2017年08月31日

商業施設売上高の長期予測~少子高齢化と電子商取引市場拡大が商業施設売上高に及ぼす影響~

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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3高齢化の物販・外食・サービス支出への影響
次に、高齢化が物販・外食・サービス支出に与える影響を整理する。ここでは、各年齢の世帯と5歳上の世帯の物販・外食・サービス支出を比較している。年齢毎の消費支出が将来も変わらないと仮定した場合に、各世帯の物販・外食・サービス支出が5年後にどれほど変化するかを表している(図表8)。

物販・外食・サービス支出は、若年世帯から55~59歳まで増加する。その後は、高齢となるにつれ支出は減少し、減少幅も大きくなる。例えば、団塊ジュニア(2015年時点で40~44歳)の物販・外食・サービス支出は、5年後には6.6千円/月増加、5年後から10年後には4.3千円/月増加、10年後から15年後には5.5千円/月増加するが、15年後から20年後には0.3千円/月減少する。また団塊の世代(同65~69歳)の物販・外食・サービス支出は、5年後には13.4千円/月減少し、5年後から10年後にはさらに18.4千円/月減少する。

品目別に見ると、多くの品目が高齢化により支出が減少するが、増加する品目も一部ある。食料、被服・靴、外食は大きく減少し、家具・寝具、家電、書籍は小幅な減少にとどまる。また医薬品関連、理美容サービスはむしろ増加することが期待される。主な品目の支出のピークは、食料:60~64歳、被服・靴:50~54歳、外食:40~44歳、旅行サービス:65~69歳、医療サービス:65~69歳、交際費:65~69歳である。団塊ジュニアや団塊の世代がこのピークを通過すると、これらの品目への減少圧力が年々大きくなる。
図表8 高齢化による物販・外食・サービス支出の変化(5歳上の世帯の支出との差)

4――EC市場拡大の商業施設売上高への影響

4――EC市場拡大の商業施設売上高への影響

1EC市場拡大の動向
経済産業省「電子商取引に関する市場調査」によると、日本のEC市場は2016年に15.1兆円まで拡大し、EC化率は5.4%まで上昇している(図表9)。日本のEC市場は依然二桁台の成長を続けているが、成長率はやや鈍化しているようにも見える(図表10)。しかし、米国のEC化率である8%1や英国の15%2と比較しても、日本のEC市場の拡大余地は依然大きいと言えるだろう。
図表9 日本のEC市場規模とEC化率の推移/図表10 日本のEC市場規模の成長率
図表11 日本の物販系分野のEC化率と市場規模 同調査によれば、日本でEC化が進んでいる品目は、事務用品・文房具(EC化率33.6%)、生活家電・AV機器・PC・周辺機器等(同29.9%)、書籍・映像・音楽ソフト(同24.5%)などである(図表11)。これらの品目の特徴として、劣化しにくく、品質が一定かつ比較しやすいことなどが挙げられる。一方、食品・飲料・酒類、自動車・自動二輪車・パーツ等はEC化が遅れている。劣化しやすい、品質が不均一、高額または専門知識が必要な品目などである。また衣類・服装雑貨等のECは、実物が確認できない、試着できないなどの短所が指摘されてきたが、着実にEC化が進んでいる。このことからも、ECへの物理的な障壁のみならず、心理的な障壁も解消されてきており、EC化の裾野が広がっていると言えよう。
次に、EC最大手である米Amazon.comの日本における動向を紹介する。同社の日本での売上高は、4~5年で2倍となる速さで急拡大しており、2016年には1兆1745億円に達した(図表12)。日本経済新聞社の調査3によれば、2016年度の売上高は日本の小売業の売上高ランキングで6位となった。また、2017年4月から生鮮食品の販売も一部エリアで開始するなど、品揃えを拡充している。食品は消費支出に占める割合が大きく4、EC化が遅れている。また購買頻度が高いという特徴があるため、消費者とECの接点を増やし、EC市場のさらなる拡大に寄与する可能性がある。
図表12 米Amazon.comの売上高の推移
総務省「全国消費実態調査」のデータから年齢毎のEC化率を確認すると、30歳代で最も高く、年齢が高くなるほど低くなる5(図表13)。しかし、2004年から2014年の伸び率を見ると、50歳以上の世帯が大きく、年齢毎に見ても、着実にEC化の裾野が広がっていることがわかる。
図表13 年齢毎のEC化率の推移
 
1 United States Census Bureau「Quarterly Retail e-Commerce Sales」
2 Office for National Statistics「Retail sales in Great Britain」
3 日本経済新聞 電子版、2017年6月28日“アマゾン、国内で1兆円超 16年度本社調査”
4 総務省「平成26年全国消費実態調査」によれば消費支出に占める食料(外食除く)の割合は約20%と大きい。
5 経済産業省「電子商取引に関する市場調査」と算出方法が異なるため水準は異なる。しかし、過去10年の伸び率を見ると両者とも10%台前半と大きく変わらない。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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