2017年07月11日

2016年度 生命保険会社決算の概要

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――保険業績(全社)

2016年度の全社の保険業績を概観する。

生命保険協会加盟41社全社が、5月までに決算公表したが、41社合計では、新契約高は2.4%増加、保有契約高は0.1%増加となった。これらを、伝統的生保(14社)、外資系生保(15社)、損保系生保(5社)、異業種系生保等(6社)、かんぽ生命に分類し、業績を概観した。(図表-1)
【図表-1】 主要業績
「伝統的生保」(以下、大手中堅9社数値で表示)の新契約高は2.3%の増加(前年度は▲2.2%減少)と、2012年度以来4年ぶりにプラスに転じた。

保有契約高は▲2.4%(前年度は▲2.9%)と引き続き減少した。各社とも解約・失効の防止によって契約継続に努めており、大手中堅9社でも、年度始保有契約高に対する解約失効率は、引き続き改善しているところが多いものの、保有契約高に対する新契約の割合も低いことにより、保有減少となっている。

「外資系生保」は、新契約高が▲0.8%減少(前年度10.5%増加)となったが、保有契約のほうは5.1%と(前年度 2.9%)引き続き増加した。

「損保系生保」は、新契約が12.6%増加と好調(前年度 ▲1.2%減少)で、保有契約は5.7%増加(前年度 4.1%増加)となった。

「異業種系生保等」は新契約が5.0%増加(前年度 4.7%増加)、保有契約は6.4%増加(前年度 8.1%増加)となった。

基礎利益は、1.7%増加(前年度は▲12.8%減少)した。ただし外資系・損保系の会社のうち、再保険収支・準備金積増しの影響により、大幅に増加している会社も含めてのこの増加率であり、41社のうち23社は減少している。
【図表-2】新契約年換算保険料 次に、新契約年換算保険料の状況を見たものが図表-2である(保険のニーズが死亡保障のみならず、医療や年金分野にも拡大しているところから、保険契約高のみでは保険業績を把握しづらくなってきた。この指標は、これらを反映する目的で、年払いに換算した保険料の額で新契約の規模を表示したものである)。40社(かんぽ生命を除く)合計で、個人保険は対前年▲0.6%減少した。(前年度は8.8%増加)

また、個人年金は7.5%の増加(前年度は12.2%増加)となった。

伝統的生保では、新契約高が保障金額ベースでは減少となる一方で年換算保険料ベースでは増加している。これが年換算保険料という指標の効能であり、特に第三分野の状況をみるのに便利である。第三分野については、引き続き進展しており、9.1%の増加(前年度は9.2%増加)となった。

2――大手中堅9社の収支状況

2――大手中堅9社の収支状況

以下で、特に収支上のシェアが大きい大手中堅9社合計の収支状況をみていくことにする。
 
1減少した基礎利益
2016年度までの資産運用環境は図表-3の通りである。国内の株価については、英国のEU離脱問題や、米国大統領選挙などを受けて、一時的に株価が大きく変動することもあったが、終わってみれば日経平均株価で18,909円と前年度末より1割強の上昇となった。
【図表-3】運用環境 国内金利については、2016年はじめから10年国債利回りがマイナスまで低下し、6月頃までさらにマイナス幅が大きくなっていた。その後プラスに転じたが、ほとんど金利ゼロといっていい状況は続いている。

為替については、対米ドルでは、一時期円高が進んでいたものの、ほぼ1年前と同水準で終わった。対ユーロでは欧州政治への警戒感などから、円高に推移した。
図表-4】有価証券含み益(大手中堅9社計) こうした状況を反映して、図表-4に示した通り、国内大手中堅9社で見ると、国内株式の含み益が1.9兆円増加したものの、国内債券の含み益が▲3.4兆円減少し、外国証券含み益も▲1.6兆円減少した。有価証券合計では▲3.1兆円減少した。
【図表-5】基礎利益の状況(大手中堅9社計) そうした中、2014年度の基礎利益は21,598億円、対前年度▲3.6%減少となった。(図表-5)  (基礎利益とは、生命保険会社の基本的な収益力を表わす利益指標で、銀行の業務純益に相当する。保険契約から生みだされる収支や、資産運用損益のうちの利息・配当金等、比較的安定的なものだけを含めており、有価証券の売却損益等は含まない。)逆ざやについては、2013年度に9社合計で利差益に転じた後、拡大し続けていたが、ほぼゼロ金利の状況が長引いている影響もあり、2016年度は減少に転じた。危険差益・費差益は、引き続き減少しており、これは保有契約の減少に伴うものと考えられる。
3利源を公表している7社だけの合計金額を見たものが図表-6である。危険差益は、ほぼ横ばい(前年度 ▲8.3%減少)と下げ止まっているものの苦しい状況にある。先に述べた保有契約の減少による影響がそのまま現れたものと考えられる。一方で危険差益のうち、保有契約高に表れない第三分野商品の利益は、現時点では増加基調にあると推測される(そうした内訳は開示されないので、推測にすぎないが)。
図表-6】3利源の状況(開示7社計) 一方、費差益については、▲26.0%(前年度は▲39.6%減少)と引き続き大きく減少した。費差益とは、簡単に言えば、収入保険料のうち事業費を賄うための付加保険料と、実際の事業費支出の差である。このうち事業費の方は、ほぼ横ばい傾向にあるので、保有契約の減少に伴う付加保険料収入の減少が費差益の減少傾向につながっていると考えられる。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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