2017年08月14日

データ分析結果が示す「大都市・東京都の出生率支配要因」とは-少子化対策・印象論合戦に終止符をうつために-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

文字サイズ

3東京都の出生率の増減には「関係がある」(影響している)との分析結果が現れたデータ
 
ここからはいよいよ、東京都の出生率の「支配要因」となる可能性が最新時点では高い、と思われるデータとなる。相関分析において出生率との間に「関係性がある」(関係性が特に強いデータを除く)との結果が示されたデータは51データあり、全項目の32%を占めた(図表4)。

出生率の増減に有効な施策を議論するに際に参考にすることが徒労にはならないだろうデータ集であるといってもよいだろう。
【図表4】出生率と関係があるデータ一覧(正の関係12・負の関係39)
3-1|出生率にプラスの影響があるデータ(図表4上段)の考察
 
まず、東京都において出生率にプラスの関係をもつデータとしては、一般論からみると少々驚きの結果が出ていると思われる方も多いのではないだろうか。
 
最新時点において出生率に正の関係となったデータ(図表4前段)をわかりやすく言い換えると図表5の一連の結果となる。
【図表5-1】出生率に正の関係のある「自然・生物学・世帯」5傾向
上記図表は因果関係を語るものではない。ただ、最初の3つの核家族化、離婚、10代の出産については、特に日本においてまだまだネガティブな見方があるものがそろっているようにみえる。
 
データが示している「出生率と正の関係の自然・生物学・世帯における5傾向」は、ネガティブな伝統的価値観を一旦横において考えるならば、すべて「カップルの自由自在な形成力向上」を促している傾向ともみてとれる。カップリングが行われる年齢・カップルの解消・カップルだけの生活・カップルが過ごす居場所の広さ・カップルのもつ家の自己所有の状況を見ることが出来るこれらの5項目はすべて「カップルの自由自在な形成力向上」の観点から見るとポジティブな要素ぞろいとも見られる。

伝統的な価値観とは別に、すべてを柔軟に「2人で」設計しやすくすることをデータは推奨しているのかもしれない。

尚、2016年のレポートにて、持ち家を持てるエリアほど「女性の生涯未婚率が低くなる」ことについて47都道府県分析(日本全体の分析)で明らかにしたので、あわせて参照されたい(生涯未婚率と「持ち家」の関係性-少子化社会データ再考:「家」がもたらす意外な効果-:2016年07月11日「研究員の眼」)。
【図表5-2】出生率に正の関係のある「財政・経済」3傾向
これも因果関係は上記図表だけからはわからない。

東京には地方から多くの若者が流入しているが、やはりエリアの出生率は地元で生まれて地元で働いている「地元民」が牽引しているかのような姿をデータは示している。逆に言えば、地方から流入して働く人々が多いエリアほど、出生率は低くなっているということでもある。

興味深いのは、非ベッドタウン指標と出生率には相関がなかったことから、東京都においては仕事(学業)と家庭が近いかどうかよりも、そもそも育った地元で仕事をしているかどうかが出生率に関係をもっていることがわかる。
 
近年「マイルドヤンキー」5といった言葉が生まれるとともに、「地元愛」を育む地方創生の動きも活発化しているが、実は大都市東京も、東京都という地域を地方と見るならば、「地元愛効果」対象の例外ではないようなデータである。別の県の分析でも、人口の流出入が激しいエリアは出生率が低い傾向がはっきりと現れていることもあわせると東京都もその例外ではないようである。
 
また、華やかなイメージのある3次産業に比べて若い人が地味に感じやすい2次産業で働く人が多いエリアほど出生率が高くなることも興味深い。後述する出生率にマイナスの関係性を持つ3次産業との比較において「2次産業の優位性」を改めて検討するべきともいえるかもしれない。

3番目の公的借金との傾向は決していい条件ではない。自治体の負債が大きく財政としては不健全である。出生率が高いエリアが不健全財政となるような実体を変える議論が求められている、という見方も必要であることを示唆しているかにもみえる。
【図表5-3】出生率に正の関係のある「医療・福祉・介護条件」1傾向
上記図表はいたってシンプルな結果であるが、エリアの15歳未満人口に占める保育園児の割合が高く、幼稚園児童と保育園児童を足したエリアの児童数のうち保育園児童の割合が上がるほど、エリア出生率が高くなる傾向をデータは示している。共働きなど保護者が有業である割合が高いエリアほど、出生率が高くなっている。

ちなみに、この結果は東京都だけの結果ではなく、47都道府県分析(日本全体)でも同様の結果が出ている「専業母と兼業母の出生力」-少子化・女性活躍データ考察-女性労働力率M字カーブ解消はなぜ必要なのか:2017年06月26日公開「研究員の眼」参照)。
 
 
5 2014年に博報堂 ブランドデザイン 若者研究所の原田曜平氏が発表した現代の若者の一部を指す概念であり、地元指向が強いなど特徴がある地元愛をもつ若者たちを指している。この定義についてはネガティブな捉え方としての批判も少なくないが、その一方で、より軽い意味合いで「若者の地元愛の台頭」を印象づける言葉としても用いられ、ネット等で拡散されている。全国紙でも2014年以降も2015年、2016年と記事に登場している言葉となっている。
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【データ分析結果が示す「大都市・東京都の出生率支配要因」とは-少子化対策・印象論合戦に終止符をうつために-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

データ分析結果が示す「大都市・東京都の出生率支配要因」とは-少子化対策・印象論合戦に終止符をうつために-のレポート Topへ