2017年08月14日

データ分析結果が示す「大都市・東京都の出生率支配要因」とは-少子化対策・印象論合戦に終止符をうつために-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

文字サイズ

3-2|出生率にマイナスの影響があるデータ(図表4)考察
 
次に図表4で示した、出生率に負の関係があるデータに関して、結果をわかりやすく言い換えてみたい。一見、項目が多く見えるが示していることはそう多くはない。
【図表6-1】出生率に負の関係のある「自然・生物学・世帯」4傾向
マイナスの関係を示す上記図表項目群からは、1人世帯向けの物件が多い賃貸物件エリア、の姿がイメージされる。

ファミリー向け物件が多いエリアよりも当然、エリア内の世帯数が多くなるため世帯数が多くなる。賃貸物件割合が高いと出生率が低くなるのは、図表5-1の持ち家率が高いほど出生率が高くなるデータと同じことを指している。持ち家比率が女性の生涯未婚率と関係していることから、やはり、そのエリアが持ち家を持ちやすいエリアかどうかが女性の結婚とその後の出産に関わっていることが指摘できるだろう。

持ち家が持ちにくいエリア(不動産価格が高すぎる等)はそのエリアで家庭を持ち子どもを持つ(より広い住宅面積を必要とすること)ことを必然的に難しくするので、当然ともいえる結果にみえる。

過密化はそのエリアの不動産価格を上昇させることから、十分な広さを持った住宅を持つ(出生率にプラスの影響項目)ことを難しくし、出生率を引き下げる結果になる、と同じグループの項目から考えることも出来るだろう。
【図表6-2】出生率に負の関係のある「財政・経済」2傾向
サービス産業、すなわち3次産業で働く人が多いエリアほど出生率が下がる結果は、上で示した2次産業で働く人が多いエリアで出生率が高くなる結果と非常に対照的である。この結果をもとに、2次産業と3次産業の家族形成に及ぼす影響を比較する必要性が見えてくるように思える。

本分析によって、少子化対策においては、単に働き方がどうであるか、といった議論だけではなく、何か出生率に比較優位性を持っている要素がないのかを2次産業と3次産業の比較において明確にすることに意味がある可能性が示唆されているようである。
 
上記図表において一般的な印象論と最も異なるのが「お金持ちエリアほど出生率は低くなる」であろう。しかし、この結果は、図表2の完全失業率と出生率の間に関係性が見られなかった結果とあわせて考えてみた場合も矛盾がなく、お金持ちになることが出生率に直結していないことをデータが示唆しているようである。

お金持ちエリアほど出生率が下がっていく、というデータは、少子化対策において政策が迷走しないためにも、重要なデータであるといってよいだろう。
 
ただし、この結果について「お金持ちほど年齢が高いだろうから産まない(出生率が下がる)のは当然ではないか。お金ではなくその背景にある年齢の影響ではないのか。」といった議論は当然あるだろう。
 
これについて62自治体の平均課税所得金額と平均年齢の相関分析を行ってみると、少なくとも東京都においては相関係数が-0.46(下図参照)となり、「東京都では平均年齢が若いエリアほど、お金持ちエリア」という結果となるため、「お金持ちエリアほどエリア年齢が高いだろうから、それで出生率が低いのだ」という議論は否定される。
 
やはり、東京都全体で見ると「お金持ちエリアほど出生率が低くなる」のである(図表6-3)。
【図表6-3】左:東京都62自治体の平均課税所得金額と合計特殊出生率の関係(縦:百万、横:人)、右:東京都62自治体の平均課税所得金額と平均年齢の関係(縦:百万、横:歳)
【図表6-4】出生率に負の関係をもつ「医療・福祉・介護条件」3傾向
上記図表の1つ目、待機児童問題は長年メディア等でも取り上げられた問題であり、待機児童問題の解消にむけた取組みが出生率の向上につながるだろうことが示唆されている。

ただし、この結果は東京都以外の地方エリアでは、別の結果(出生率と待機児童問題はあまり関係がない)という分析結果となるエリアも見られているので、あくまでも「東京都ではそういう傾向である」ということを忘れてはならない。国による2016年4月1日時点での待機児童集計数値6では、青森県、山形県、新潟県など実に9つの県が0であり、待機児童問題が見られていないことを付記しておきたい。つまり、本分析のようなエリアごと要因分析の大切さが、こういったところに現れる。
 
あるエリアでの少子化問題解決策が別のエリアでは全く意味がなく、一律の少子化政策がかえって混乱を招く原因ともなりかねないことに十分に留意したい。
 
上記図表の医療サービスが充実するほど出生率が低くなる、というのは非常に違和感のある結果であろう。

しかしながら、医療サービスといってもその内容は多岐にわたり、時代は高齢化社会の逆ピラミッド構造(図表1)であることを考えると、需要と供給の関係で、むしろ出生率に寄与する医療サービス構造とはエリアの医療サービスが逆の高齢者向け医療サービス提供重視傾向になっているのではないか、という裏の要因があるという見方も出来なくもない。しかし、高齢者人口の比率は出生率に弱い影響しかもっていないことには留意したい(図表3)。次に、医療機関は利便性のよい立地に建設させることが多く、不動産価格の問題が発生するだろうとも考えられる。医療機関が多数あるエリアほど不動産価格が高く、上で示した出生率に正の関係のある(図表4、図表5-1)「1住宅あたりの延べ面積」が小さくなるのではないだろうか(裏の支配要因の存在)。

高校や幼稚園が多いエリア、も同じく義務教育とは異なる教育機関のために、利便性の高いエリアに立地する傾向から、医療サービス提供エリアと同じ「不動産価格問題」を持っているかもしれない、とも考えられるであろう。
 
6 厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ(平成28 年4月1日)
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【データ分析結果が示す「大都市・東京都の出生率支配要因」とは-少子化対策・印象論合戦に終止符をうつために-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

データ分析結果が示す「大都市・東京都の出生率支配要因」とは-少子化対策・印象論合戦に終止符をうつために-のレポート Topへ