2017年08月22日

中国経済見通し~景気は党大会後も大丈夫なのか?

三尾 幸吉郎

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1.中国経済の概況

(図表-1)中国の実質成長率と消費者物価 中国国家統計局が公表した2017年上期(1-6月期)の国内総生産(GDP)は実質で前年比6.9%増と16年通期の同6.7%増を0.2ポイント上回った。2011年以降6年連続で前年の伸びを下回ってきたが、このまま勢いを保てれば7年ぶりに前年の伸びを上回る可能性がでてきた。一方、消費者物価は前年比1.4%上昇と16年通期の同2.0%上昇を0.6ポイント下回った。食品価格下落を背景に低い上昇率に留まっている(図表-1)。
また、経済の構造的変化も静かに進んでいる。

産業別に見ると、第1次産業の実質成長率は前年比3.5%増と16年通期の同3.3%増を0.2ポイント上回った。しかし、数年前まで4%前後だった成長率はここ2年半3%台へ低下しており、トレンドとしては緩やかな減速傾向にある。第2次産業の実質成長率は同6.4%増と16年通期の同6.1%増を0.3ポイント上回った。2010年の同12.7%増をピークに6年連続で前年の伸びを下回るなど経済成長のスピードが鈍化した主因だったが、17年上期には若干持ち直した。また、第3次産業の実質成長率は同7.7%増と16年通期の同7.8%増を0.1ポイント下回った。第3次産業もやや減速気味ではあるものの、第2次産業の実質成長率を4年半に渡って上回るなど、中国経済を支える新たな牽引役に育ちつつある(図表-2)。

一方、需要別に見ると、純輸出は0.3ポイントのプラス寄与と16年通期の▲0.5ポイントからプラスに転じた。リーマンショック後には3年連続の大幅マイナス寄与となったが、その後は小幅なプラス寄与とマイナス寄与を繰り返している。総資本形成(投資)は2.3ポイントのプラス寄与と16年通期の2.8ポイントを下回った。リーマンショック後の景気対策で2009年に8.1ポイントのプラス寄与となったのをピークに低下傾向にある。最終消費は4.4ポイントのプラス寄与と16年通期の4.3ポイントをやや上回った。最終消費は安定的なプラス寄与を続けている(図表-3)。
(図表-2)中国の実質成長率(産業別)/(図表-3)中国の実質成長率(需要別)

2.需要面の動き

2.需要面の動き

(図表-4)小売売上高の推移 1|消費
足元の消費は堅調に推移している。消費の代表指標である小売売上高の動きを見ると、17年1-7月期は前年比10.4%増と、16年通期の同10.4%増と同じ伸び率を維持した(図表-4)。

品目別に見ると、自動車は前年比5.6%増と16年通期の同10.1%増を大きく下回った。これは小型車(排気量1.6L以下)を購入する際に掛かる自動車取得税が引き上げられた(5%⇒7.5%)影響が大きい。他方、住宅販売の好調を背景として家具類は同13.2%増、家電類も同10.8%増と2桁の高い伸びを示しており、飲食や化粧品の販売も16年通期の伸びを上回って推移している。
(図表-5)消費者信頼感指数 17年下期以降の消費は、堅調な伸びが続くと予想している。企業利益の底打ちや雇用情勢の安定を背景に、17年1-6月期の全国住民一人あたり可処分所得(実質)は前年比7.3%増と実質GDP成長率を0.4ポイント上回る高い伸びを示しており、消費者信頼感指数は高位で推移している(図表-5)。また、中間所得層の増加を背景に、食品や衣類など生活必需品から教育文化娯楽などサービスへと消費需要のシフトが起きている(図表-6)。
(図表-6)一人当たり消費支出(2017年上期) 但し、18年の消費は17年よりもやや減速する可能性が高いと予想している。17年末には小型車減税が終了する見込みで、現在7.5%の自動車取得税は10%に戻ることになりそうだ。この増税効果に伴って、17年末に掛けては駆け込み需要が発生してプラス要因となる一方、18年に入ると反動減で自動車需要が落ちてマイナス要因となると見ている。また、住宅関連規制が16年秋以降強化されたのを背景に、17年下期以降は住宅販売の伸びが鈍化してくる可能性がある。そして、これまで好調だった家具や家電の消費にも、17年下期から18年にかけては陰りがでてくる可能性が高いと予想している。
(図表-7)固定資産投資(除く農家の投資)の推移 2|投資
足元の投資は持ち直してきた。投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)の動きを見ると、17年1-7月期は前年比8.3%増と、16年通期の同8.1%増を0.2ポイント上回った(図表-7)。業種別に見ると、製造業が前年比4.8%増と0.6ポイント上昇、不動産開発投資も同7.9%増と1.0ポイント上昇、インフラ投資も同20.9%増と3.5ポイント上昇した(図表-8)。
17年下期以降の投資はやや減速すると予想している。マイナス材料としては、(1)住宅規制強化に伴って住宅着工の減速が予想されること、(2)インフラ投資の先行指標となるプロジェクト計画投資(新規着工)の伸びが鈍化していること、(3)過剰生産能力を抱える製造業を中心に過剰債務のデレバレッジ(債務圧縮)が進むと見込まれることが挙げられる。一方、(1)企業利益が底打ちしたこと、(2)「中国製造2025」や「インターネット+」に対する手厚い政策支援を背景に新興産業関連投資が盛り上がってきたことなどプラス材料もあるため(図表-9)、小幅な減速に留まるだろう。

なお、中国では、大気汚染対策、水質汚染対策、土壌汚染対策、ごみ処理能力増強など環境関連や、中国共産党・政府が2014年3月に発表した「新型都市化計画(2014~2020年)1」に伴う交通物流関連の需要が大きいため、新興産業関連投資が鈍化した場合には、16.4兆元(約270兆円)とされる官民連携(PPP)事業の着工を急いで、景気テコ入れを図るだろう。従って、17年秋の党大会後の投資は、やや減速する可能性が高いものの、失速することはないと見ている。
(図表-8)固定資産投資(農業の投資を除く)/(図表-9)製造業の投資(17年1-7月期)
 
1 新型都市化が生み出す投資需要は巨大で2020年までの累計で42兆元に達すると試算されている(中国財政部)。スケジュールとしては2017年までが試行地域における先行実施期間となり、その成果を踏まえて2018-20年には全国展開される予定。なおこれに関連して、2016年5月11日には投資総額4.7兆元に及ぶ交通インフラ整備3ヵ年計画(2016-18年)が発表された。
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三尾 幸吉郎

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