2017年08月15日

中国フィンテック、平安保険の戦略-ネット金融経済圏の形成、集まる4億人の金融ビッグデータ

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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1-2016年、ネット金融(フィンテック)が黒転、純利益のおよそ1割に

中国の保険業界において、フィンテック分野をリードしている中国平安保険グループ。2025年までの目標として「IT×金融×生活サービスの融合」を戦略に掲げ、世界的な総合金融機関でありながら、ネットを通じてユーザーの生活に密着したサービスを提供する最大手のサプライヤーを目指している1。平安保険が保険、銀行、投資(証券など)の3事業に、「ネット金融(フィンテック)」を4本目の事業として正式に加えて1年が経過するが、その効果はどうであろうか。
 
まず、2016年の業績を振り返ってみると、総資産は5兆5,769億元(前年比17.0%増、およそ94兆円)、収入保険料(生損保合計)は、前年比21.7%増の4,696億元(約8兆円)で、生保・損保とも業界第2位を維持している2。収入保険料を含むグループ全体の売り上げは、14.9%増の7,125億元で、営業利益は0.5%増の934億元と、2016年も増収増益となった。

次に、純利益(親会社株主に帰属する純利益)の構成から、どの事業が収益に大きく貢献したかをみてみる(図表1)。2016年の純利益は、前年比15.1%増の624億元(約1兆円)で、そのうち、保険事業が55.5%(生保:35.9%、損保:19.6%)を稼ぎ、収益の最大の柱は生命保険事業であることに変わりはない。新たな事業であるネット金融は、2016年に黒字に転じ、純利益の8.4%を占めた3
図表1 純利益からみる各事業の貢献度(2016年)
 
1 拙著「中国Fintech平安保険の野望」保険・年金フォーカス 中国保険市場の最新動向(21)2016年8月16日
2 1元=16.8円で計算。
3 2016年のネット金融事業の黒字化は、平安保険グループ傘下の企業が保有する株式を陸金所に譲渡する上で発生した収益94.97億元を会計規則上、計上したもので、事業そのものによる黒字化ははたされていない。
 

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2-ネット金融経済圏の形成-集まる4億人の金融ビッグデータ

では、平安保険のネット金融にはどのようなものがあるのか。

中国のフィンテックを代表するアリババやテンセントなどのIT企業は、ネットショッピングやシェアリングビジネス、ネットゲームなど、より人々の‘日常生活’に密着したアプリやサービスを開発している。また、他社が開発した新たなサービスを取り込むことで、スマホ決済を中心としたモバイル経済圏を形成している。

一方、平安保険がネット金融で提供する「生活サービス」は、金融機関として、その機能をより‘金融’に絞っている。例えば、保険料などの支払いが可能なネット決済の「壱銭包」、ネットを介して資金の貸し借りを仲介するP2Pや金融商品の購入が可能な「陸金所」、資産運用や財テクのアドバイスがもらえる「平安天下通」といった、資金の貸し借りや、金融商品による資産形成などに重点が置かれたサービスである(図表2)。一方、医師とオンラインで健康相談ができたり、薬の手配ができる「平安好医生」、住宅の売買などの「平安好房」など、前掲の金融商品による財テクとは直接関係ないものの、健康情報を通じた医療保険の加入や見直し、個人の不動産の売買といった資産形成につながるサービスもある。

平安保険グループの保険商品など金融商品を実際に契約したり、銀行などを利用している個人顧客は1億3,107万人、ネット利用を含め同社のサービスを利用する顧客総数は3億8,000万人に達している(サービス利用の重複分を除く)。これら個人の属性に関する情報、決済、信用情報、投資、保有する金融資産、受診などの健康情報、保有している不動産などおよそ4億人の金融に関するビッグデータが平安保険に集まっているのだ。
図表2 平安保険が形成する金融経済圏(主なもの)
特に、陸金所のP2Pについては、平安保険の高い信用を背景に、少額貸付の個人顧客に加えて、それよりも大きな金額を中小法人にも融資している点に特徴がある。2016年末時点で、個人向けの取引額は、前年の2.4倍にあたる1兆5,352億元(約26兆円)、中小法人向けは前年の5倍にあたる4兆2,000億元(約71兆円)と大幅に増加した。2016年末時点の個人顧客向けの融資残高は前年のおよそ2倍にあたる4,384億元で、これは、同年のP2P市場全体の残高(8,162億元)のおよそ半分にあたる規模だ。このP2Pによる平安保険の収入は、融資が成立した際の仲介手数料である。

2016年末の陸金所の登録ユーザー数の累計は2,838万人、そのうちアクティブユーザー数が740万人と、ユーザー数、上掲の取引量とも中国最大規模である。平安保険、陸金所には、借り手の信用状況、身元証明、資金希望額や使途、貸し手の資金状況など、個人のみならず、中小法人の動向を中心とした金融に関する多くのアクティブな情報がどの金融機関よりも集まることになる。

中国のP2Pは、既存の金融機関で個人の小口の借り入が難しく、更には若年層を中心とした旺盛な消費を背景に利用が進んでいる。また、平均の貸付利率がおよそ10%と、銀行の1年定期の金利1.5%と比べると遥かに高く、平均の借入期間が10ヶ月未満と、リスクは高いものの短期で高利回りの運用手段として、一気に広がった4。同時に、詐欺や不正といった問題も多発しており、2016年以降は当局の規制によって業界の再編が進みつつある。2016年の市場は前年の2倍の規模に成長するなど、その勢いは更に増しつつある。
 
4 2016年中国網絡借貸行業年報
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

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