2017年08月10日

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(8月号)~輸出はレバラン休暇の影響で下振れ

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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17年6月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て通関ベース)は前年同月比6.6%増と、前月の同17.3%増から低下した(図表1)。6月の輸出はイスラム教のレバラン(断食明け大祭)前後の長期休暇に伴う営業日数の少なさを背景に下振れたが、基調としては海外経済の回復による半導体や一次産品の需要拡大、そして輸出単価も上昇するなど増加傾向が続いている。

先行きの輸出はスマートフォンの新製品発売を追い風に高めの伸びを続けるだろうが、足元では中国の輸入動向が鈍化しつつあるほか、ベース効果も剥落してきており、年末にかけて輸出の伸び率は徐々に落ち着いたものになると予想する。

なお、ASEAN5カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、6月は東南アジア向けを中心に鈍化した。輸出の基調は米国向けが伸び悩む一方で、欧州向けと東アジア向け、東南アジア向けが勢いづいている(図表2)。
(図表1)ASEAN6カ国の輸出額/(図表2)ASEAN5ヵ国仕向け地別の輸出動向
タイの17年6月の輸出額は前年同月比11.8%増と、前月の同13.2%増から小幅に低下したものの、2ヵ月連の二桁増となった。輸出の伸びは上下に振れながらも、海外経済の回復による電子製品やゴム製品、石油製品の需要の増加に輸出単価の上昇が加わり、回復傾向が鮮明になっている。一方、輸入額は前年同月比13.5%増と、前月の同18.2%増から低下した。結果、貿易収支は19.2億ドルの黒字となり、前月から9.7億ドル黒字が増加した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同11.7%増(前月:同12.8%増)と高水準を維持した(図表4)。工業製品の内訳を見ると、自動車・部品(同2.0%増)が伸び悩む一方、航空機・船舶・機関車(同272.3%増)が3カ月連続の三桁増を記録したほか、電子機器(同21.1%増)、家電製品(同7.2%増)、機械・装置(同9.6%増)、石油化学製品(同29.5%増)が好調に推移した。また農産品・加工品も同10.1%増(前月:同11.9%増)となり、加工食品(同10.2%増)やゴム(同27.2%増)、ゴム製品(18.5%増)を中心に好調に推移している。鉱業・燃料は同23.2%増(前月:同30.2%増)と、石油製品を中心に二桁増が続いている。

 

(図表3)タイの貿易収支/(図表4)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの17年6月の輸出額は前年同月比4.8%増と、前月の同23.9%増から大きく低下して一桁台の伸びとなった。輸出額は海外経済の回復を背景に増加傾向にあるが、6月はレバラン前後の長期休暇を背景に営業日数が少なかったことから下振れた。一方、輸入額も前年同月比1.1%減と、前月の同22.0%増から大きく低下した。結果、貿易収支は23.1億ドルの黒字と、前月から10.3億ドル黒字が拡大した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同8.6%増(前月:同21.0%増)と低下したものの、主力の電気・電子製品(同9.7%増)を中心に堅調な伸びを維持した(図表6)。また動植物性油脂も同9.1%増(前月:同18.3%増)と低下したものの、パーム油(同11.1%増)を中心に堅調を維持している。また鉱物性燃料は同12.0%増(前月:同50.6%増)と鈍化した。天然ガス(同88.2%増)が大幅に増加した一方、原油(同5.6%減)と石油製品(同19.6%減)がそれぞれマイナスに転じた。このほか、製造品(同5.6%減)や化学製品(同0.5%減)、食品(同8.8%増)などが前月からマイナスに転じた。
(図表5)マレーシア貿易収支/(図表6)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの17年6月の輸出額は前年同月比11.8%減と、前月の同24.6%増から大幅に低下し、9ヵ月ぶりのマイナスとなった。6月の輸出はレバラン前後の長期休暇を背景に営業日数が少なかったことから下振れたものの、基調としては中国をはじめ海外経済の回復を背景に増加傾向は続いているものと考えられる。一方、輸入額も前年同月比17.2%減と、前月の同23.6%増から低下した。結果、貿易収支は16.3億ドルの黒字と、前月から10.5億ドル黒字が拡大した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、まず石油ガスが同8.7%増と、前月の同35.3%増から低下したものの、堅調を維持した(図表8)。非石油ガスについては、動植物性油脂(同21.2%増)が好調を維持したものの、輸出全体の7割を占める製造品が同16.6%減(前月:同18.6%増)となり、機械類(同35.6%減)や自動車(同23.4%減)、ゴム製品(同3.5%減)を中心にマイナスに転じた。また農産品は同1.7%増(前月:同42.4%増)、鉱業品は同3.4%増(前月:同59.1%増)と、それぞれ大幅に低下した。
(図表7)インドネシアの貿易収支/(図表8)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
ベトナムの17年6月の輸出額は前年同月比20.9%増と、前月の同24.7%増から低下したものの、5ヵ月連続の二桁増を記録した。輸出の伸び率は昨年後半から主力の電気・電子製品を中心に勢いを取り戻しており、足元でも政府目標(17年は+6~7%)を上回る伸びが続いている。一方、輸入額も前年同月比22.2%増(前月:同26.9%増)と低下した結果、貿易収支は2.9億ドルの赤字と、前月から3.0億ドル赤字が縮小した(図表9)。

輸出を品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が同21.9%増(前月:同39.7%増)と低下したものの、3カ月連続の二桁増を記録した(図表10)。電話・部品の好調はサムスン電子の新型スマホの発売開始(米国は4月、日本は6月)の影響と見られる。またコンピュータ・電子部品も同33.9%増(前月:同49.6%増)と高水準が続き、13カ月連続の二桁増となった。アパレル関連では織物・衣類が同6.7%増(前月:同8.0%増)、履物が同13.7%増(前月:同10.7%増)となり、総じて堅調な伸びを維持している。農産品ではコーヒー(同5.6%減)が落ち込む一方、好天に恵まれてコメ(同59.3%増)や野菜(同56.8%増)、ゴム(同74.0%増)などが好調である。 輸出を資本別に見ると、まず地場企業が同21.0%増(前月:同11.5%増)と上昇した。全体の7割を占める外資系企業は同20.8%増(前月:同30.6%増)と低下したものの、高水準を維持した。
(図表9)ベトナムの貿易収支/(図表10)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

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