2017年08月29日

【アジア・新興国】アジアの保険会社による不動産投資の拡大も踊り場に~当面は中国政府の海外投資規制強化に注目~

増宮 守

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1―はじめに

ニッセイ基礎研究所では、2015年からアジアの保険会社による不動産投資動向を調査しており、台湾や韓国の保険会社の積極的な不動産投資姿勢や、解禁以降の数年間で急速に不動産投資を拡大してきた中国の保険会社の動向などを確認してきた。しかし、2015年下期の中国経済の失速懸念を背景とした世界同時株安以降、世界の不動産投資市場において不動産取引額が縮小に転じている。今回、これまで積極的だったアジアの保険会社による不動産投資の現状を確認し、今後を展望する。
 

2―不動産取引額のピークアウト

2―不動産取引額のピークアウト

2015年8月、中国経済の失速懸念を背景とした世界的な株価下落、いわゆるチャイナショックが発生した。その影響は世界の不動産投資市場にも広がり、高値での積極的な取得が世界的に控えられるようになった。結果として、2016年の世界の不動産取引額は前年比で縮小に転じ、リーマンショック以降続いた拡大トレンドが一旦途切れる形となった。2016年の取引額は、ピークの2015年から14.6%縮小し、2014年の数値をも下回った(図表-1)。

とりわけ、チャイナショックの震源地である中国の影響が強いアジアパシフィック地域では、既に2014年から不動産取引額が伸び悩んでいた。そのため、2016年の取引額は、2013年の数値も下回り、4年前の水準に落ち込んだ。
図表-1 世界の不動産取引額(開発用地除く)

3―アジアの保険会社による不動産投資

3―アジアの保険会社による不動産投資

このように、世界、アジアパシフィック地域を問わず、積極的な不動産投資が控えられつつあるが、まず、これまでのアジアの保険会社による不動産投資姿勢を簡単に確認する。アジアでは、概して新興国の保険市場は発展途上にあり、それらの保険市場規模は依然として小さい(図表-2)。そのため、現在、保険会社が大規模な不動産投資を実施しているケースは、保険市場規模上位の数カ国に限定される。上位4カ国(台湾、韓国、中国、日本)の大手保険会社について、不動産保有状況をみたグラフが(図表-3)である。
図表-2 アジアの生命保険市場規模(米ドルベース)
図表-3 アジアの主要保険会社の保有不動産金額(日本円ベース)
4カ国の中でも、台湾の保険会社の不動産投資比率は突出して高く、最大手の国泰人寿保険が、アジアの保険会社として最大の不動産投資家となっている1。また、中国の保険会社は、不動産投資が解禁されてからの年月がまだ浅いため2、不動産の比率は低いものの、既に保有不動産額はかなりの規模になっている。

このように、台湾の保険会社は、保険市場規模が日本より格段に小さいにもかかわらず、非常に不動産投資に積極的であり、また、中国の保険会社も、新たな積極的プレイヤーとして不動産投資を本格化しつつある。
 
1 増宮 守、「【アジア・新興国】アジアの保険会社による不動産投資~日本国内で不動産投資を積極化する可能性も~」 ニッセイ基礎研究所、基礎研レター2016/2/17
2 2009年2月の「改正保険法」の承認、2010年7月の「保険資金運用管理暫定弁法」および8月の「保険資金の運用政策に関する問題を調整するための通知」の発表による。
 

4―最近の不動産投資姿勢の変化

4―最近の不動産投資姿勢の変化

では、不動産投資に積極的なこれらのアジアの保険会社について、チャイナショック発生以降の動向を確認する。上位4カ国の大手保険会社の3月末時点の不動産保有額(簿価ベース)について、直近3年間の対前年変化率(現地通貨ベース)を表したものが(図表-4)である。
図表-4 アジアの主要保険会社の保有不動産額変化率(前年同期比)
まず、台湾では、不動産投資を急拡大している台湾人寿保険を除き、チャイナショック発生後の2016年3月末に、保険会社による保有不動産額の拡大はみられなかった。既に不動産投資比率が高い水準にあるため、台湾の保険会社は不動産投資拡大を急ぐ必要がなく、一旦、慎重姿勢に転じたとみられる。ただし、2017年3月末には、新光人寿保険や南山人寿保険が再び保有不動産額を拡大しており、今後、その他の台湾の保険会社も、再び不動産投資拡大に向かう可能性がある。

次に、韓国をみると、保有不動産額と不動産投資比率の双方で突出しているサムスン生命保険が、2017年3月末に保有不動産額を縮小していた。韓国では、国際会計基準導入のフェーズ2が進行しており、不動産投資を見直す動きが広がっている。また、景気低迷で賃料上昇が限定的であるにもかかわらず、金利低下に伴って不動産価格のみが上昇し、割高感が強まっていた。

一方、中国の保険会社は、台湾や韓国の保険会社とは対照的な動きをみせている。チャイナショックの当事国にありながら、3年連続で保有不動産額を大幅に拡大していた。中国の保険会社は、投資対象を国内だけでなく、世界中の不動産に広げる形でハイペースの不動産投資拡大を続けてきた。2017年3月末には、4社中3社が保有不動産額を前年比2割以上も拡大していた。

もちろん、中国の保険会社については、保険市場の成長と共に総資産の拡大そのものが顕著である。しかし、総資産に対する不動産比率も上昇傾向にあり(図表-5)、中国の保険会社が他の資産以上に不動産の拡大に積極的なことがわかる。

ちなみに、日本の保険会社は、この3年間全く保有不動産額を拡大していなかった。日本の不動産投資市場では、アベノミクスの開始から2015年にかけて投資利回りが大幅に低下し、それ以降、キャピタルゲインよりも長期安定的な利回りを求める保険会社にとって、不動産投資の拡大は非常に難しい状況となっている。上位3社は、減価償却分の目減りはあるものの、基本的に保有不動産を現状維持する姿勢とみられ、一方、住友生命保険は、意識的に保有不動産額を縮小していた。
図表-5 不動産(投資用+営業用)/総資産(%)
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増宮 守

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