2017年07月14日

景気好調下で弱まる物価の基調~既往の円高と個人消費の弱さが物価を下押し

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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図9 コアコアCPIに対するGDPギャップ、為替レートの弾性値 (GDPギャップの感応度低下、為替の感応度上昇)
このように、足もとの物価の基調の弱さは既往の円高と消費低迷の長期化が重なったことによってもたらされた部分が大きい。

コアコアCPI(前年比)を被説明変数、GDPギャップ(4期移動平均)と名目実効為替レート(前年比、t-2~t-5期)を説明変数として15年間の四半期データを用いてローリング推計を行ったところ、GDPギャップの弾性値が1990~2004年の0.25から2002~2016年の0.07まで低下している一方、-0.05前後で安定していた名目実効為替レートの弾性値は、2010年頃を境としてマイナス幅が急拡大している(図9)。

すなわち、この推計式からは個人消費の低迷長期化を背景にGDPギャップの感応度が趨勢的に低下する一方、輸入浸透度の上昇などから為替の感応度が大幅に上昇していることが読み取れる。
(需給、為替要因による物価押し上げは当面期待できず)
消費者物価の先行きを見通すと、需給要因が消費者物価を大きく押し上げることは当面期待できない。実質GDPは2017年4-6月期以降も潜在成長率を上回る伸びを続けることが予想されるが、個人消費の伸びが実質GDP成長率を下回る状態が続くことが見込まれるためである。名目賃金が伸び悩む中で物価が上昇に転じたことで実質賃金の伸びが低下していることに加え、年金支給額の抑制、社会保険料負担の増加などから実質可処分所得が低迷していることが消費の伸びを抑えるだろう。
図10 為替によるコアコアCPIへの影響試算 また、円高による消費者物価の下押し圧力もしばらく残る可能性が高い。当研究所では、ドル円レートは現在の1ドル=113円程度から2017年度末に115円程度、2018年度末に120円程度と緩やかな円安基調が続くことを想定している。しかし、為替変動の影響が消費者物価に波及するまでにはラグを伴う。前述の推計式に基づけば、円高がコアコアCPIの前年比上昇率を押し下げ始めたのは2016年10-12月期で、押し下げ圧力が最大となる2017年7-9月期には▲0.6%程度(コアコアCPIへの寄与度)までマイナス幅が拡大する(図10)。

ドル円レートは2017年春頃から前年よりも円安水準となっているが、消費者物価の押し下げ幅が縮小に向かうのは2017年10-12月期以降で、押し上げに転じるのは2018年度入り後までずれ込むだろう。このため、現在ほぼゼロ%となっているコアコアCPIの上昇率は当分低空飛行が続く公算が大きい。
図11 コアCPIに対するエネルギーの寄与度 (エネルギー価格の上昇率は2017年度末にかけて急低下)
一方、足もとのコアCPIを押し上げているエネルギー価格は2017年秋頃まで上昇率が高まるだろう。ガソリン、灯油の前年比上昇率は2017年3月をピークに縮小し始めているが、原油価格の動きが遅れて反映される電気代、ガス代は秋頃まで上昇率の拡大が続くためである。現時点では、エネルギーによるコアCPI上昇率の押し上げ寄与は2017年10月に0.5%程度まで拡大すると予想している(図11)。

ただし、1バレル=50ドル台(WTI)まで上昇していた原油価格は足もとでは40ドル台半ばまで低下しており、2017年秋以降はエネルギー価格の上昇率が急速に縮小することが確実となっている。当研究所では、2017年度末に1バレル=50ドル台前半、2018年度末に50ドル台半ばまで上昇することを想定しているが、それでもエネルギーによるCPI上昇率の押し上げ寄与は2017年度末頃には0.2%程度まで縮小するだろう。
(コアCPI上昇率が1%に達するのは2018年度後半か)
コアCPI上昇率は、エネルギー価格の上昇ペース加速を主因として2017年末にかけてゼロ%台後半まで伸びを高めることが予想される。ただし、しばらくは円高による下押し圧力が残るため、上昇ペースに加速感は見られず、エネルギー価格の上昇率が大きく鈍化する2017年度末から2018年度初め頃にかけてはコアCPIの伸びは頭打ちとなるだろう。
図12 コアCPI(生鮮食品を除く総合)の見通し 2017年度中は需給要因が物価を大きく押し上げることは見込めないが、2017年度の企業業績の改善、物価上昇を受けて賃金上昇率が高まることから、2018年度になると個人消費の回復基調が明確となることが予想される。このため、2018年度には需給要因による物価押し上げ圧力が徐々に高まっていくだろう。この結果、コアCPI上昇率は2018年度後半には1%に達することが予想される(図12)。現時点では、年度ベースのコアCPI上昇率は2017年度が前年比0.5%、2018年度が同0.9%と予想している。

ただし、この予想は緩やかな円安と原油価格の上昇を前提としている。ここまで見てきたように、近年の消費者物価はかつてに比べて為替に対する感応度が大きく高まっている。このため、先行きの消費者物価も為替動向に左右されやすい展開が続くだろう。
 
 

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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2017年07月14日「Weekly エコノミスト・レター」)

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