2017年09月11日

米国経済の見通し-消費主導の景気回復持続も、当面ハリケーンの影響や、米国内政治状況などで経済は流動的

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(貿易)外需寄与度は2期連続でプラスも、ハリケーンの影響が攪乱要因
17年4-6月期の純輸出は2期連続で成長率寄与度がプラスとなった。輸出入の内訳をみると、輸出入ともに前期から伸びが鈍化したものの、輸入が前期比年率+1.6%(前期:+4.3%)となった一方、輸出が+3.7%(前期:+7.3%)と輸出の鈍化が輸入に比べて小さかったことが影響した。
(図表17 )貿易収支(財・サービス) 先日発表された7月の貿易収支(3ヵ月移動平均)は、季節調整済みで▲445億ドル(前月:▲457億ドル)の赤字と、前月から赤字幅が縮小した(図表17)。輸出額が前月から+9億ドル増加したほか、輸入額が▲3億減少しており、輸出入ともに貿易赤字縮小に貢献した。
8月以降は、ハリケーンの影響によって統計が歪められるため、現段階で予想が困難となっている。ハリケーン「ハービー」が襲った地域は米国内でも主要な石油精製地域のため、石油製品や化学製品関連の輸出に影響がでる可能性が高い。

さらに、貿易についてより長期的にはトランプ政権の通商政策の動向が注目される。8月中旬にトランプ大統領が大統領覚書によって中国の知的財産権など不当な貿易慣行をUSTRに調査することを要求したことを受けて、USTRは10月に調査結果を報告することになっているほか、NAFTAについても20以上の分野で再交渉を協議し、年内の合意を目指している。これらの同動向次第では、貿易収支に大幅な影響が生じるだろう。
 

3.物価・金融政策・長期金利の動向

3.物価・金融政策・長期金利の動向

(図表18)消費者物価指数(前年同月比) (物価)エネルギー価格の物価押し上げが逓減
消費者物価の総合指数(前年同月比)は7月が+1.7%と、2月につけた+2.7%から5ヵ月連続で低下した(図表18)。

原油価格が頭打ちとなる中で、エネルギー価格による物価押し上げが逓減したことが、総合指数が低下している主な要因だ。

一方、エネルギーと食料品を除いたコア指数も、17年1月の+2.3%から6ヵ月連続で低下しており、基調としての物価上昇圧力も弱い。これは、労働需給のタイト化にも拘らず賃金上昇率が加速してこないことなどが影響しているとみられる。もっとも、コア指数については、労働力不足が顕在化してきている中で、賃金上昇率は早晩加速するとみられることから、低下は一時的だろう。

また、当研究所では、原油価格は、足元(9月8日時点)の47ドル台半ばから17年末に49ドル、18年末に53ドルまで緩やかに上昇すると予想している(図表6)。これらの原油想定を前提にすると、原油価格(前年比)は18年1-3月期に一時的にマイナスとなるものの、概ね18年末まで上昇基調が持続する。このため、消費者物価の総合指数も、エネルギー価格が緩やかながら物価を押し上げることで上昇基調が持続しよう。当研究所では消費者物価見通し(前年比)を17年が+2.0%、18年が+2.1%と予想している。
(金融政策)ハリケーンの影響を見極めも、9月バランスシート縮小開始、12月追加利上げを予想
FRBは、6月のFOMC会合で物価が政策目標を下回って低下していたにも拘らず、労働市場の回復に自信を示して、政策金利の0.25%引き上げを実施した(図表19)。また、7月のFOMCでは、量的緩和政策で拡大したFRBのバランスシートの縮小開始時期に関する記述を「年内」から「比較的早期」に変更したため、9月にバランスシートの縮小開始を決定するとの見方が強まっている。
(図表19)政策金利およびPCE価格指数、失業率 一方、8月下旬以降に米国を襲ったハリケーンによる経済への影響が懸念されていることから、ハリケーンが金融政策の攪乱要因となってきた。

当研究所では、ハリケーンの影響を見極める必要はあるものの、9月バランスシート縮小開始、12月追加利上げを実施するとの従来の見通しを維持する。ハリケーンによる米経済への影響は未だ評価に時間がかかるとみられ、9月19、20日のFOMC会合では委員たちの評価は分かれるだろう。

ただし、FRBは金融政策調整手段として、政策金利の操作を中心に行う方針を示しており、バランスシートの縮小はある意味、金融政策の意思決定とは独立して粛々と進めたい意向が明確だ。また、バランスシートの縮小は、当初月間100億ドルのペースと、4.2兆ドルのバランスシート全体の僅か0.2%に過ぎない。このため、資本市場が安定している限りFRBはバランスシート縮小を開始すると予想している。

政策金利については、12月のFOMCまでにハリケーンの影響などが相当程度明らかになっているとみられるため、それらの評価を踏まえて決定するとみられる。現段階では、12月の追加利上げを見込んでいるものの、物価が落ち着いている中で、ハリケーンの影響次第では、追加利上げが来年以降に先送りされる可能性は否定できない。

来年以降は、政策金利の引き上げ方針が維持されると予想しているものの、イエレン議長も含めてFRB理事の殆どが入れ替わる可能性があり、金融政策の運営方針が大幅に変更されるリスクには注意したい。
(図表20)米国金利見通し (長期金利)18年末にかけて緩やかな上昇を予想
長期金利(10年国債金利)は、昨年11月の大統領選挙前の1.8%台から12月には一時2.6%近辺まで上昇した後、足元は物価上昇率の低下などもあり、足元2%近辺まで低下している(図表20)。

この先の長期金利については、物価が緩やかな上昇を続ける中で、政策金利の引き上げが持続することや、FRBのバランスシート縮小に伴う国債需給の引き締りや、財政赤字拡大に伴う国債供給増などを背景に、18年末にかけて緩やかに上昇すると予想する。もっとも、原油相場の上昇が緩やかなことから、17年末に2%台後半、18年末に3%台前半と上昇幅は限定的となろう。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2017年09月11日「Weekly エコノミスト・レター」)

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