2017年07月25日

EUと米国の間の再保険規制を巡る動きについて-トランプ政権もカバード・アグリーメントを承認へ-

中村 亮一

文字サイズ

4―今回の発表に対する関係団体の反応

今回の財務省及び米国通商代表部(USTR)からの発表を受けて、関係団体からは、以下の声明が出されている。

1|NAIC(全米保険監督官会議)
これまでカバード・アグリーメントの締結に慎重な意見を示していたNAICは、以下の声明3をリリースして、「米国財務省と米国通商代表部が、州保険規制の優位性を確認し、契約の重要な要素を明確にするつもりであることを評価している。」等と、今回は一定の評価をしている旨を表明している。

ただし、NAICは、「カバード・アグリーメントの正式署名と米国の政策声明の発行に関連して、完全な声明を発表する予定である。」としている。

2017年7月14日
NAICはカバード・アグリーメントに対して声明を発表する

Ted Nickel、NAIC会長、ウィスコンシン州コミッショナーからの声明

NAICは、米国と欧州連合のカバード・アグリーメントについての本日の発表と合わせて、米国財務省と米国通商代表部が、州保険規制の優位性を確認し、契約の重要な要素を明確にするつもりであることを評価している。州は協定に関連した重要な実施責任を負い、解釈の確認により、州の規制当局と議員は、州の法律や規制に対する必要な変更について情報に基づいた評価を行うことができる。 州規制当局は、財務省とUSTRが規制当局と建設的に協力していることに感謝している。 NAICは、カバード・アグリーメントの正式署名と米国の政策声明の発行に関連して、完全な声明を発表する予定である。

2|NAMICNational Association of Mutual Insurance Companies:全米相互保険会社協会)
NAMICは、NAICと同様にこれまでカバード・アグリーメントに慎重なスタンスを示してきたが、今回の発表を受けてのプレス・リリースは行っていないようである。

ただし、NAMICはカバード・アグリーメントについて、例えば31|で紹介したように、繰り返し課題指摘を行ってきており、「消費者、国内の米国保険会社、州保険監督制度に与える潜在的な影響について、引き続き重大な懸念を有している。」とのスタンスを変更していないようである。
3|NCOILNational Conference of Insurance Legislators:全米保険議員協議会
NCOILは、NAIC同様、カバード・アグリーメントに否定的であったが、以下の声明4を発表している。

2017年7月17日
カバード・アグリーメントの財務省署名に関するNCOILのCEOの声明

Manasquan, NJ :Tom Considineコミッショナー、NCOIL CEOは、米国財務省がカバード・アグリーメントに署名するというニュースに基づいて、以下の声明を発表した。

「NCOILはUSTRと財務省が州ベースの保険規制を確認したことを評価する。我々は合意の最終の詳細を見ることを楽しみにしており、さらなるコメントをする予定であるけれども、州監督当局は、財務省とUSTRと協力して、我々の制度がそのままであり、会社が支払能力があり、消費者が引き続き保護されているところで繁栄する準備ができている。」

一方で、Considine会長は、「政策声明は合意を州ベースの規制のサポートと調和させようとする試みになると信じているが、これが可能かどうかについて疑問視している。」と述べている。

4|ACLIAmerican Council of Life Insurers:米国生命保険協会)
ACLIは、以前から、カバード・アグリーメントの締結に賛意を表明していたが、今回の発表を受けて、以下の声明5を公表して、「カバード・アグリーメントの署名をサポートする。」と述べるとともに、「カバード・アグリーメントの実施を支援するために連邦政府機関と協力して作業することを表明している。」としている。

2017年7月14日
ACLIはカバード・アグリーメントの署名をサポートする

米国生命保険協会(ACLI)のDirk Kempthorne会長兼最高経営責任者(CEO)は、米国財務省と米国通商代表部が米国とEUのカバード・アグリーメントに署名するとの発表に関して、以下の声明を発表した。

ワシントンD.C.(2017年7月14日) - 「米国財務省と米国通商代表部が米国とEUのカバード・アグリーメントに署名すると発表したことは、非常に元気付けられるニュースである。」

カバード・アグリーメントは、保険会社及び再保険会社の規制の不確実性を排除し、米国及び欧州連合で事業を行っている企業がこれらの管轄区域で業務を行うことができる条件を定めるものである。また、米国企業が国内外の市場で外国企業と競争し、国際的な金融交渉や会議に米国の利益をもたらし、規制を効率的かつ効果的かつ適切に調整できるようにするという政府の方針と一致している。

ACLIメンバーは、カバード・アグリーメントの確実性から利益を得て、保険契約者の財務的安全を守るためにリソースを捧げることができる。生命保険会社が提供する退職・保険商品を通じて、7,500万人の米国人家族が安全な退職のためによりよく貯蓄を計画、貯蓄、保証することができる。

カバード・アグリーメントは、米国の州ベースの保険規制制度を肯定している。州規制当局は、合意の実施において、重要な役割を果たすであろう。ACLIは、NAICと州の保険監督当局が、カバード・アグリーメントの実施を支援するために連邦政府機関と協力して作業することを賞賛する。

5|RAAReinsurance Association of America:米国再保険協会)
RAAも、以下の声明6をリリースしたが、その中で、上級副社長兼ゼネラルカウンセルであるTracey Laws氏が、「再保険業界は、この合意が両管轄区域で事業を行っている米国及びEUの企業に規制の確実性を提供するため、この合意に拍手喝采を送っている。」と述べている。

