完全に遂行し、さらなる行動は必要ない、と信じている。

保険ヨーロッパは、LAC DTの計算に関する「ワン・サイズ・フィッツ・オール(全てに適用可能な汎用型)」という考え方は適切ではないと考えており、これはEIOPAによるデータ分析の弱い相関によって示されている。それゆえ、保険ヨーロッパの見解では、LAC DTの計算の標準化は必要なく、いかなる追加のガイダンスも必要ない。

 

4―まとめ

4―まとめ

今回のレポートでは、EIOPAによるソルベンシーIIのレビューに関する第1の助言セットについてのCPに対する保険業界団体Insurance Europeの反応を報告した。

各項目に対して、保険業界サイドからの意見が述べられているが、特にLAC DTの今後の取扱いに関しては、「標準化」に向けたさらなる検討の必要性を否定している。LAC DTは、保険会社にとって大きな意味合いを有するものであるが、各国の税制の差異や今後の収益性等に関する各社のモデリングや前提等に起因して、国別、会社毎に異なる取扱が行われている。このことが一方では、透明性や比較可能性の欠如につながっているとも取られかねないものとなっている。こうした状況を踏まえて、今後EIOPAがどのような対応をしていくのかは大変注目される。

いずれにしても、EIOPAは、今回のCPに対する他の関係団体からのフィードバック等も踏まえて、再検討を行い、2017年10月に欧州委員会に最初の助言セットを提出する予定となっている。

EIOPAの今後の対応等については引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2017年09月11日「保険・年金フォーカス」)

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