2017年08月07日

IAISが拡大フィールドテストのためのICS(保険資本基準)Version1.0を公表-保険負債評価の割引率について-

中村 亮一

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2|拡大フィールドテストの意味合い
今回の拡大フィールドテストのためのICS Version1.0に関する公表文書の目的については、様々な要素の背景と根拠について説明することであるとして、拡大フィールドテストの意味合いについては、以下の通りとしている。

・フィールドテストの演習は、全ての潜在的なIAIGや他の関心のあるグループ(ボランティアグループ)にも及ぶ。2017年のフィールドテストには、いくつかの新しいボランティアグループが参加している。

・演習には、IAISがICS Version2.0で解決しようとしている技術的問題及び契約上の問題に関する拡大されたデータ要求が含まれている。 提供されるオプションを含む拡大フィールドテストのためのICS Version1.0の設計と較正は、必ずしもICS Version2.0に対して行われる意思決定を示すものではない。拡大フィールドテストのためにICS Version1.0で検討されているオプションは、必ずしもICS Version2.0で検討される唯一のオプションではない。 むしろ、2017年のフィールドテストは、IAISがフィールドテストで指定されたオプションだけから選択するという制限を設けることなく、将来の方向を啓発するために十分なデータを収集するように設計されている。

3|拡大フィールドテストのためのICS Version1.0の特徴
拡大フィールドテストのためのICS Version1.0においては、2016年のフィールドテスト、2016 ICS CDへの回答、ボランティアグループからの貴重なインプットと貢献から学んだ教訓を反映して、評価及び資本要件のためのフィールドテストの選択肢を狭めている。

(1)評価
収集されたデータと2016年のフィールドテスト実施後に行われた分析により、異なるアプローチによる割引の影響に関する知識を向上させることができたため、今回のICS Version1.0においては、市場調整価値アプローチ(MAV)の下での3つ、GAAP調整アプローチ(GAAP Plus)の下での2つ、の合計5つのオプション数に絞り込んでいる。

さらに、2017年のフィールドテストの演習では、MAVとGAAP Plusの両方の評価アプローチで、高品質資産(HQA)アプローチをテストする。これにより、2つの評価アプローチ間の詳細な比較可能性分析ができるようになる、としている。

(2)資本要件
IAISは、2016年のフィールドテストでテストされた2つの選択肢ではなく、罹患/障害リスクの単一のアプローチに絞り込んでいる。金利リスクについては、GAAP Plusの選択肢が明確になっているため、GAAP Plusの設計と合致した金利リスクへのアプローチを適用する、としている。

(3)資本リソース
2017年のフィールドテストでは、フィールドテストと2016年のICS CDからのフィードバックに基づく未解決の問題のさらなる調査が行われる。これにより、様々な設計オプションの結果をより詳細に評価できるようになる、としている。
4|今回の報告書で取り扱われる問題
技術仕様書、テンプレート、アンケート及びイールドカーブスプレッドシートを含むフィールドテストパッケージと比較して、この拡大フィールドテストのためのICS Version1.0は、対象読者として全てのステークホルダーを有している。この目的のために、技術仕様(Technical Specifications)よりもあまり専門的でない方法で問題を記述している。また、ICS構成要素の設計と較正の根拠と、必要に応じて考慮される様々なオプションについて説明している。さらには、2016年のフィールドテストのハイレベルな結果も含まれている。

この文書は、拡大フィールドテストのためのICS Version1.0の開発に焦点を当てて、ICS設定において重要な以下の項目をカバーしている。

・MAVとGAAP Plusの2つの評価アプローチをカバーするICS評価
・ICS資本リソース
・標準方式に基づくICS資本要件
・適用範囲:ICSの計算の周辺
5|今回の報告書で取り扱われない問題(ICSのComFrameへの融合)
この文書は、ICS Version2.0の開発において取り扱われる事項については言及していない。