さらに、Frank Nutter会長は「米国とEUは、他の管轄区域が従うべき規制協力のモデルを確立している。」と述べている。

2017年7月14日
米国とEUの間のカバード・アグリーメントが実行される

ワシントンDC(2017年7月14日) - 本日、米国財務省と米国通商代表部は、欧州連合(EU)とのカバード・アグリーメント締結の意向を発表した。実際の署名日はまだ決定の過程にある。米国再保険協会の上級副社長兼ゼネラルカウンセルであるTracey Laws氏は、「再保険業界は、この合意が両法域で事業を行っている米国及びEU企業に規制の確実性を提供するため、この合意に拍手喝采を送っている。」とコメントした。

カバード・アグリーメントは適格再保険会社の担保及び現地プレゼンス要件を排除し、両管轄地域で営業している保険会社及び再保険会社のグループ監督要件を合理化している。 署名された契約がなければ、米国企業は、ビジネスを行う予定の各EU加盟国に最初に現地のプレゼンスを確立することなく、EU内で新契約を更新又は引き受けを行うことができなかった。

米国再保険協会のFrank Nutter会長は、「この重要なイニシアチブを進展させるために過去2年間にしっかりと努力してきた連邦政府及び州政府の多くの個人に感謝する。米国とEUは、他の管轄区域が従うべき規制協力のモデルを確立している。」と述べた。

 
6|AIA(American Insurance Association :米国保険協会)
AIAのSVP兼ゼネラルカウンセルのStef Zielezienski 氏は、その声明の中で「健全性問題に関するこの合意は、米国の保険会社と再保険会社に対する差別的な行動を終わらせ、米国の競争力を高め、米国の州ベースの保険規制制度の国際的地位を高める。」、「これは、米国の保険会社及び再保険会社、契約者、監督当局、市場全体にとっての勝利である。」と述べた。さらに、「AIAは、米政府当局が今日までに尽力した努力を高く評価しており、合意の署名と実施を楽しみにしている。」と述べた。
7|IUA(International Underwriting Association:国際アンダーライティング協会)
IUAは、以下の声明7をリリースして、「これは重要な先例を設定し、英国がBrexit後の米国との独自の合意を締結することをはるかに容易にする。この取引には、他の国とのさらなる自由貿易協定のためのテンプレートとして使用できる特定の規定も含まれている。」と述べている。

2017年7月17日
IUAはEU / USのカバード・アグリーメントに署名する意向を歓迎する

IUAは、米国財務省と米国通商代表部による、保険と再保険に関する健全性措置に関する米国とEU間の二国間協定に署名するつもりであるとの発表について、コメントする。

国際アンダーライティング協会のDave Matcham最高経営責任者は、「規制当局間の相互承認の事例を支援する20年が、大西洋の両側の政府の最上級レベルで認められることを嬉しく思う。これは、EUとロンドン市場の両方にとって素晴らしいニュースだ。これは重要な先例を設定し、英国がBrexit後に米国との独自のカバード・アグリーメントを締結することをはるかに容易にする。この取引は、他の国とのさらなる自由貿易協定のためのテンプレートとして使用できる特定の規定も含んでいる。」と述べた。

   

5―まとめ

5―まとめ

以上、EUと米国の間の再保険規制等を巡るカバード・アグリーメントの締結に関する今回の動き及びそれを受けての関係者の反応について報告してきた。

前回のレポートで述べたように、今回のカバード・アグリーメントについては、基本的には「(欧州で事業展開している)グローバルに活躍する(再)保険会社にとっては、欧州での各種障壁の撤廃につながることからメリットがあるものの、(欧州で事業展開していない)大多数の国内保険会社にとっては、再保険担保を失うことになり、デメリットのみが目立つことになる。国内企業を優先する考え方からは、今回のカバード・アグリーメントはネガティブなものとなる。」と考えられていた。過去数ヶ月間の議論を踏まえて、トランプ政権は、結局は、グローバルに活躍している保険会社や監督当局のサイドに立ったとの考え方もできることになる。

実際に、NCOILのConsidine会長は、今回の合意は「ウォールストリートにとってはグレートだが、メインストリートにとってはホリブル(great for Wall Street and horrible for Main Street)」だと称していた。

合意前にはEUの監督当局が米国の州規制制度を機能的に同等であると認識していなかったため、グローバルに活動している米国の(再)保険会社は、資本基準の向上を含め、ソルベンシーIIへの対応のために、潜在的に多額の費用を負担することを余儀なくされる可能性があったが、今回の合意により、それが軽減されることになる。これに対して、米国で活動するEUの(再)保険会社には担保要件の救済措置が提供されることになる。

いずれにしても、今回の発表により、これまで数ヶ月間において、米国の保険業界を2分していた問題に一定終止符が打たれることが期待されることになる。

さらには、前々回のレポートでも述べたように、今回のカバード・アグリーメントの締結により、「EUと米国の(再)保険会社の活躍の機会が拡大していく」ことが期待されることになる。一方で、米国の州規制当局が懸念しているように、真の意味で「(再)保険会社の健全性が維持されて、EUと米国の双方における保険加入者の保護が維持・強化されていく」ということが本当に達成されていくのか、ということについては、今後のEUと米国の監督当局による監視体制等に依存していくことにもなる。

「政府は、今後数週間で協定に署名することに加えて、実施に関する米国の政策声明を発表する予定」であることから、その内容をフォローするとともに、カバード・アグリーメントの詳細やこれを受けた実際の適用がどのような形で進展していくことになるのかについては大変気になるところであることから、今後のNAICや米国の各州及びEU各国の保険監督当局の対応や、米国と欧州の保険会社の対応等について、引き続き注視していくこととしたい。
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

(2017年07月25日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【EUと米国の間の再保険規制を巡る動きについて-トランプ政権もカバード・アグリーメントを承認へ-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

EUと米国の間の再保険規制を巡る動きについて-トランプ政権もカバード・アグリーメントを承認へ-のレポート Topへ