2017年08月17日

【フィリピンGDP】4-6月期は前年同期比6.5%増~昨年の選挙特需の反動減が続く

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2017年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比6.5%増1と、前期の同6.4%増から若干上昇し、市場予想2(同6.4%増)を上回った(図表1)。

4-6月期の海外からの純所得3は同8.6%増(前期:同5.4%増)と上昇して、国民総所得(GNI)も同6.8%増(前期:同6.2%増)と上昇した。
需要項目別では、主に輸出の好調と政府支出の持ち直しが成長率を押し上げた。

民間消費は前年同期比5.9%増(前期:同5.8%増)と若干上昇した。民間消費の内訳を見ると、通信(同1.6%増)とその他財・サービス(同6.2%増)が低下したものの、食料・飲料(同6.0%増)と住宅・水道光熱(同6.6%増)、交通(同7.6%増)、レストラン・ホテル(同11.4%増)などがそれぞれ上昇して消費全体を押し上げた。

政府消費は同7.1%増(前期:同0.1%増)と、政府の予算執行が改善して上昇した。

総固定資本形成は同9.4%増と、高水準ながらも前期の同14.7%増から低下した。まず設備投資は同8.7%増(前期:同16.9%増)と鈍化した。設備投資の内訳を見ると、輸送用機器(同13.7%増)が好調を維持する一方、産業用特殊機械(同4.4%増)と一般産業用機械(同2.7%増)が低迷した。また建設投資も同7.3%増(前期:同10.8%増)と鈍化した。公共建設投資(同12.0%増)が再び二桁増まで上昇したが、民間建設投資(同4.7%増)が低下した(図表2)。

純輸出については、まず輸出が同19.7%増(前期:同20.3%増)と高水準を維持した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出が同9.9%増(前期:同12.4%増)と、主力のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業を中心にやや鈍化したものの、財輸出が同23.0%増(前期:同22.8%増)と、主力の半導体や計算機を中心に好調だった。一方、輸入も同18.7%増(前期:同18.6%増)と高水準となった結果、純輸出の成長率への寄与度は▲0.4%ポイントと、マイナス幅が前期から0.5%ポイント縮小した。
(図表1)フィリピン 実質GDP成長率(需要側)/(図表2)建設部門の粗付加価値額(GVA)
供給項目別に見ると、第一次産業と第二次産業の改善が成長率上昇に繋がった(図表3)。

GDPの約6割を占める第三次産業は同6.1%増(前期: 同6.7%増)と2期連続で低下した。不動産・事業活動(同7.9%増)、行政・国防(同7.6%増)が上昇した一方、金融(同6.1%増)や商業(同6.3%増)、運輸・通信(同3.5%増)がそれぞれ低下した。

第二次産業は同7.3%増(前期: 同6.3%増)と上昇した。建設業(同6.3%増)が民間部門を中心に鈍化、電気・ガス・水供給業(同2.4%増)も伸び悩んだものの、製造業(同7.9%増)はラジオ、テレビ・通信機器、石油製品、金属製品を中心に堅調を維持した。このほか、鉱業・採石業(同13.7%増)がその他非金属やニッケル、採石、粘土・砂を中心に大きく増加した。

第一次産業は前年同期比6.3%増(前期: 同4.9%増)と上昇して2期連続のプラスとなった。農業(同8.1%増)が好天に恵まれてコメやトウモロコシ、サトウキビを中心に上昇した。また水産業(同2.9%減)と引き続き低調だった一方、林業(同32.2%増)は5期ぶりのプラスに転じた。
 
(4-6月期GDPの評価と先行きのポイント)
フィリピン経済は東南アジア諸国のなかでも高い成長率を続けているが、今年上半期は大統領選挙の関連支出で押し上げられていた昨年同期からの反動減によって成長率が伸び悩み、政府目標(6.5~7.5%)の下限付近で推移している。

まずGDPの約7割を占める個人消費は2期連続の5%台となり、昨年の7%成長と比べると減速している。4-6月期の海外出稼ぎ労働者からの送金額(ペソベース)は前年同期比9.2%増と、ペソ安を追い風に高めの伸びを維持しているものの、雇用環境は直近2四半期で就業者数が減少したことから家計の消費意欲が弱まったものと考えられる(図表4)。また政府消費と公共建設投資は政府の予算執行の改善によって1-3月期から持ち直したが、前年同期の水準と比べると見劣する水準である。
(図表3)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)/(図表4)フィリピン 海外労働者送金額
今後については選挙特需の反動減の影響が一巡するため、成長率は再び上昇するだろう。まず政府支出は、ドゥテルテ政権が掲げるインフラ投資計画「ビルド・ビルド・ビルド」の着手4に加え、教育や農業、治安分野などでも予算額を倍増させており、景気の牽引役となるだろう。また足元で好調の輸出も世界経済の復調によって主力の電子部品を中心に増加基調を維持すると見込まれる。こうした政府部門と外需の回復が続くなか、企業の投資意欲や雇用情勢への波及効果が生じて民間部門は再び勢いづくものと予想される。年後半の成長率は6%台後半へと上昇するだろう。

もっとも、こうした財政主導の回復基調を続けるには財源調達のための税制改革が必須条件となる。インフラや教育、医療などへの巨額投資は年間1兆ペソ以上(財務省試算)の追加資金が必要とされる。税制改革第一弾の法案は17年5月に下院を通過しており、今後は上院が承認、大統領が署名することによって18年から実施される公算だ。下院を通過した税制改革第1弾の法案を見ると、個人所得税を減税する一方で付加価値税の課税ベースを拡大、物品税を増税する内容となっており、増収効果は1年目で1,338億ペソに止まる。債務が増えると、国の信用格付けにも悪影響を及ぼすだけに法人税を含む税制改革第2弾も急いで取り掛かる必要があるだろう。

またIS系の武装勢力との戦いは長期化している。国内の治安情勢の悪化は、資本流出や通貨安によるインフレ圧力の高まり、観光業への打撃にも繋がりかねず、留意すべきリスクと言える。

ドゥテルテ政権が二年目に入って政策は進み始めている。政府が思い描くように経済を投資主導の成長軌道に乗せることができるか、フィリピン政治・経済の動向から目が離せない。
 
 
1 8月17日、国家統計調整委員会(NSCB)が国内総生産(GDP)統計を公表。前期比(季節調整値)は1.7%増と前期の同1.3%増から上昇した。
2 Bloomberg調査
3 フィリピンは海外の出稼ぎ労働者が多い。国内への仕送りは海外からの純所得として計上され、消費に大きな影響を及ぼす。
4 ドゥテルテ政権の経済政策の主軸である「ビルド・ビルド・ビルド」では、首都圏を横断する南北通金銭、首都圏の地下鉄、ミンダナオ地方の鉄道などの大型案件を含み、インフレ関連支出を17年の5.3%から22年までに同7.4%へ拡大することを掲げている。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

(2017年08月17日「経済・金融フラッシュ」)

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