IAISは、利害関係者が、ICSの実施及び長期的な開発に関連して、特に、(1)ICS Version2.0実施の将来のプロセス、(2)ボランティアグループや監督当局への潜在的に増加するコスト及びベネフィット、について多くの疑問を抱いていることを認識している、としている。

ComFrameはIAIGsの監督の枠組みとして設計されているが、IAIGsの複雑さと国際的な範囲に合わせた量的及び質的監督上の要件から構成されている。ICSは、この包括的なフレームワークの要素の1つであることから、IAISはこのフレームワークにICSを融合する方法を検討する必要がある。

特に、IAISは、IAIGsに対する目標資本要件(Prescribed Capital Requirement:PCR)として開発されているICSが、ComFrameの他の部分、特にリスクとソルベンシーの自己評価(ORSA)を含む統合的リスク管理(ERM)に関係している部分、監督プロセスと報告、でどのように取り扱われるべきか、を検討していくことになる、としている。

なお、ICS Version2.0の策定に向けての課題としては、ComFrameの融合に加えて、(1)評価手法のコンバージェンス、(2)保険負債の割引率のコンバージェンス、(3)内部モデルの検討、(4)適格資本の定義の明確化、等が挙げられている。

(参考)2016 ICS CDのカバーする範囲等
 2016 ICS CDは、先に述べた、(1)評価方法(valuation)、(2)適格資本リソース(qualifying capital resources)、(3)ICS資本要件を決定するための標準手法(standard method for determining the ICS capital requirement)に加えて、(4)グループの範囲(ICS算出の境界線)、(5)税に対する全体論的アプローチ(holistic approach)に対する予備的考察、をカバーしていた。

ただし、以下のような長期的な戦略問題は含まれていなかった。

(a)内部モデル(ICS Version 1.0からICS Version 2.0への発展の中で検討される)
(b)実践におけるICSの比較可能性の評価手法
(c)ICSがIMFのFSAPの一部となる可能性
(d)ICS Version 2.0が消費者や投資家の教育を含むパブリックに対して伝達される方法
(e)既存の監督制度からICSの実施への移行措置
(f)グループベースの連結資本要件として、ローカルな法的単体資本要件とICSの間の相互作用
(g)資本の代替可能性

6|次のステップ
今後のスケジュールは、次ページの図表の通りとなっており、今後もかなりタイトなスケジュールで検討が進められていくことになっている。
ICSとフィールドテストのタイムテーブル

4―今回の ICS Version 1.0の具体的内容-保険負債評価の割引率-

4―今回の ICS Version 1.0の具体的内容-保険負債評価の割引率-

この章では、今回の ICS Version 1.0のうち、保険負債評価に使用する割引率の設定に焦点を絞って、2016 ICS CDとの変更点等について報告する6

1|評価方法(valuation
保険負債の評価については、引き続き、(1)市場調整価値(Market Adjusted Valuation:MAV)、(2)GAAP調整(GAAP7 with Adjustments(GAAP Plus) )、の2つの評価アプローチでのテストが求められている。

両方式の類似性と差異については、前回のレポートで述べた通りである。

3―3|(1)で述べたように、今回のフィールドテストでは、市場調整価値アプローチ(MAV)の下での3つ、GAAP調整アプローチ(GAAP Plus)の下での2つ、の合計5つのオプション数に絞り込んでいる。また、2017年のフィールドテストの演習では、MAVとGAAP Plusの両方の評価アプローチで、以下に述べる高品質資産(HQA)アプローチをテストする。これにより、2つの評価アプローチ間の詳細な比較可能性分析ができるようになり、ICS目的の評価において、より大きなコンバージェンスを生み出すのに役立つと期待されている。
 
6 この章の説明は、あくまでも「拡大フィールドテストのためのICS Version1.0」に基づいているが、さらに詳しい内容については2017 Quantitative Field Testing Packageの中の「Technical Specifications(技術仕様)」等を参照していただきたい。
7 GAAP(Generally Accepted Accounting Principles:一般に(公正妥当と)認められた会計原則)
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中村 亮一

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