2017年08月08日

東京Aクラスビルの成約賃料が再上昇。売り時判断の増加で不動産売買は拡大。~不動産クォータリー・レビュー2017年第2四半期~

竹内 一雅

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1.経済動向

景気の回復が続いている。内閣府は2017年6月の月例経済報告で景気の基調判断を「緩やかな回復基調が続いている」へと6ヶ月ぶりに引き上げた。景気の回復は55ヶ月に達しバブル景気を上回る戦後3番目の長さにある。景気回復は景気動向指数(CI一致指数)の上昇基調からも確認できる(図表-1)。

企業業績は1-3月まで2四半期連続で経常利益が過去最高を更新するなど回復が顕著で1、消費も雇用環境の改善や株式市場の好調などから持ち直しの方向にある(図表-2、3)。ニッセイ基礎研究所では、企業部門の主導により2017年度の実質GDP成長率は1.3%と予測している(図表-4)。
図表-1 景気動向指数(CI、2010=100)/図表-2 法人企業業績(前年比変化率)
図表-3 消費総合指数/図表-4 実質GDP成長率見通し
 
1 2017年4-6月期も企業業績は好調に推移している。日本経済新聞(2017年8月1日)によると上場企業の7割で増益となり(純利益は前年比63%増)、特に製造業の純利益は前年比82%増(非製造業では38%増)となった。
 

2.人手不足の深刻化と人口減少

2.人手不足の深刻化と人口減少

労働力調査によると就業者数、雇用者数ともに2012年後半から力強い増加が続いている(図表-5)。完全失業者数は85ヶ月連続で減少し、6月の完全失業率は2.8%(前月比▲0.3ポイント低下)へ、有効求人倍率は1.51倍2(前月比+0.02ポイント上昇)へとさらに改善した(図表-6)。

人手不足は多くの業種に波及しており、日本商工会議所の調査によると、人手が「不足している」と回答した企業は全体の60.6%に達し、特に宿泊・飲食業(不足との回答が83.8%)、運輸業(同74.1%)、介護・看護(同70.0%)、建設業(同67.7%)などで深刻な問題となっている3

建設業での建設技能労働者の人手不足は2014年頃と比べると若干緩和したが、建設工事原価は再び上昇しはじめている(図表-7、8)。これは、建設業では積極的な賃金引上げが人手不足解消に効果があったが、結果として人件費などのコストが上昇したためといわれている(図表-9)。

人手不足の背景に、日本の人口減少と少子化がある。国内では日本人人口の減少幅が拡大しはじめた(2016年は▲30万人の減少)一方、外国人の増加が顕著となり(同+14万人の増加)、2016年には日本人人口の減少数の約半分を補う状況になっている(図表-10)。
図表-5 国内就業者数・雇用者数(季節調整値)/図表-6 完全失業率と有効求人倍率
図表-7 建設技能労働者過不足率/図表-8 建設工事原価指数(事務所、2005年=100)
図表-9 大手企業2017年春季労使交渉結果(前年比)/図表-10 国内の日本人・外国人別人口増加数(各年10/1時点、前年比)
 
2 労働力調査によると、正社員の有効求人倍率が1.01倍と、集計開始以来、初めて1倍を上回った。
3 日本商工会議所「「人手不足等への対応に関する調査」集計結果」(2017.7.3)
 

3.住宅着工と住宅販売市場 

3.住宅着工と住宅販売市場

全国の住宅着工戸数は年率換算で100万戸の高い水準で推移している。近年、貸家が全体の着工戸数を下支えしているが4、4-6月はそれに加えて分譲住宅の増加がみられた(図表-11)。

首都圏分譲マンションの新規発売戸数は近年で最も少ない状況にある(図表-12)。マンション価格の上昇が続き、契約率は好不調の目安である70%を下回ることが多くなっている(図表-13)。首都圏マンションの契約戸数を価格別にみると、2014年以降、5千万円未満では契約戸数が大幅に減少し、8千万円以上で増加傾向が見られる(図表-14)。なお、5千万円未満のマンションは建築コストの上昇から発売戸数自体が顕著に減少している。

昨年、相続税対策としての「タワーマンション節税」が有名になったように、2013年度の税制改正(2015年1/1以降の相続に適用)による相続税の基礎控除額の引き下げ等は、高額マンションなどの取得を促進してきた。2016年夏以降、税負担の不均衡の是正をめざした取締まり強化や株式市場の変動等に対応して、高額マンションの契約率は比較的大きな変動が続いている5(図表-15)。
図表-11 新設住宅着工戸数(全国)(季節調整済み年率換算値)/図表-12 首都圏分譲マンション新規発売戸数
図表-13 首都圏分譲マンション価格と初月契約率/図表-14 首都圏マンション価格別契約戸数(各年4-6月)
図表-15 首都圏マンション価格別契約率
 
4 近年の貸家着工戸数の急増は、低金利下でのアパートローンの急増と相続税対策、市街化調整地域での開発許可制度の規制緩和等の影響といわれている。賃貸不動産向け融資の増加は金融庁日銀のレポートでリスクが指摘されてきた。
5 相続税対策等が進んだ2016年4-6月期は7千万円以上の高額マンションで契約率が高かったが、タワーマンション節税への取締り強化が報道される中で高額マンションの契約率は大きく低下した(図表-15①)。2016年12月8日に公表された自民党・公明党「平成29年度税制改正大綱」ではタワーマンションに関する税負担の不均衡の是正は、固定資産税等の税額の補正率等として導入され、相続税・贈与税評価額への適用はなかった。11月からの株価の好調や、都心での優良高額物件の供給などから、年初は2億円以上の物件の契約率が大幅に上昇したが、4-6月期には再び高額物件(7千万円以上)で契約率の回復が見られた(図表-15②、③)。マンションの契約状況には景気や所得、株価、為替、物件の立地や品質、価格、コストなど多くの要因が影響するが、最近は相対的に相続税の影響が強い状況にあったと思われる。
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竹内 一雅

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