2017年07月11日

貸出・マネタリー統計(17年6月)~行き場を無くしたマネーが普通預金に積み上がる

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向: 銀行貸出の伸びは高水準だが、金利は超低水準

7月10日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、6月の銀行貸出(平均残高)の前年比伸び率は3.34%と前月(同3.30%)からわずかに上昇した(図表1)。これはリーマン・ショック後に直接調達市場が機能不全に陥り、銀行貸出需要が高まっていた2009年4月以来の高い伸びということになる。業態別では、都銀等が前年比3.1%(前月は2.9%)と上昇した一方、地銀が前年比3.6%(前月は3.7%)とやや低下した(図表2)。
 
貸出の伸び率は昨年8月(2.0%)を底に順調に上昇基調を続けている。6月も引き続き、M&A向けや不動産向けが牽引役となったほか、以下の通り、円安による外貨建て貸出の円換算額増加が一定寄与したとみられる。企業規模別(5月まで)にみると、今年に入って以降、中小企業向け貸出の伸び率が大きく拡大している(図表3)。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3)貸出先別貸出金/(図表4) ドル円レートの前年比(月次平均)
次に、為替変動等の影響を調整した「特殊要因調整後」の銀行貸出伸び率(図表1)1を見ると、直近判明分である5月の伸び率は前年比3.25%と4月(2.99%)から大きく上昇している。前述の見た目の銀行貸出の伸び率が昨年9月以降に大きく上昇してきた背景には、円高の一巡(図表4)に伴って外貨建て貸出の円換算額が回復したことがあるが、為替変動の影響を除いた実勢としても、持ち直し基調が続いている。

6月分に関しては未判明だが、ドル円レートの前年比が5月よりも円安方向に振れており(図表4、見た目の伸びの上昇要因)、見た目の伸びの為替によるかさ上げ幅はやや拡大したと考えられる。この影響を考慮した6月の特殊要因調整後の伸び率は5月からほぼ横ばいと推測される。
(図表5)国内銀行の新規貸出金利 なお、5月の新規貸出金利については、短期(一年未満)が0.571%(4月は0.593%)、長期(1年以上)が0.709%(4月は0.837%)とそれぞれ低下した(図表5)。単月の振れが大きい指標ではあるが、短期は過去2番目、長期は過去3番目の低水準を記録している。

日銀の長短金利操作のもと、市場金利が極めて低位に抑制されているなか、厳しい競争環境もあって、貸出金利の超低位での推移が継続、銀行収益の圧迫要因となっている。
 
 
1 特殊要因調整後の残高は、1カ月遅れで公表されるため、現在判明しているのは5月分まで。

2.マネタリーベース: 拡大ペースが大きく鈍化

7月4日に発表された6月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通するお金)を示すマネタリーベースの前年比伸び率は17.0%と、前月(同19.4%)から大きく低下した。内訳の日銀当座預金の伸び率が前年比21.3%と前月(24.8%)から大きく低下したことが要因である(図表6・7)。
(図表6) マネタリーベース伸び率(平残)/(図表7) 日銀当座預金残高(平残)と伸び率
マネタリーベースの伸び率は長期にわたって緩やかな低下が継続している。分母にあたる前年の残高が増加していることが伸び率を押し下げている面もあるが、近頃はマネタリーベース自体の拡大ペース鈍化がますます目立ってきている。
(図表8)マネタリーベース残高と前月比の推移 6月末のマネタリーベース残高は前月比12.1兆円増の468.0兆円となったが、6月は季節柄、国債の償還が多いことから日銀当座預金が増加しやすいという事情があり、季節性を除外した季節調整済み系列で見ると前月比1.1兆円減となる(図表8)。前月比でのマイナスは2012年11月以来で、黒田総裁体制下では初のことである。

また、同じく季節性が含まれないマネタリーベース(末残)の前年比増加額を見ると、ピークである2015年9月には86兆円に達していたほか、昨年前半までは概ね80兆円で推移していたが、直近6月は64兆円まで縮小している。近頃、日銀の国債買入れペースが鈍化していることが、マネタリーベースの拡大ペース鈍化という形で現れている。

3.マネーストック: 行き場を無くしたマネーが普通預金に積み上がる

7月11日に発表された6月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比3.9%(前月改定値は3.8%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同3.3%(前月改定値は3.2%)となった(図表9)。マネーストックは昨年半ば以降伸び率を高め、直近にかけて比較的高水準を維持している。貸出の増勢が強まっていることなどが、寄与しているとみられる。
(図表9) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表10) 現金・預金の伸び率
M3の内訳では、現金通貨の伸び率が前年比4.6%(前月改定値は4.4%)と高まったほか、CD(譲渡性預金、前月改定値▲1.7%→当月▲1.2%)と準通貨(定期預金など、前月改定値▲1.6%→当月▲1.4%)が依然として前年割れながらも、それぞれマイナス幅を縮小したことがM3の伸び率拡大に繋がった。なお、普通預金などの預金通貨の伸び率は前年比8.1%(前月改定値も8.1%)と前月から横ばいに。年初の10%台に比べれば縮小したものの、以前として非常に高い伸びが続いている。定期預金や国債などの金利がほぼゼロになって以降、行き場を無くしたマネーが流動性と安全性の高い普通預金に積み上がっている(図表10・11)。
(図表11)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率は前年比3.1%(前月は2.8%)と前月から大きく上昇、昨年10月(1.3%)を底として伸びの回復が続いている(図表9)。

内訳を見ると、投資信託(元本ベース)の伸び率こそ前年比▲0.1%(前月は0.6%)と引き続き低迷しているものの(図表11)、既述のとおりM3の伸び率が前月から上昇したほか、残高規模の比較的大きい金銭の信託(前月改定値1.8%→当月3.0%)がプラス幅を拡大した影響が大きい。また、国債(前月改定値▲7.3%→当月▲4.9%)のマイナス幅縮小や外債(前月改定値3.7%→当月7.0%)の増加も寄与している。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2017年07月11日「経済・金融フラッシュ」)

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