2017年07月28日

女性医療の現状(前編)-無理なダイエットは、高齢期にどのような影響をもたらすか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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0――はじめに

日本では、高齢化が進む中で、高齢者への医療のあり方が問われている。非効率なサービスや、財政の逼迫など、保険を含めた医療制度の改革は、喫緊の課題となっている。高齢者を男女別に見ると、年齢が進むに連れて、女性の割合は高くなる。従って、高齢者への医療は、主に、高齢女性への医療と見ることができる。

一方、日本では、晩婚化や晩産化も進んでいる。これらは、結婚、妊娠、出産を軸とした、女性の健康や医療に、密接に関係している。

これまで、女性医療は、産婦人科などとして、医学における確立した専門分野とされてきた。ただし、その内容は、高度なものが多く、医療関係者ではない一般の人が理解することは、必ずしも容易ではない。

このような状況を踏まえて、本稿と次稿の2回に分けて、女性医療の現状と、それを巡る様々な動きを、紹介していくこととしたい。まず、本稿では、前編として、最初に女性のライフサイクルを概観する。そして、その上で、胎児・幼児期から、思春期、性成熟期、妊娠・出産までを俯瞰していく。その際、各期の特徴や、代表的な健康課題・疾病について、述べていくこととする。

次稿では、後編として、更年期、老年期を中心に、女性のQOL (Quality of Life, 生活の質) の問題に焦点を当てる。そこでは、女性に象徴的な、骨粗鬆症やフレイルなどの疾患について、見ていくこととする。また、女性医療サービスの提供についても概観していく。そして、最後に、現在の女性医療の問題点について、私見を述べることとしたい。

なお、あらかじめ述べると、筆者は、医療関係者ではない。これまで、女性医療の知識は乏しかった。そのため、稿の執筆にあたり、基礎的な部分から、諸資料を閲覧することとなった。本稿と次稿が、女性医療に、あまりなじみのない男性を中心に、読者の関心と理解を深める一助となれば幸いである。
 

1――女性医療の重要性の高まり- 女性のライフサイクルの理解

1――女性医療の重要性の高まり- 女性のライフサイクルの理解

1|高齢者への医療は、高齢女性への医療と見ることができる
日本の女性は、世界一の長寿を誇っており、徐々に平均寿命が伸びている。一方、健康寿命も、同様に伸びている。その結果、平均寿命と健康寿命の差である、不健康な期間は、近年あまり変わっていない。2013年時点で、女性は12.4年、男性は9年と、女性の方が、男性よりも長くなっている。女性は、平均的にみて、人生の7分の1の期間を、不健康な期間として過ごすという計算になる。
図表1. 平均寿命と健康寿命の推移
日本の人口を男女別に見ると、51.3%が女性である(2015年時点)。女性は、75歳以上では61.3%、85歳以上では70.1%を占めている。高齢者への医療は、主に、高齢女性への医療と見ることができる。
図表2-1. 日本の人口構成 (全体)  /図表2-2. 日本の人口構成 (年齢別)
2|女性のライフスタイルの多様化により、女性医療の重要性が高まっている
女性医療が重要であると認識されるようになった背景には、人口の高齢化のほかに、女性のライフスタイルの多様化があると言われている。従来から、女性は、女性ホルモンの変動や、月経の周期により、心身の状態が影響を受けるとされてきた。近年は、これらに加えて、就労、結婚、妊娠、出産、育児、親の介護など、日常生活に影響をもたらすイベントが、個人ごとに、様々な時期に発生する(発生しないこともある)。その結果、女性のライフスタイルは、多様化している。こうしたイベントが、女性の心身の状態に、どのような影響を及ぼすかを見るために、女性医療の重要性が高まっている。

(1) 就労の多様化
女性の労働力人口比率を見ると、かつて見られたような、20歳代後半から30歳代にかけての、出産・育児を主因とする離職は減少している。いわゆる「M字カーブ」は徐々に上昇し、凹みが小さくなっている。2016年には、20~50歳代の全ての年齢層で、女性の労働力人口比率は、7割を上回っている。その結果、日常の労働環境の中で、女性就労者の健康・医療を捉える必要性が高まっている。
図表3. 女性の労働力人口比率の推移
次に、就労の内訳を見てみよう。男性の就労は、正規の職員・従業員や、自営業主が中心となっている。これに対して、女性の就労は、パートタイマーの占める割合が大きいなど、多様な形態をとっている。女性は、従業員数で、非正規雇用が、正規雇用を上回っている。また、女性は、就労中に、昇進だけではなく、正規の職員等への職制変更などの変化を経験する可能性が高いと見られる。女性医療においては、こうした就労の形態の多様性も、踏まえておくべきポイントとなる。
図表4. 労働力人口の就労形態別内訳 (2016年平均)
(2) 晩婚化・晩産化
婚姻の様子を、見ていこう。初婚年齢は、男女とも上昇している。女性の平均初婚年齢は、2015年に29.4歳となっている。未婚率も、各年齢層で上昇している。例えば、30-34歳は、34.6%となっている。男性に比べて、女性の平均初婚年齢や未婚率は低いものの、一貫した上昇傾向を示している。
図表5-1. 平均初婚年齢と未婚率 [女性]/図表5-2. 平均初婚年齢と未婚率 [男性]
続いて、出産の動向を概観する。合計特殊出生率1は2005年に1.26の最低値をつけた後、上昇している。しかし、上昇のペースは緩やかで、2016年に1.44となっている。この出生率を、出産時の母親の年齢別に見ると、1970~80年代は、20歳代後半での出産が大宗を占めていた。近年、20歳代後半の出生率は徐々に低下しており、それに代わって、30歳代での出産の占率が高まっている。

一方、出生数は、長期的に減少している。人口動態統計(厚生労働省)によると、2016年の出生数は97.7万人と、1899年の統計開始以来、初めて100万人を下回った。第1子出生時の母の平均年齢は上昇しており、2016年には、30.7歳となっている。
図表6. 出産の動向
 
1 15歳から49歳の女性の、年齢別出生率を合計した指標。1人の女性が、平均して一生の間に産む、子どもの数を表す。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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