2017年09月04日

【8月米雇用統計】雇用者数は前月比15.6万人増、市場予想を下回ったものの、堅調な雇用増加を確認する結果

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用増加数、失業率ともに市場予想より低調な結果

9月1日、米国労働省(BLS)は8月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+15.6万人の増加1(前月改定値:+18.9万人)となり、前月から伸びが鈍化したほか、市場予想の+18.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も下回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.4%(前月:4.3%、市場予想:4.3%)と、こちらは前月、市場予想を上回った(後掲図表6参照)。一方、労働参加率2は62.9%(前月:62.9%)とこちらは前月から横這いの結果となった(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:回復モメンタムは低下も、堅調な労働市場の回復持続を確認

8月の非農業部門雇用者数が、前月比で10万人台半ばまで伸びが鈍化したほか、20万人超から下方修正された7月も下回ったことから、雇用増加ペースは2ヵ月連続での鈍化となった。もっとも、6-8月期の月間平均増加ペースでは18.5万人増と、3-5月期の13.4万人増を上回っているほか、16年平均の18.7万人増に近い水準を維持しており、依然として堅調な雇用増加が持続していると判断できる。

また、家計調査では、失業率が前月から小幅上昇したほか、労働参加率が横這いとなっていることから、8月は回復が足踏みとなった。もっとも、こちらも失業率は07年以来の水準に留まっており、労働需給がタイトな状況に変化はない。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、8月の時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.1%(前月:+0.3%、市場予想:+0.2%)と、前月、および市場予想を下回った。また、前年同月比も+2.5%(前月:+2.5%、市場予想:+2.6%)と市場予想を下回っており、労働需給のタイト化が続く中でも賃金の伸びが鈍い状況が続いている(図表1)。

このようにみると、8月の結果は、これまで同様賃金の回復がもたついていることに加え、事業所調査、家計調査ともに回復のモメンタム低下を示す結果であった。もっとも、完全雇用に近づいているとの見方が強まる中で、雇用増加ペースは10万人台半ばを維持しており、8月は堅調な労働市場の回復持続を確認する結果と言えよう。

一方、8月下旬にテキサス州などを襲った大型ハリケーン「ハーディー」の影響は、8月統計には反映されておらず、9月の雇用統計に影響するため、注意が必要だ。

3.事業所調査の詳細:財生産部門が好調、民間サービスは伸びが大幅に鈍化

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、非農業部門雇用増の内訳は、民間サービス部門が前月比+9.5万人(前月:+17.9万人)と、前月から大幅に伸びが鈍化し、17年3月(+4.2万人)以来の1桁の伸びに留まった(図表2)。

サービス部門では、広範な業種で雇用の伸びが鈍化した。専門・ビジネスサービスが+4.0万人(前月:+5.0万人)、医療サービスが+2.0万人(前月:+4.0万人)となったほか、娯楽・宿泊サービスが+5.8万人(前月:+0.4万人)と鈍化が顕著であった。

一方、財生産部門は、前月比+7.0万人(前月:+2.3万人)と、こちらはサービス部門とは対照的に前月から伸びが加速した。製造業が+3.6万人(前月:+2.6万人)となったほか、建設業も+2.8万人(前月:▲0.3万人)と、前月のマイナスから増加に転じた。

政府部門は、前月比▲0.9万人(前月:▲1.3万人)と、こちらは2ヵ月連続でマイナスとなった。内訳をみると、連邦政府が▲0.1万人(前月:▲0.1万人)となったほか、州・地方政府も▲0.8万人(前月:▲1.2万人)と、両者ともに2ヵ月連続で減少した。
前月(7月)と前々月(6月)の雇用増(改定値)は、前月が+18.9万人(改定前:+20.9万人)と▲2.0万人下方修正されたほか、前々月が+21.0万人(改定前:+23.1万人)とこちらも▲2.1万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲4.1万人の下方修正となった(図表3)。
 
なお、BLSの公表に先立って8月30日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+23.7万人(前月改定値:+20.1万人、市場予想:+18.5万人)と、+17.8万人から上方修正された前月からさらに伸びが加速、2ヵ月連続の20万人超の増加となった。この結果、ADP統計は、2ヵ月連続で雇用者数の伸びが鈍化した雇用統計とは不整合な動きとなった。
 
8月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が26.39ドル(前月:26.36ドル)となり、前月から+3セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.4時間(前月:34.5時間)とこちらは前月から▲0.1時間の減少となった。その結果、週当たり賃金は907.82ドル(前月:909.42ドル)と、17年5月以来となる前月からの減少となった(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働力人口の増加は持続も伸びは大幅に鈍化

家計調査のうち、8月の労働力人口は前月対比で+7.7万人(前月:+34.9万人)と、3ヵ月連続の増加となったものの、伸びは前月から大幅に鈍化した。内訳を見ると、失業者数が+15.1万人(前月:+0.4万人)と前月から伸びが大幅に加速した一方、就業者数が▲7.4万人(前月:+34.5万人)と3ヵ月ぶりに減少したことが大きい。非労働力人口は+12.8万人(前月:▲15.6万人)と、こちらも3ヵ月ぶりに増加に転じた。

これらの結果、労働参加率は小数第2位までとると62.88%(前月:62.90%)と前月から小幅悪化した(図表5)。失業率も前月から上昇しており、家計調査では労働需給の改善が足踏みとなった(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
次に、8月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、174.0万人(前月:178.5万人)となり、前月対比では▲4.5万人(前月:+12.1万人)と、14年2月以来となる10万人超の増加となった前月の反動もあって、4ヵ月ぶりに減少に転じた。この結果、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも24.7%(前月:25.9%)と4ヵ月ぶりに低下した。また、平均失業期間も24.4週(前月:24.9週)とこちらも前週から減少した(図表7)。

最後に、周辺労働力人口(154.8万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(525.5万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4をみると、8月は8.6%(前月:8.6%)と3ヵ月連続で横這いとなった(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は4.2%ポイント(前月:4.3%ポイント)と、こちらは前月から▲0.1%ポイント縮小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2017年09月04日「経済・金融フラッシュ」)

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