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- 「パワーカップル」世帯の動向(1)-夫婦とも年収700万円超は共働き世帯の約2%でじわり増加。夫が高年収でも働く妻は増加傾向、夫婦間の経済格差拡大か。
「パワーカップル」世帯の動向(1)-夫婦とも年収700万円超は共働き世帯の約2%でじわり増加。夫が高年収でも働く妻は増加傾向、夫婦間の経済格差拡大か。
生活研究部 上席研究員 久我 尚子
1――はじめに~2013年頃から注目の「パワーカップル」=購買力のある共働き夫婦
「パワーカップル」という言葉は、橘木俊詔・迫田さやか著「夫婦格差社会-二極化する結婚のかたち」(中公新書、2013年)をきっかけに使われ始めたようだが、利用者によって定義は様々だ。橘木氏らは、医師夫婦を代表に高学歴・高所得の夫婦を「パワーカップル」とし、低所得の「ウィークカップル」と対比している。一方で、そのほかのレポートや新聞記事などでは(得られるデータの制約もあるのだろうが)、共働きで「世帯年収2千万円前後」1などフローに注目したものものあれば、「平均金融資産2千万円以上・本人年収4百万円以上・世帯年収1千万円以上」などストックにも注目したものもある。また、単に「夫婦ともにフルタイム勤務」2とするものもある。さらに、政治家や事業家など影響力のある夫婦を指すこともあるようだ。
1億総活躍社会を目指し、「女性の活躍促進」も強く推し進められる中、ますます共働き夫婦は増えていく。また、住宅市場などを見ると、「パワーカップル」には個人消費の牽引役としての期待が寄せられる。一方で日本では、夫の収入が高いほど妻の就業率が下がるという「ダグラス・有沢の法則」が依然として成立するという指摘もある3。
よって、本稿と次稿の二回に渡り、今後、増えゆく共働き世帯の消費を捉える一助として、「パワーカップル」世帯の動向について捉えていく。まず、本稿では、「パワーカップル」世帯のボリューム(世帯数)を確認するとともに、夫が高年収の世帯における近年の妻の就業状況について見ていく。そして、次稿では、妻の収入に注目し、ライフステージや暮らし向き、居住形態など生活面の違いを見る。
1 「通信週評 『パワーカップル』を過信するなかれ」(日刊不動産経済通信、2016/11/7)、「通信週評 パワーカップルが高額帯をけん引」(日刊不動産経済通信、2016/8/22)、「マンション市況GW以降、やや変化か低水準の金利が後押し」(住宅新報、2016/6/21)、「活気づく“高級住宅”市場 Interview」(ハウジング・トリビュー、2015/7/24)など。
2 「共働き経済圏、動く、時間節約消費、花盛り、60兆円市場、成長担う。」(日本経済新聞、2017/4/22)など。
3 多田隼士「ダグラス・有沢の法則の変化とその要因」(財務省「ファイナンス」、2015/4)など。
2――高所得世帯数、および「パワーカップル」世帯数
まず、世帯の所得分布について全体像を把握したい。厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査」によると、総世帯4,995万世帯の年間平均所得は546万円、中央値は428万円である。
これらの高所得世帯は、人口に比例する部分も大きいが、世帯主の年齢が50~60代の世帯や南関東、大都市で多い。2,000万円以上の世帯は、年代別には50代(33.6%)、60代(25.0%)、70代(17.2%)の順に多く、65歳以上が42.2%を占める。地域別には南関東(36.7%)、東海(15.6%)、北関東(8.6%)の順で、大都市が35.2%を占める。
次に、共働き世帯の所得状況について見ていく。総務省「平成28年労働力調査」によると、共働き世帯(夫婦ともに就業者の世帯)は1,389万世帯であり、総世帯の27.8%を占める。
3――夫が高収入世帯の妻の就業状況~夫が高年収世帯でも妻の労働力率は上昇傾向
なお、妻の労働力率は、夫の収入によらず全体的に上昇傾向にあるため、夫が年収700万円超の高収入でも妻が働く世帯は増え、2013年から2016年にかけて258万世帯から285万世帯へと増加している。また、夫が高年収の世帯ではフルタイムで働く妻(週35時間以上就業の雇用者)も、やや増えている。夫の年収700万円超の世帯に占めるフルタイム妻の世帯は、同期間で16.9%から19.0%(76万世帯から89万世帯)へと増えており、うち3割弱が「パワーカップル」と見られる4。
4 夫の年収700万円超で妻が週35時間以上就業の世帯(89万世帯)に占める夫婦ともに年収700万円以上の世帯(25万世帯)
4――おわりに~夫婦間経済格差拡大の可能性も
なお、夫が高年収世帯でも働く妻が増えている背景には、プラス要因として、女性の社会進出や近年の「女性の活躍促進」政策の効果が、マイナス要因として、大卒以上・正社員など比較的待遇の良い雇用者でも賃金が減少傾向にあるため共働きで家計を支える必要が出ていること5があげられる。
次稿では、共働き世帯の妻の収入に注目し、ライフステージをはじめとした生活面の違いを見る。
5 久我尚子「求められる20~40代の経済基盤の安定化-経済格差と家族形成格差の固定化を防ぎ、消費活性化を促す」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2017/5/17)
03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
(2017年08月28日「基礎研レター」)
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