2017年07月04日

年金改革ウォッチ 2017年7月号~ポイント解説:確定拠出年金の運用商品選択支援

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

先月は、今年2月から始まった「確定拠出年金の運用に関する専門委員会」で報告書がまとめられました。企業年金部会では、この報告書を受けて作成された改正法の施行に向けた政省令案や通知案などが確認されました。
 
○社会保障審議会 企業年金部会 確定拠出年金の運用に関する専門委員会
6月6日(第8回)  確定拠出年金の運用に関する専門委員会報告書(案)
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000166999.html  (配布資料)
(報告書) 確定拠出年金の運用に関する専門委員会報告書~確定拠出年金の運用商品選択への支援~
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000166991.pdf
 
○社会保障審議会 資金運用部会
6月15日(第3回)  GPIF改革の施行(10月1日)に伴う政省令等事項の検討、その他
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000167855.html  (配布資料)
 
○社会保障審議会 年金事業管理部会
6月22日(第31回)  日本年金機構の平成28年度業務実績の評価、その他
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000168959.html  (配布資料)
 
○社会保障審議会 年金数理部会
6月28日(第74回)  公的年金財政状況報告-平成27年度-、その他
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000169421.html  (配布資料)
 
○社会保障審議会 企業年金部会
6月30日(第19回)  確定拠出年金法等の一部改正をする法律の施行等、その他
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000169637.html  (配布資料)
 

2 ―― ポイント解説:確定拠出年金の運用商品選択支援

2 ―― ポイント解説:確定拠出年金の運用商品選択支援

先月の企業年金部会では、改正確定拠出年金法の施行に向けて、具体的な商品提供数の上限や指定運用方法の基準が議論されました。本稿では、その背景と議論の結論、今後の課題を確認します。

1|背景:研修を行っても、資産運用に不慣れな人が存在
図表1 加入者の資産配分変更/図表2 提供商品数の分布 確定拠出年金は、提供される運用商品から加入者自らが選択して資産運用し、老後資金を準備する制度です。企業が掛金を出す企業型と、個人が出す個人型(いわゆるiDeCo)があります。

しかし、例えば企業型では個人の意志と関係なく勤務先が用意した制度に加入するため、資産運用に関心が薄い人も加入することになります。そこで、研修(投資教育)の強化などが進められていますが、その効果にはある程度の限界があります。また、提供される運用商品数(選択肢)は増加しており、選択肢が多いと加入者の選択が難しくなる、という指摘もあります。
 
2|対策:提供商品数の上限と指定運用方法の整備
図表3 商品数と不指図の関係/図表4 指定運用方法の基準案 これを受けて、2016年6月に成立した改正法には、提供される運用商品数の上限と、指定運用方法の整備が盛り込まれました。そして今回、来春の施行に向けて具体的な基準が議論されました。

提供商品数の上限は35本と決まりました。これは、提供商品数が36本以上になると、自分で運用商品を選択しない人(不指図者)の割合が高いことが、厚生労働省の調査で分かったためです。

指定運用方法とは、自分で運用商品を選択しない人に適用されるものです。従来は厚生労働省の通知に基づいて行われていましたが、改正法に盛り込まれ、省令等で基準が明示されることになりました。
 
3|課題:「つみたてNISA」のような加入者保護の視点

今回確認された案は、現状追認相当の内容に留まりました。例えば、提供商品数の上限が影響するのは企業型加入者の2.5%程度に留まるとみられ、多くの加入者は改正の影響を受けません。また、指定運用方法の基準案は、労使の判断を尊重した緩やかな内容になっています。

一連の議論では、自分で運用商品を選択しない人が利用する指定運用方法に対して、具体的な要件を定めるべきという意見もありました。しかし、指定運用方法の基準は特定の商品を推奨・除外しない旨を国会審議で答弁している*1ため、今回の改正法の下では具体的な要件を設定できないことが、厚生労働省から説明されました。他方、金融庁が管轄し、来年1月から始まる「つみたてNISA」では、投資の初心者を保護する観点から、手数料水準などに踏み込んだ厳格な要件が設定されています*2

現在の企業型確定拠出年金では、労使合意の下とはいえ、運用商品数の増加が進んだり、手数料が高めの商品が提供商品に追加されるなどの問題が指摘されています。その背景には、金融機関に対する企業の交渉力が弱かったり、中小企業の人事や労務の担当者が従業員代表になる例があることなどが指摘されています。今後の労使合意の場面や次の法改正に向けた議論では、「つみたてNISA」のような加入者保護の視点や加入者保護策の具体化が重要になるでしょう。
 
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2017年07月04日「保険・年金フォーカス」)

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