2017年08月14日

データ分析結果が示す「大都市・東京都の出生率支配要因」とは-少子化対策・印象論合戦に終止符をうつために-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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2東京都の出生率の増減との間に「ほぼ関係がない」「関係が弱い」との分析結果が現れたデータ
 
本分析では(A)出生率との関係性について、国の公開している元データ項目、ならびに元データ項目の組み合わせから算出した指標データ、あわせて(B)159項目の分析を行った4
 
相関分析では出生率ともう一つのデータの間の関係性の強さを算出された相関係数から、およそ以下の4段階でジャッジすることが可能である。
相関分析での4段階ジャッジ
このうち、(A)出生率とほぼ関係がみられない、またはみられても弱い関係のもの(I・II)は、東京都における現在の状況を示すデータから「出生率の支配要因」を明らかにする本分析の目的から考えると検討から外してもよいデータであるとみてよい。以下に一覧として示すにとどめることとする(図表3)。
 
但し、一般的な「印象論」からすると「関係がみられない、弱い」ことが驚きを呼ぶと思われる結果については解説を付記しておきたい。
 
ちなみに全分析データ中、出生率に関係性がほぼないデータは21データ、関係はあるものの弱い関係性しか認められなかったデータは81データであわせて102データとなり、全体の分析項目の66%を占めた。 出生率と「関係性がない、弱い要因」が多数抽出されたことによって、今後の東京都の少子化対策を考える上で政策的な優先順位を考える、もしくは考慮の対象からはずす議論において多少の議論の効率化が行えるかもしれない。
【図表3】出生率との関係がみられない、弱いデータ一覧 3-1出生率と関係性がほぼない21グループ
【図表3】出生率との関係がみられない、弱いデータ一覧 3-2出生率と関係性があるものの弱い84(正の関係12・負の関係72)グループ
以上のデータに関しては、少なくとも最新時点データ間で見るならば、東京都の出生率と何らかの関係性があるということを主張することが統計的には難しいデータ、と考えることが出来る。ただし、長期の時系列で見るならば関係性がより強く認められるものはあるかもしれないことは指摘しておきたい。

図表3のうち、一般的な印象論と食い違いやすいと思われるものについて解説をしておきたい。
 
出生率と関係がほぼないという分析結果が出たデータの中に「年齢階級別出生率35~39歳女性の出生率」が現れた。

ここで、女性の年齢と出生率の間の因果関係は年齢が出生率に影響する、という方向の因果関係であることは生物学的に間違いがない。晩産化の進行とともに「母子手帳」において高齢出産とされる35歳以上の女性の出生率に期待が寄せられる場面はメディア等でも少なくはない。しかしながら、データ分析結果からは少なくとも東京都においては30代後半女性の出生率は、現状では東京都の全体の出生率の増減に関係をもっていないことがわかった。

また、関係はあるものの関係性が弱いデータの中に、40~44歳女性の出生率と45~49歳女性の出生率が現れたが、どちらも「出生率と負の関係性がある」データとなっている。

つまり40代女性の出生率が高いエリアほど低出生率となる状況である、ということである。

不妊治療への投資が社会的に叫ばれてきた一方で、このデータが示しているのは、不妊治療への社会投資は、現時点において出産奨励策としては意義はあるものの、出生率の上昇を期待する少子化対策の観点から見るならば目的外投資となるだろう、ということとなる。
 
また、失業率と出生率との間には関係性が見られない・離婚が発生している割合が15歳以上人口比で高いエリアの方がやや出生率が高くなる、といった結果も一般的な印象論とは異なるといえるだろう。ちなみに出生率が2006年以降2.0で推移しているフランスの失業率は9%から10%で推移しており、日本の常に2倍から現在では3倍近くの失業率である(IMF統計)。このことを考えると、失業率で出生率を語りにくいだろうことは直感的にも納得感があるだろう。
 
仕事・学業等のための移動状況(自治体間を超えた人口移動度合い)を示唆する非ベッドタウン指標も出生率には特に影響を及ぼさないことがわかった。東京都においてはそのエリアがベッドタウンかどうかは出生率に影響しないようである。

4 総務省統計局が全国の各「市区町村のすがた」(2017年6月公開)として公開している統計データベースの項目はすべて網羅し、さらにその項目の出生率への影響を知るための指標作成に不足するデータを国勢調査、東京都による統計から抽出した。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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