2017年08月31日

商業施設売上高の長期予測~少子高齢化と電子商取引市場拡大が商業施設売上高に及ぼす影響~

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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2EC市場規模の変動要因分析
EC化率の変動要因は、人口動態要因と消費行動要因に分解できる。人口動態要因は、若い頃からITを利用しEC化率の高い年齢の世帯が、時間推移により全体に占める割合が増えることによって、日本全体のEC化率が上昇するものである。消費行動要因は、ECの利便性向上やネット・スマホ普及率の向上などにより、各世帯のEC利用が拡大するものである。

総務省「全国消費実態調査」によると、日本のEC化率は2004年を100とした場合、2014年は299と、10年間で3倍に上昇した(図表14)。これを要因分解すると100から299に増加した199のうち、人口動態要因が32(寄与率16%)、消費行動要因が167(同84%)である。EC市場拡大には、人口動態要因も少なからず寄与したものの、その大部分はECの利便性向上やIT普及による消費行動要因で説明できることがわかる。
図表14 EC市場拡大の要因分解
3EC市場拡大のシナリオの設定
次章では、2つのシナリオ(メインシナリオ、サブシナリオ)を用いて、将来の商業施設売上高を試算する。

メインシナリオは、EC市場規模がこれまで非常に安定したペースで拡大しているため、今後も過去10年と同様のペースで拡大すると仮定したものである6。当シナリオでは、2016年に5.4%のEC化率は、2025年に9.2%、2035年に13.4%となる(図表15)。2035年に現在の英国(EC化率15%)をやや下回る水準まで上昇する結果となっており、過度にEC化進展を織り込んだシナリオではないことがわかる。また当シナリオは、前述のEC市場規模の変動要因分析における人口動態要因と消費行動要因の双方を考慮したシナリオである。

サブシナリオは、人口動態要因のみを考慮して将来のEC化率を推計しており7、EC化率は2025年に7.1%、2035年に8.4%に上昇する(図表15)。2035年にようやく現在の米国(EC化率8%)と同様の水準まで上昇するというものだ。
図表15 EC市場拡大のシナリオ
 
6 複数の機関がEC市場規模の将来予測を行っているが、いずれの予測も結果的には従来のペースで拡大するというものになっている。
7 EC市場拡大の要因分解で確認したように、人口動態要因は過去10年のEC市場拡大の16%ほどしか説明していない。そのためサブシナリオは商業施設の投資家にとっては、楽観的なシナリオである。
 

5――2035年までの商業施設の売上環境の分析

5――2035年までの商業施設の売上環境の分析

図表16 分析手法の概要 1分析手法
少子高齢化とEC市場拡大の影響を定量化し、2035年までの商業施設の売上環境の変化を試算する。まず、年齢毎に見た各世帯の可処分所得、消費性向、品目別消費割合が現在(2014年時点)から将来も一定と仮定し、将来の年齢毎世帯数8を乗じることで、日本全体の物販・外食・サービス支出・品目別支出の推移を求めた。これは日本の商業施設の潜在的な売上規模を示す。次に、日本全体の物販・外食・サービス支出からECによる購入を除いたものを、日本全体の商業施設売上高とみなし、今後の商業施設の売上環境について分析した(図表16)。
 
8 二人以上世帯の世帯人員は一定と仮定しているが、国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)(2013(平成25)年1月推計)」によると、今後世帯人員は減少する見通しであるため、本稿の推計結果は過大となっている可能性がある。
2物販・外食・サービス支出の見通し
まず、2035年までの物販・外食・サービス支出と品目別支出の推移を試算した(図表17)。2015年と比較して、物販・外食・サービス支出は2025年に-1.9%、2035年に-7.7%となる。今後10年程度は緩やかなスピードで減少するが、その後は減少ペースが加速する。

品目別に見ると、その変化は各品目によって異なる。2025年までは、被服・靴(15年比-3.4%)、教養娯楽用品(同-3.9%)、外食(同-4.5%)の減少率が大きい。一方、書籍(同+0.1%)や医薬品関連(同+1.4%)、理美容サービス(同+0.2%)、交際費(同+0.7%)は増加する。他にも食料(同-1.8%)、家具・寝具(同-1.5%)、家電(同-1.9)、旅行サービス(同-1.2%)、医療サービス(同-1.7%)、観覧・入場料等(同-1.5%)は高齢化の影響が少ない品目のため、減少率が限られる。観覧・入場料等、交際費といった品目には単身世帯増加によるプラスの影響があるため、高齢化の影響が一部相殺された。

2035年までの品目別変化を見ると、2025年には支出が増加していた品目も含めて、全ての品目で減少している。この時期は、世帯数が減少しており、高齢者世帯の平均年齢も上昇しているため、支出の減少が加速している。特に、被服・靴(同-10.7%)、教養娯楽用品(同-10.4%)、外食(同-12.3%)は二桁台のマイナスと減少率が大きい。医薬品関連(同-3.1%)や交際費(同-2.7%)は小幅な減少にとどまっているが、高齢化により恩恵を受ける品目についてもマイナスに転じる。
図表17 物販・外食・サービス支出の増減率の見通し(2015年比)
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

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