2017年07月07日

2017・2018年度経済見通し

ニッセイ基礎研REPORT(冊子版) 2017年7月号

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―5四半期連続のプラス成長

2017年1-3月期の実質GDP(2次速報)は、前期比0.3%(前期比年率1.0%)と5四半期連続のプラス成長となった。輸出が前期比2.1%の高い伸びとなり、外需が3四半期連続で成長率を押し上げたことに加え、民間消費、住宅投資、設備投資がいずれも前期比プラスとなり、国内需要が3四半期ぶりに増加した。日本経済は5四半期連続でゼロ%台後半とされる潜在成長率を上回る成長を続けている。2016年度の実質GDP成長率は1.2%と2015年度と変わらなかったが、在庫変動を除く最終需要の伸びが0.9%から1.6%へと高まり、年度内成長率も0.5%から1.3%へ加速した。2016年度の日本経済は見かけの成長率以上に大きく改善した。

2―好調が続く輸出

輸出は長期にわたり横ばい圏の推移が続いてきたが、世界経済の回復を背景に2016年半ば頃から増加傾向が明確となっている。

世界の貿易量は2011年以降、世界経済の成長率を下回る伸びが続いていた(いわゆるスロー・トレード)が、ここにきてスロー・トレードから脱する兆しも見られる。世界経済の成長率は徐々に高まっているものの、その水準は3%台前半と過去平均の4%程度(1980年~)と比較すれば低い伸びにとどまっている。こうした中で世界貿易量の伸びは2016年半ばの1%程度を底に増加ペースが高まり、2017年入り後は4%近くまで伸びを高めている[図表1]。世界貿易の長期停滞は、新興国における貿易財の内生化の進展など構造的な要因も大きいため、足もとの動きだけでスロー・トレードから完全に脱したと判断するのは早計だが、最近の世界経済の回復はIT関連を中心とした製造業サイクルの好転によるところが大きく、このことがグローバルな貿易取引の活発化につながっていると考えられる。
図表1:世界の実質GDPと貿易量の関係
2016年後半以降の日本の輸出の伸びは世界貿易の伸びを上回っている。この背景には日本は世界的に需要が強い情報関連分野の輸出ウェイトが高いことがある。日本銀行の実質輸出の動きを財別に見ると、2016年7-9月期以降、情報関連が輸出全体の伸びを大きく上回っている。

3―在庫は積み増し局面へ

2017年4月の鉱工業生産は前月比4.0%の高い伸びとなり、生産指数の水準は消費税率引き上げ前のピーク(2014年1月)を上回った。輸出が好調を維持していることに加え、ここにきて国内需要が持ち直していることも生産の押し上げに寄与している。

ただし、在庫指数が2016年12月から5ヵ月連続で上昇している点には注意を要する。在庫循環図を確認すると、2016年7-9月期に「在庫調整局面」から「意図せざる在庫減少局面」に移行した後、2017年1-3月期まで3四半期連続で同じ局面に位置したが、2017年4月単月では「在庫積み増し局面」に移行した[図表2]。
図表2:在庫循環図
在庫指数の上昇は企業行動の積極化を反映したものと捉えることも可能だが、その一方で、循環的には景気回復局面の後半に入ったという見方も出来る。最終需要が企業の想定を下回った場合には、これまでよりも在庫が積み上がりやすくなっていることには留意が必要だろう。

4―厳しさを増す家計部門

企業部門の改善傾向が明確となる一方、家計部門は厳しさを増している。実質雇用者報酬は2016年7-9月期の前年比2.9%から2017年1-3月期には同0.7%まで伸びが低下した。名目賃金が伸び悩む中で物価が上昇に転じたことから、実質賃金(一人当たり)は前年比で横ばい圏の推移が続いている。

2017年の春闘賃上げ率が前年並みにとどまったことから、2017年度中は名目賃金の低迷が続く公算が大きい。企業の人手不足感の高さを背景に雇用者数は増加を続けるものの、物価上昇率が徐々に高まる可能性が高いため、2017年度の実質雇用者報酬は2016年度の前年比2.2%から同1.1%へと伸びが大きく低下するだろう。

2018年度は物価上昇率がさらに高まるが、円安や海外経済の回復を追い風とした企業業績の改善、2017年度の物価上昇を受けて名目賃金は所定内給与、特別給与(ボーナス)ともに増加幅が拡大し、実質雇用者報酬は前年比1.5%へと伸びが高まると予想する[図表3]。民間消費は実質雇用者報酬に連動する形で2017年度中は前期比で横ばい圏の動きを続けた後、2018年度に入ってから徐々に伸びを高めるだろう。
図表3:実質雇用者報酬の予測
ただし、個人消費の動向を左右するのは雇用者報酬だけでなく、利子、配当などの財産所得、年金などの社会給付の受け取り、社会保障負担などの支払いを加味した可処分所得の動きである。近年、マクロ経済スライドや特例水準の解消によって年金給付額が抑制されてきたこと、年金保険料率の段階的引き上げなどから、家計の可処分所得は雇用者報酬の伸びを下回り続けている。

2016年の消費者物価上昇率が前年比▲0.1%となったことを受け、2017年度の年金額は前年度から▲0.1%の引き下げとなった。2017年度は物価上昇が確実であり、年金生活者にとっての実質的な手取り額はさらに目減りすることになる。2017年度は勤労者、年金生活者ともに実質所得が低下し、消費を取り巻く環境は厳しさを増しそうだ。

2005年度に開始された年金保険料率の段階的な引き上げは2017年度で打ち止めとなるが、マクロ経済スライドによる年金給付額の抑制は引き続き実施されるため、可処分所得の伸びが雇用者報酬の伸びを下回る状況はその後も継続する。実質可処分所得の伸びは2017年度が前年比0.5%、2018年度が同0.9%となり、実質雇用者報酬の伸びをそれぞれ▲0.6%ポイント下回る[図表4]。2018年度入り後の民間消費は回復基調が徐々に明確になると予想しているが、引き続き雇用者報酬の伸びは大きく下回る可能性が高い。
図表4:雇用者報酬を下回る可処分所得の伸び

5―実質成長率は2017年度1.3%、2018年度1.1%を予想

2017年度は、実質所得の低迷を主因として民間消費は横ばい圏の動きにとどまるが、海外経済の回復や円安の追い風を受けて輸出が増加を続ける中、企業収益が改善し、設備投資の回復基調が明確となるだろう。家計部門(民間消費+住宅投資)が低調に推移する一方、企業部門(輸出+設備投資)が経済成長の牽引役となることが予想される。

2018年度は企業部門の改善が家計部門に波及することが期待される。具体的には2017年度の企業収益の改善や物価上昇を受けて春闘賃上げ率が前年を明確に上回ることから名目賃金の伸びが高まり、民間消費が緩やかな回復に向かうだろう。ただし、民間消費の伸びが高まる一方で、設備投資の伸びが頭打ちとなること、国内需要の回復を背景に輸入の伸びが高まり外需の寄与度が縮小することから、2018年度の成長率は2017年度から若干低下することが予想される。

実質GDP成長率は2017年度が1.3%、2018年度が1.1%と予想する[図表5]。
図表5:実質GDP成長率の推移
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2017年07月07日「基礎研マンスリー」)

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